最近の俺はどうかしている。
「利旺、大問の②教えて、ね?あと3人で当たるから!」
「ああ。(はい、よろこんで!)」
「利旺、5限始まったら起こして〜眠すぎ!昨夜ゲームし過ぎた。部活で走れなくなる〜」
「うん。(かしこまりました♡)」
「利旺、その卵焼きうまそう!焼きそばパンひと口と交換して!」
「食いかけのいらないから。普通にやるよ。(勇崎のかじった焼きそばパン…)」
「利旺、シャー芯1本ちょーだい?無くなっちゃった!あっ!もらったのも折れた!もう1本ちょうだい!」
「4、5本持ってけば?(そうおっしゃらず、ケースごとどうぞ♡)」
" 利旺 " で始まるおねだりが、1日に何度となく繰り出される。
席替えで席が離れてもやってくる。
心の底から嬉しい限りで、毎日俺の頭の中はお花が咲き乱れている。
いちいちデレて、まんまと全部叶えている俺。
クールで、なんでもソツなくこなす、真面目な優等生。成績はいつも上位。
陸上部でもコーチに一目置かれている。
スペック高いね、と言われることも多々ある。
そんな俺が、勇崎翔太の一挙手一投足に完全に踊らされている。
" 利旺ってきちんとしててIQ高いしカッコいい!いつもありがとう!愛してる♡ "
" いくらでも頼ってよ。
翔太のためならなんてことないさ。 "
今のは妄想、でもいつかは実現する予定。
実際は「ありがとなっ!!利旺!!」だ。
そろそろクラスで " 勇崎専用パシ利旺 " というあだ名がつかないように祈っていた頃、勇崎に誘われた。
「利旺〜、今日、ゲーセン行かねぇ?」
……初デートだ!!
即座に脳内にサンバ隊がやって来て踊り狂う。
「部活は?」
「今日、なくなった。お前んとこは水曜だからないだろ?」
「部活なくなるなんて珍しいな。」
「利旺、UFOキャッチャーやろうぜ!」
「俺からな。絶対某うさぎ落とす。あのハイテンション大好きだから!」
勇崎がクレーン台を選んで言った。
クレーン台の横から覗き込み、距離を目視。
慣れた手つきでボタンを操作して2ゲーム目にはゲットした。
「見ろ!神の手だろ!!」
某うさぎを見せびらかしながら、勇崎がえばる。
かたや、利旺の技術は壊滅的だ。
「待て待て待て!なんで同じ台でやるんだよ!
さっき俺が落としたから、もう落ちないって」
「えっ?」と振り返った瞬間クレーンが上がってしまった。1回分の損。
利旺はゲーセン慣れしていない。
「あ〜、でもあそこのカチワレだったら、なんとかなるかも。やってみるか?
俺、他のやつ落としてくるな!」
しばらくして勇崎が戻ってきた。
景品袋がパンパンだ。
サンタにおもちゃをもらった子どものような笑顔が眩しい。
「どうだった?」
「ボウズ…」
「まじかー、いくらつぎ込んだ?」
「1,500円」
「あっちゃー!まぁ、気ぃ取り直して!ガチャやろうぜ!」
勇崎が確実な方に誘う。
そこで利旺が覚醒した。
ガチャBOXの景品を全種類出すという神業を連発する。
「利旺すげぇ!!転売ヤーになれ!!」
「あまり嬉しくない。」
そんな時だった。
クラスでもいわゆるマイルドヤンキー系の男子が二人、絡んできた。
「学校帰りに校則破ってゲーセンかよ?」
一人が勇崎の写真を撮ろうとする。
「お前らも同じことしてんだろ?!」
勇崎は睨みつける。
「同じなわけないじゃん?
サッカー部のエースストライカー様とはね。」
利旺が勇崎の腕を引いた。
自分がその前に立つ。
強い視線。冷たい低い声。
静かに放たれる言葉。
「俺はしがない陸上部員だから撮られても問題ないですよ?
どこにばら撒く気か知らないけど、発信元だってバレない自信あるんですか?」
「チッ、めんどくせーな!」
動揺した二人は捨て台詞を吐いて去って行った。
勇崎が、利旺につかみかかった。
「お前が不利なことに身を晒すなよ!
お前に守られなくったって俺がちゃんとなんとか出来る!」
「…勇崎に怒られるのはツラいな…
いつもみたいに面倒見させてくれよ。
エースストライカーを品行方正なままに出来て良かった。写真はキツイ。」
「いつもとか、別に…っ!
だからっ、写真とか品行方正とか、そのッ…!
えっと!」
勇崎は思ったより緊張していたらしい。
「…まぁ、また卵焼き食わしてくれれば許す!」
ぶすっとしたまま腕組みをする。
「じゃあ、多く作ってきます。」
そんな勇崎を目を細めて見つめた。
「やったー!はっぴー!らっきー!大好っきー!」
コロッと上機嫌になって、腕全体でハートポーズをとる。
「卵焼きが?」
「あ、うん…?!」
勇崎がまばたきを繰り返す。
次の日、クラスメイトたちが勇崎を不気味がっていた。
勇崎が小声でブツブツとぬいぐるみに話しかけているのだ。
真っ直ぐな目で熱くカチワレを見つめている。
「カチワレ…お前のことあの後こっそり取ったけど…いつ利旺に渡しに行けばいいと思う?」
「なぁ。お前は利旺のとこに行きたいよなぁ?
でも、なんか俺は行かれないんだよ。」
「なんでだろう…?
なんかいつもと違うんだ。
嫌とかじゃないんだぜ?
むしろ大好きだし…?!」
「あ〜!!なんか利旺のこと考えるとモゾモゾする!!」
また翌日、クラスメイトたちが利旺を不気味がっていた。
利旺がぬいぐるみと戯れながらブツブツと話しかけているのだ。
抱きしめたり掲げてみたり、とろけるような視線で見つめ続けている。
「カチワレ、お前最高に可愛いな♡」
「よく来たな、もう離さないよ。」
「ずっと大事にするから、俺のそばにいろよ?」
「いつだって守る。絶対泣かせたりなんかしない。」
先程、勇崎が利旺に押し付けて行った物だ。
勇崎は利旺の席までツカツカとやってくると、カチワレを利旺に突きつけた。
「ん」
怒ったような顔をしている。口はへの字で目は合わせない。横を向いて顔を背けて、カチワレを持った右腕だけを突き出している。
戸惑う利旺が
「ん?」
と返すと、
勇崎は
「んっ!!」
と小さなぬいぐるみを押し付けて行ってしまった。
あちこちの机にガタガタと身体をぶつけながら、急いで去っていく。
廊下にたどり着いた勇崎は両膝に手をつき、ゼーゼーと息を切らしている。まるで100メートル走の後のようだ。
息が収まると
「よし!!」と身を起こしてガッツポーズをした。



