ガルドおじさんたちについて歩いていると、緑一色だった森の様子が少しずつ変わってきた。
「あ」
ふと見上げた視界の先に、広い空が顔を出す。
さっきまでは巨大な古木がいっぱいで、お日さまの光も頼りなく葉っぱの隙間からこぼれるだけだったのに、だんだん木々と木々の間隔が広がってきた。足元の獣道も、誰かが整えているのか歩きやすくなっている。
木漏れ日ではなく、ちゃんとした太陽の光が地面を温めていた。
「ガルドおじさん」
「なんだ」
「もうすぐ森の外?」
「ああ。もう少しだ」
「ほんとう!?」
嬉しくなって、ぼくの足が自然と速くなる。
とうとう、本当に森の外へ出るんだ。おばあちゃんが、たくさんの思い出話を聞かせてくれた場所。
いっぱいの人が暮らしていて、家もたくさんあって、そして色々な品物が並ぶお店がある。
それから――。
「……甘いパン」
おばあちゃんが話してくれた、蜂蜜がたっぷりかかった甘いパン。考えただけで、口の中がほんのり甘くなった気がする。
「何だ?」
「ううん!なんでもない!」
まだお昼には少し早いのに、お腹がくうっと鳴りそうになって、慌ててごまかした。
そんなぼくの隣を、ガルドおじさんが大きな足音を立てながら歩いていて、その後ろには、カイルお兄ちゃんをはじめとした騎士さんたちが続いていた。
最初に会ったときは、みんな怖そうだと思った。大きな剣を持っていたし、鎧も着ていたし、魔物と戦っていたから。
でも、こうして一緒に歩いて少し話をしてみると、全然怖くなかった。カイルお兄ちゃんはいっぱい話しかけてくれるし、ほかの騎士さんたちも順番に名前を教えてくれたけど、ただ、一度にたくさん聞いたからまだ全員のお名前は覚えられていない。
「リオ、疲れてないか?」
カイルお兄ちゃんが、ぼくの顔をのぞき込んできた。
「足、痛くないか?」
「だいじょうぶ!」
「本当に? けっこう歩いてるぞ」
「うん!」
ぼくは両手を大きく振って、元気だということを教えてあげる。
いつもおばあちゃんと一緒に、森の中を歩き回って薬草を探していた。だから、このくらいなら平気だ。
だけど、一つだけ問題があるんだ。
「……お腹はちょっと空いた」
「ははっ。そっちは正直だな」
カイルお兄ちゃんが楽しそうに笑った。
後ろにいる騎士団の人たちも同じように笑ってくれた。
「そうだな……砦に戻ったら、まず飯にしよう」
「とりで?」
「ああ。俺たちの家みたいなところだよ」
「騎士さんのお家?」
「まあ、そんなところ」
「ガルドおじさんも住んでる?」
「ああ」
ガルドおじさんが短く答える。
「カイルお兄ちゃんも?」
「もちろん。毎日そこで寝起きしてるぞ」
「みんな一緒のお家に住んでるの?」
「そうだな。でっかい屋敷みたいなもんだ」
「すごい!」
そんなにたくさんの人が、同じところで一緒に暮らしているなんて。
ぼくはずっと、おばあちゃんと二人だったから、うまく想像できない。
「……お家、おっきい?」
「おっきいぞ」
「ぼくのお家より?」
「多分な」
「わぁ……」
どれくらいなんだろう、ぼくが両手をいっぱいに広げたくらい?それより、もっと?もしかしたらおばあちゃんの小さな家を二つ並べたくらいかもしれない。
そんな事を考えながら歩いていると、不意にガルドおじさんが足を止めた。
「リオ」
「ん?」
「もうすぐ森を出るぞ」
「えっ?」
言われて前を見ると、木々の向こうが、嘘みたいに明るかった。
ぼくは嬉しくなって、思わず駆け出した。
「あ、おい。走るな!」
「わぁっ!」
緑の木々の間を抜ける。
そして――ぽんっと、森の外へ飛び出した。
「…………!」
眩しいから、思わず目を細めた。
でも、すぐに両手を下ろして、顔を上げる。
「…………すごい」
――空が、大きかった。
ずっとずっと遠くまで青い。
森の中で見ていた空とは全然違うし、葉っぱも枝も、何にも邪魔しない。
白い雲が、ゆっくり流れていて、遠くには大きな山が見えた。
その手前には、草原がどこまでも広がっている。
「これが……森の外?」
「ああ」
「すごいね、ガルドおじさん!」
