三都くんと一条くんの話



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「はよーざいまーす」

 ガラリ、呑気な声で春風と共に教室へ足を踏み入れる男子生徒。
 始業式もとっくに終わった後に登校してくる彼を、出席するだけ真面目なのか遅刻してきた時点で不真面目だと評価すべきか──どちらとも言えないが、まぁ新学期初日から遅刻などまずまともではない。

 厄介事は避けたい。この一年、どうか深く関わることがありませんように。
 そう祈るのも当然のことで、なにせ彼は──

「三都。お前、このままだと留年するぞ」

「ごめんごめんやっちゃん。成績キープするから留年だけは勘弁!」

「お前なぁ……」

 先生も頭を抱えるほどの問題児で、ほぼ不登校のくせに定期考査では毎度僕を抑えてトップを掻っ攫っていく、僕の憎き相手だからだ。


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「一条くん。一条くん? おーい一条くーん」

 右から聞こえてくるウザ絡みを無視する。
 先生の言葉を聞き逃さないよう右側からの情報を一切遮断し、ノートにペンを走らせる。

「ちょっと一条くん。暇なんだけど。構ってよ」

「うるさい。授業中だから静かにして」

 ちぇーと言いながら机に突っ伏すのは件の問題児、〈三都月兎〉である。みとつきと、呼びづらい。

 今朝方すぐに席替えがあり、一番左の一番後ろ──所謂主人公席をゲットして心の内でガッツポーズを決めた僕だったが、そのすぐ後にこの問題児が隣の席になったのだ。
 授業初日から一限目は体育で三都は当然欠席、二限目の今し方遅刻でやってきたというわけ。隣の席が僕だと分かるやいなや、何故か顔を弾けさせてダル絡みを連発してくる。

 この態度で毎度毎度定期考査のトップ。しかもどの教科を取っても三都が一番。
 解せない。
 自他共に勉強以外の長所が無いと認める僕にとっては、この三都月兎という存在が許せない。

 二年になって初めて同じクラスになり、そして初めて言葉を交わしたのだが、やはり三都月兎は許し得ないやつだということを再認識した。
 授業終わりのチャイムが鳴って、ガバッと起き上がった三都は見ないふりをして号令をかけた。


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「いーちーじょーくーーん」

「…………何」

「初めて返事らしい返事してくれた……!! 三都くん感動……」

 チッと舌打ちして睨むと、三都は慌てて手を振る。

「も〜、そんなに皺寄せてたら折角の可愛い顔台無しだよ?」

「用件無いなら帰るけど」

「わーっごめんって! 今日一緒に遊んで帰りたいなぁって思ったんだけどさ……」

「却下。さよなら」

「いちじょーくん!!」

 三都がぴぃぴぃ言いながら鞄に縋ってくる。必殺・僕のデコピンを披露すると、あうっとのけぞって離れていった。

 ──なんなんだ、人の気も知らずに。

 そもそも三都と僕は今日初めて話した仲じゃないか。僕は以前から勝手にライバル視していた節はある。
 だが三都みたいな、The一軍陽キャですみたいなやつが教室の埃みたいな陰キャの僕を認識してたわけないだろ。

 それがなんで、こんなに構ってくるんだよ。

 苛立ちを隠せずにズカズカ教室の扉まで歩いていくと、不意に扉が開いた。しかも馬鹿みたいな速さで。強さで。
 とんでもない音がした。
 え? 今のでドアレーン無事なの?

「あ。やってもうた。…………三都ぉーー! はよ来いやぁ!!」

 一応ドアを心配しながら、独特なイントネーションの男子が振り向きざまに僕に吠える。
 バチ、と目が合って、顔面蒼白になったのが自覚出来る。

 僕、コイツ、知ってる。

「……なんや、三都ちゃうんかい。びびらしてごめんなぁ、お詫びに茶ぁでもしばかせてくれる?」

 二年B組の関西弁ヤンキー、六島帆高だ。
 身長のせいで上目遣いなはずが、テクノカットのイカつい見た目も相まってとんでもないメンチを切ってるようにしか見えない。
 後ろに控える三人もよく一緒に居るのを見かけるやつらで、この四人が辺りでも有名なヤンキーであることは、もう疑いようがなかった。

「ひゃ、ひゃい…………」

 やっとのことで喉から声を絞り出して出たのは、我ながら情けない返事だった。


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