何か吹っ切れたような、清々しい顔だ。


みんな、いい顔をしている。


普通の高校生がユニフォームを身に付けたとたん、野球の魔物にとりつかれるのだ。


へらへらしていた緊張感の欠片もないこいつらの目が、キリリとつり上がり、背筋が伸びている。


こいつらは、切り替えが凄まじく上手い。


岸野は、特に。


「じゃあ、県立球場に向かう前に、旅館の人にあいさつするから、玄関に集合」


忘れ物するなよ、そう言った岸野は、口調まできびきびしている。


玄関先に大型バスを待たせて、おれたちは旅館の人たちに誠心誠意の気持ちで頭を下げた。






ありがとうございました







スポーツバッグを背負い、バスに乗り込み、おれたちは一言も交わさずにいい緊張感に包まれて、県立球場へ向かった。


白黒をつけるために。


深紅の優勝旗を、手にするために。










県立球場に到着しバスを降りると、1人の女子高生が待っていたかのように、勇気に向かってきた。


「岩崎くん」


白いワイシャツに燕脂色の蝶ネクタイ。


紺色のスカートに、ハイソックス。


1回戦でおれたちに敗北した明成高校の制服だ。


「頑張ってください」


この夏、大活躍の勇気のファンなのだと悟った。


こういう事はよくあって、夏の風物詩みたいなものだったりする。


相澤先輩の時は人だかりができるほどだった。


「どうも」


勇気の無邪気な性格からいってへらへらするのかと思いきや、勇気は冷静な面持ちで真っ直ぐな目をして先を急いだ。


こいつ、すげえ集中してんだ。


背番号8が、やけにでっかく見えた。


夏の陽射しを受けながら、おれたちは3塁側ベンチに入った。