ぼくは思わず、振り返った。
「空がいっぱいある!」
「空が……いっぱい?」
カイルお兄ちゃんが笑った。
だけど、本当にそう見えた。
右を見ても、左を見ても、上を見ても空がいっぱいだ。
「……おばあちゃんにも、見せたかったなぁ」
ぽつりと呟き、胸の奥が、少しだけきゅっと痛くなった。
でも、おばあちゃんは、きっと知っていたんだ。ずっと昔、若い頃はいろんな場所を旅したと言っていたから。
この広い空も、この草原も、きっと見た事があるんだ。
「おばあちゃん……ぼくも、いっぱい見てくるね」
おばあちゃんが、森の外へ行きなさいと言ってくれたから、ぼくはもう一度、前を向いた。
▽
そこから少し歩くと、大きな建物が見えてきた。
「…………」
ぼくは足を止め、ぽかんと口を開けたまま、首が痛くなるくらい見上げる。
「…………おっきい」
石でできた大きな壁に、高い塔。そして、何人も一緒に通れそうなくらい大きな門があって、壁の上では、大きな旗が風に揺れている。
「……ガルドおじさん」
「なんだ」
「ここ、お城?」
「砦だ」
「これがお家?」
「……まあ、そういうことになる」
「すっごくお金持ちなんだね!」
「なぜそうなる」
だって、こんなに大きいじゃん。
おばあちゃんの家を二つどころじゃないし、百個くらい入りそうだ。
「ここに、みんな住んでるの?」
「ああ」
「何人?」
「騎士だけでも百人を超える」
「ひゃく!?」
ぼくは思わず大きな声を出した。
百人——そんなにたくさんいるんだ。
ぼくが今まで知っていた人間は、おばあちゃん一人だけだった。
今日だけでガルドおじさんたちに会って、一気に増えたのに、ここには、それよりもっともっとたくさんの人がいるらしい。
「……全員覚えられるかなぁ」
「何をだ?」
「お名前」
「全員覚えるつもりなのか?」
「だって、一緒のお家に住んでるんでしょ?」
「…………」
「お友達のお名前は、ちゃんと覚えなくちゃ」
ガルドおじさんが、なぜか少し変な顔をした。
どうしたんだろう?ぼく、何かおかしなことを言ったかな。
すると、大きな門の前までたどり着いた時だった。
「団長!」
見張りをしていたらしい騎士さんが、こちらへ駆け寄ってくる。
「お戻りでしたか。討伐は――」
そこで、騎士さんの目がぼくに止まった。
「…………」
ぼくも見上げる。
「…………」
「こんにちは!」
元気よく挨拶すると、騎士さんの目がさらに大きくなった。
「……こ、こんにちは」
ちゃんと挨拶を返してくれた。
うん、すごくいい人だ。
でも、その人はすぐにガルドおじさんを見た。
「団長」
「なんだ」
「その……」
ぼくを見て、そして、ガルドおじさんを見る。
また、ぼくを見て言った。
「子供……ですよね?」
「見れば分かる」
「なぜ子供が?」
「森で拾った」
「森で!?」
「正確には保護した」
「どこでです?」
「黒耀の森だ」
「………………は?」
騎士さんの口が開いたままになった。
「入るぞ」
「あ、はい!」
ぎぎぎ、と重い音を立てて大きな門が開く。
ぼくはガルドおじさんの後ろについて、中へ入った。
「わぁ……!」
砦の中も、とっても広かった。
石畳の広い場所では、騎士さんたちが剣を振っている。
馬もいるし、大きな荷物を運んでいる人もいる。
あっちにも人、こっちにも人。
「人がいっぱい……!」
こんなにたくさんの人を、一度に見たのは初めてだった。
ぼくは忙しく首を動かす。
「…………」
でも、みんな、大きい。
右を見ると、大きなおじさん。
左を見ると、こっちにも大きなおじさん。
前を見ると、ガルドおじさんはもっと大きい。
「……男の人ばっかりだね」
「…………まあ、騎士団だからな」
カイルお兄ちゃんが笑った。
「女の人もいるぞ。治癒術師や料理人とか」
「そうなの?」
「ああ。でも騎士は男が多い」
「へぇー」
そうなんだ。
ぼくが感心していると、だんだん周りが静かになってきた。
「…………?」
気づけば、訓練をしていた騎士さんたちが、みんなこっちを見ていた。
というより、ぼくを見ている。なんでだろう?
