俯く、あたし。
モモは、どう思っただろう。
「エリー。」
あたしは顔を上げる。
モモは、なぜか不敵な笑み。
「えっ?なぁに?
エリーちゃん、えー、久しぶりに話せて嬉しいの?」
「はっ!!?」
な、な、な、なにキャラ!!?
「えー?どうなの?嬉しいの?」
………Sキャラ?
あたし、たぶん、今……顔赤い………。
マジで何なの!モモって!!
そのモモは、あたしの返事を待っている。
あたしは、もうテンパってしまう。
出来るなら、逃げ出したいくらい。
どうしていいか分からず、黙って頷く。
「可愛いー。」
モモはそう言って、あたしの頬を軽く両手でつねった。
「なに、ひゅんの!?」
「んー……俺も照れ隠しかなぁ?」
“かなぁ”じゃねぇーよ!!!
「エリーって、もしかしてツンデレちゃん?」
……はぁっ!!!?
「俺は、ツンでも、デレでもエリーが好き。」
………っだから!なんで、そう、ストレートに言えちゃうかなぁ!!?
「ばっからないろーー!!」
おおらかな笑顔、
太陽みたいな笑顔のモモ。
いつからだろう。
あたしは、もうモモに夢中で………。
ムカつく事も、イライラする事も、モモがいると それが全部、取るに足らないものになってしまう。
素直になる………あたしには、マジで高いハードルだ。
言えるわけがない。
モモで頭がいっぱい、だなんて
口が腐っても言えないなぁ。
― あっちも、こっちも、ムカつく!!!
路地裏の野良ネコにさえ!! ―
放課後の職員室、
菊りんのネクタイはカエルを散りばめた救いようのない柄で、やっぱり微妙にサイズが合っていない。
ネクタイだけが、今日も不自然にデカイ。
そして、あたしは本日も、捕えられた珍獣であるかのような気分を味わっていた。
溜め息交じりに菊りんが口を開く。
「蒼井〜。いい加減、進路決めてないの、お前だけだぞ。
何をやるにしたって準備ってもんが必要なんだから。」
文化祭のミーティングと、菊りんによる個人面談で、最近のあたしの放課後は潰されている。
……まぁ、進路が曖昧な自分が悪いんだけどさ…。
どちらかが遅くなっても一緒に帰る、というのが何となくあたしとモモの決まり事のようになっていた。
しかし、どちらかが、といっても大概はあたしがミーティングやら、個人面談やらでモモを待たせてしまっている。
進路について熱弁を繰り広げる菊りんのノイズがかかったような不快な声を、ほとんど右から左へ聞き流す。
……早くモモと一緒に帰りたいなぁ…。
ってか、モモは進路って、どうしたんだろ……。
今日、聞いてみよ。
「蒼井?聞いてるか?」
「えっ!?あ、あぁ、はい。」
「………で、どうすんだ?」
「……だ、大学とか?」
菊りんは、大袈裟な溜め息を吐いた。
「自分の進路なんだから、疑問系で答えるなよ……。」
「…すみません……。」
「蒼井の成績なら、それなりの大学は行けるだろうが、もっと上を目指すなら今からじゃ遅いくらいだぞ。」
「……はい。」
あたしは、力なく返事をした。
………さすがに、ヘコむなぁ。
みんな、将来の夢とかって、どうやって見つけるんだろ…………。
自分の教室へ戻ってから、モモが待っている1組の教室へ向かおうとカバンを手にした時、美帆と立花くんが教室に入ってきた。
「はぁ、めんどくせっ。」
立花くんは独り言のように呟いて、さっさと自分のカバンを持って教室を出ていく。
美帆も何だか浮かない顔だ。
「あ、エリ。」
「ん?」
「さっき廊下で百瀬くんから伝言頼まれたんだけど、急用できたから今日は先に帰る、って。」
ぶっきらぼうに、美帆は言った。
「あ、そっか。ありがとう。」
きっと立花くんと、またケンカでもしたのかもしれない。
今は、そっとしておいた方がいいだろう。
美帆の扱い方には、慣れている。
ここで関わると、八つ当たりされかねない。
「じゃ、あたしも帰るね。」
「うん。」
当たり障りなく言って、あたしは教室を後にした。
夕方の空は、滲んだオレンジ色で何となく寂しい気持ちにさせる。
夏の終わりと、秋の始まり。
モモが先に帰っちゃうなんて、珍しいな。
……急用って、何だろ。
でも、まぁ いっか。
ちょうど、買い物に行きたいと思っていたところだ。
修正ペン、リップクリーム…………。
今日は、一人で買い物に行こう。
あたしは、気を取り直して歩く。
修正ペンは100円ショップ、リップクリームは薬局、すべて駅近くで揃う。
先に100円ショップで目的の物を買った。
駅の近くであるせいか、この時間は学生ばかりだ。
100円ショップから薬局までは少し距離がある。
……帰ったら、モモにメールしてみようかな。
進路の事も聞きたいし…。
そんな事を思いながら、前を歩く女子高生4人組を見ていた。
4人1列になって、道を塞いで歩く彼女達。
……こういうのって、同じ高校生からしてもマジ迷惑。
中途半端にゆったりしたペースで歩いてるし。
抜きたくてもジャマで抜けないし。
4人は揃って茶髪、揃って長い髪に緩いパーマ。
何で、気づかないんだろう。
今、この場にいる単なる赤の他人全員から冷めた目で見られている事に。
………超ジャマ。