「…………」
「…………」
「おい、見たか?」
「団長が子供連れてるぞ」
「どこの子だ?」
「まさか団長の……」
「馬鹿、団長は独身だろ」
「じゃあ副団長の隠し子か?」
「なんで俺なんだよ!」
カイルお兄ちゃんが、大きな声で叫んだ。なんだかよく分からない。
でも、こんなに大勢から見られたことなんて、一度もなかった。
ぼくは少しだけ落ち着かなくなって、近くにいたガルドおじさんの黒い外套の端をきゅっと掴んだ。
「どうした」
「…………みんなが、ぼく見てる、から」
小さな声で言ってみると、ガルドおじさんは周りを見回した後、周りに言ってくれた。
「お前ら、仕事の手を止めるな」
「は、はい!」
騎士さんたちは慌てて動き始めた。
剣を振ったり、走ったり、荷物を運んだり――でも、まだちらちらとこっちを見ている。
「ガルドおじさん」
「なんだ」
「ぼく、変な格好してる?」
「いや」
「じゃあ、どうしてみんな見るの?」
「……珍しいんだろう?」
「ぼくが?」
「ああ。この砦には、お前くらい小さな子供はいないからな」
「ああ、そっかぁ」
それなら仕方ない。ぼくだって、初めて見るものはじっと見てしまう。
ぼくはもう一度、砦の中を見回してみると、見たこともないほど、たくさんの人。
あと、知らない所ばかりだった――だからこそ、少しだけ怖くて、わくわくした。
「ここが、ガルドおじさんたちのお家なんだね」
「ああ」
「すごいね」
ぼくが笑うと、ガルドおじさんは一瞬だけ黙った。
「……そうか?」
「うん!」
だって、こんなにたくさんの人がいる場所を、ぼくは知らなかったから。
ここが、今日から少しの間だけ、ぼくがお世話になる場所らしい。
その時のぼくは、まだ知らなかった。
この大きな砦でたくさんの騎士さんたちとこれから毎日、いろんなことが起きることも。
そして――ほんの数日だけのつもりだったこの場所が、いつか、ぼくにとって大切な場所になっていくことに。
「あ」
ふと見上げた視界の先に、広い空が顔を出す。
さっきまでは巨大な古木がいっぱいで、お日さまの光も頼りなく葉っぱの隙間からこぼれるだけだったのに、だんだん木々と木々の間隔が広がってきた。足元の獣道も、誰かが整えているのか歩きやすくなっている。
木漏れ日ではなく、ちゃんとした太陽の光が地面を温めていた。
「ガルドおじさん」
「なんだ」
「もうすぐ森の外?」
「ああ。もう少しだ」
「ほんとう!?」
嬉しくなって、ぼくの足が自然と速くなる。
とうとう、本当に森の外へ出るんだ。おばあちゃんが、たくさんの思い出話を聞かせてくれた場所。
いっぱいの人が暮らしていて、家もたくさんあって、そして色々な品物が並ぶお店がある。
それから――。
「……甘いパン」
おばあちゃんが話してくれた、蜂蜜がたっぷりかかった甘いパン。考えただけで、口の中がほんのり甘くなった気がする。
「何だ?」
「ううん!なんでもない!」
まだお昼には少し早いのに、お腹がくうっと鳴りそうになって、慌ててごまかした。
そんなぼくの隣を、ガルドおじさんが大きな足音を立てながら歩いていて、その後ろには、カイルお兄ちゃんをはじめとした騎士さんたちが続いていた。
最初に会ったときは、みんな怖そうだと思った。大きな剣を持っていたし、鎧も着ていたし、魔物と戦っていたから。
でも、こうして一緒に歩いて少し話をしてみると、全然怖くなかった。カイルお兄ちゃんはいっぱい話しかけてくれるし、ほかの騎士さんたちも順番に名前を教えてくれたけど、ただ、一度にたくさん聞いたからまだ全員のお名前は覚えられていない。
「リオ、疲れてないか?」
カイルお兄ちゃんが、ぼくの顔をのぞき込んできた。
「足、痛くないか?」
「だいじょうぶ!」
「本当に? けっこう歩いてるぞ」
「うん!」
ぼくは両手を大きく振って、元気だということを教えてあげる。
いつもおばあちゃんと一緒に、森の中を歩き回って薬草を探していた。だから、このくらいなら平気だ。
だけど、一つだけ問題があるんだ。
「……お腹はちょっと空いた」
「ははっ。そっちは正直だな」
カイルお兄ちゃんが楽しそうに笑った。
後ろにいる騎士団の人たちも同じように笑ってくれた。
「そうだな……砦に戻ったら、まず飯にしよう」
「とりで?」
「ああ。俺たちの家みたいなところだよ」
「騎士さんのお家?」
「まあ、そんなところ」
「ガルドおじさんも住んでる?」
「ああ」
ガルドおじさんが短く答える。
「カイルお兄ちゃんも?」
「もちろん。毎日そこで寝起きしてるぞ」
「みんな一緒のお家に住んでるの?」
「そうだな。でっかい屋敷みたいなもんだ」
「すごい!」
そんなにたくさんの人が、同じところで一緒に暮らしているなんて。
ぼくはずっと、おばあちゃんと二人だったから、うまく想像できない。
「……お家、おっきい?」
「おっきいぞ」
「ぼくのお家より?」
「多分な」
「わぁ……」
どれくらいなんだろう、ぼくが両手をいっぱいに広げたくらい?それより、もっと?もしかしたらおばあちゃんの小さな家を二つ並べたくらいかもしれない。
そんな事を考えながら歩いていると、不意にガルドおじさんが足を止めた。
「リオ」
「ん?」
「もうすぐ森を出るぞ」
「えっ?」
言われて前を見ると、木々の向こうが、嘘みたいに明るかった。
ぼくは嬉しくなって、思わず駆け出した。
「あ、おい。走るな!」
「わぁっ!」
緑の木々の間を抜ける。
そして――ぽんっと、森の外へ飛び出した。
「…………!」
眩しいから、思わず目を細めた。
でも、すぐに両手を下ろして、顔を上げる。
「…………すごい」
――空が、大きかった。
ずっとずっと遠くまで青い。
森の中で見ていた空とは全然違うし、葉っぱも枝も、何にも邪魔しない。
白い雲が、ゆっくり流れていて、遠くには大きな山が見えた。
その手前には、草原がどこまでも広がっている。
「これが……森の外?」
「ああ」
「すごいね、ガルドおじさん!」
ぼくは思わず、振り返った。
「空がいっぱいある!」
「空が……いっぱい?」
カイルお兄ちゃんが笑った。
だけど、本当にそう見えた。
右を見ても、左を見ても、上を見ても空がいっぱいだ。
「……おばあちゃんにも、見せたかったなぁ」
ぽつりと呟き、胸の奥が、少しだけきゅっと痛くなった。
でも、おばあちゃんは、きっと知っていたんだ。ずっと昔、若い頃はいろんな場所を旅したと言っていたから。
この広い空も、この草原も、きっと見た事があるんだ。
「おばあちゃん……ぼくも、いっぱい見てくるね」
おばあちゃんが、森の外へ行きなさいと言ってくれたから、ぼくはもう一度、前を向いた。
▽
そこから少し歩くと、大きな建物が見えてきた。
「…………」
ぼくは足を止め、ぽかんと口を開けたまま、首が痛くなるくらい見上げる。
「…………おっきい」
石でできた大きな壁に、高い塔。そして、何人も一緒に通れそうなくらい大きな門があって、壁の上では、大きな旗が風に揺れている。
「……ガルドおじさん」
「なんだ」
「ここ、お城?」
「砦だ」
「これがお家?」
「……まあ、そういうことになる」
「すっごくお金持ちなんだね!」
「なぜそうなる」
だって、こんなに大きいじゃん。
おばあちゃんの家を二つどころじゃないし、百個くらい入りそうだ。
「ここに、みんな住んでるの?」
「ああ」
「何人?」
「騎士だけでも百人を超える」
「ひゃく!?」
ぼくは思わず大きな声を出した。
百人——そんなにたくさんいるんだ。
ぼくが今まで知っていた人間は、おばあちゃん一人だけだった。
今日だけでガルドおじさんたちに会って、一気に増えたのに、ここには、それよりもっともっとたくさんの人がいるらしい。
「……全員覚えられるかなぁ」
「何をだ?」
「お名前」
「全員覚えるつもりなのか?」
「だって、一緒のお家に住んでるんでしょ?」
「…………」
「お友達のお名前は、ちゃんと覚えなくちゃ」
ガルドおじさんが、なぜか少し変な顔をした。
どうしたんだろう?ぼく、何かおかしなことを言ったかな。
すると、大きな門の前までたどり着いた時だった。
「団長!」
見張りをしていたらしい騎士さんが、こちらへ駆け寄ってくる。
「お戻りでしたか。討伐は――」
そこで、騎士さんの目がぼくに止まった。
「…………」
ぼくも見上げる。
「…………」
「こんにちは!」
元気よく挨拶すると、騎士さんの目がさらに大きくなった。
「……こ、こんにちは」
ちゃんと挨拶を返してくれた。
うん、すごくいい人だ。
でも、その人はすぐにガルドおじさんを見た。
「団長」
「なんだ」
「その……」
ぼくを見て、そして、ガルドおじさんを見る。
また、ぼくを見て言った。
「子供……ですよね?」
「見れば分かる」
「なぜ子供が?」
「森で拾った」
「森で!?」
「正確には保護した」
「どこでです?」
「黒耀の森だ」
「………………は?」
騎士さんの口が開いたままになった。
「入るぞ」
「あ、はい!」
ぎぎぎ、と重い音を立てて大きな門が開く。
ぼくはガルドおじさんの後ろについて、中へ入った。
「わぁ……!」
砦の中も、とっても広かった。
石畳の広い場所では、騎士さんたちが剣を振っている。
馬もいるし、大きな荷物を運んでいる人もいる。
あっちにも人、こっちにも人。
「人がいっぱい……!」
こんなにたくさんの人を、一度に見たのは初めてだった。
ぼくは忙しく首を動かす。
「…………」
でも、みんな、大きい。
右を見ると、大きなおじさん。
左を見ると、こっちにも大きなおじさん。
前を見ると、ガルドおじさんはもっと大きい。
「……男の人ばっかりだね」
「…………まあ、騎士団だからな」
カイルお兄ちゃんが笑った。
「女の人もいるぞ。治癒術師や料理人とか」
「そうなの?」
「ああ。でも騎士は男が多い」
「へぇー」
そうなんだ。
ぼくが感心していると、だんだん周りが静かになってきた。
「…………?」
気づけば、訓練をしていた騎士さんたちが、みんなこっちを見ていた。
というより、ぼくを見ている。なんでだろう?
「…………」
「…………」
「おい、見たか?」
「団長が子供連れてるぞ」
「どこの子だ?」
「まさか団長の……」
「馬鹿、団長は独身だろ」
「じゃあ副団長の隠し子か?」
「なんで俺なんだよ!」
カイルお兄ちゃんが、大きな声で叫んだ。なんだかよく分からない。
でも、こんなに大勢から見られたことなんて、一度もなかった。
ぼくは少しだけ落ち着かなくなって、近くにいたガルドおじさんの黒い外套の端をきゅっと掴んだ。
「どうした」
「…………みんなが、ぼく見てる、から」
小さな声で言ってみると、ガルドおじさんは周りを見回した後、周りに言ってくれた。
「お前ら、仕事の手を止めるな」
「は、はい!」
騎士さんたちは慌てて動き始めた。
剣を振ったり、走ったり、荷物を運んだり――でも、まだちらちらとこっちを見ている。
「ガルドおじさん」
「なんだ」
「ぼく、変な格好してる?」
「いや」
「じゃあ、どうしてみんな見るの?」
「……珍しいんだろう?」
「ぼくが?」
「ああ。この砦には、お前くらい小さな子供はいないからな」
「ああ、そっかぁ」
それなら仕方ない。ぼくだって、初めて見るものはじっと見てしまう。
ぼくはもう一度、砦の中を見回してみると、見たこともないほど、たくさんの人。
あと、知らない所ばかりだった――だからこそ、少しだけ怖くて、わくわくした。
「ここが、ガルドおじさんたちのお家なんだね」
「ああ」
「すごいね」
ぼくが笑うと、ガルドおじさんは一瞬だけ黙った。
「……そうか?」
「うん!」
だって、こんなにたくさんの人がいる場所を、ぼくは知らなかったから。
ここが、今日から少しの間だけ、ぼくがお世話になる場所らしい。
その時のぼくは、まだ知らなかった。
この大きな砦でたくさんの騎士さんたちとこれから毎日、いろんなことが起きることも。
そして――ほんの数日だけのつもりだったこの場所が、いつか、ぼくにとって大切な場所になっていくことに。



