鷹山家の女中たちは、明るく誠実で、よく働く人ばかりだった。唯菜も好印象を抱いたほどだ。女学校の陰湿な女子たちとは比べものにならないくらい、皆、優しく親切だった。
特に唯菜が親しくなったのは小春という少女だった。栗色の髪が印象的な少女だった。
小春「唯菜はすごいね。家事も掃除も何もかも完璧ね。」
と小春は無邪気に笑った。
小春「今度、私にも大福食べさせてくれる?」
唯菜「当主さまの許可が降りればね。」
小春「ケチー。」
そんなたわいもない会話をしていると、年配の女中が、
年配の女中「ほらほら、お喋りばっかりして怠けてないで、働いた、働いた。」
と急かした。そういう女中も笑顔で、やはり明るい。
台所で鬼饅頭を蒸していると、サツマイモの甘い香りが鼻をくすぐった。出来立ての鬼饅頭をお皿に乗せ、当主さまの書斎へ向かうと戸をノックする。
唯菜「鬼饅頭が蒸しあがりました。」
満「おお。一度食べてみたかったんだよね。」
満は瞳を輝かせ、立ち上がり戸を開ける。
満「わー。美味しそう。」
唯菜(ここにいる人は、皆明るい人ばかり。私まで明るい気持ちになれる。)
満足そうに鬼饅頭をほおばる満を見て、唯菜は思わず小春の要望を口にしようとした。
唯菜「あの…鬼饅頭、かなり大量に作ったんですよ。」
しかし、そこで既に唯菜が口にするまでもなかった。
満「ああ、じゃあ女中も含めて皆で食べなきゃね。幸せは分かち合わなきゃ。」
唯菜「…ありがとうございます。」
小春「うんまーっ。」
と小春は鬼饅頭片手に満足気だった。
小春「ねぇねぇ、光さまに届けにいかない?」
光さま、という言葉が出てきたことで唯菜は戸惑った。
唯菜「それは…その…。」
小春「唯菜って、光さまの婚約者だったんでしょ?今はもう嫌いなの?」
唯菜「婚約者って、何処でそんな話を。」
小春「そのくらいの噂、鷹山家の女中なら皆知ってるよ?」
確かに。知らない方が不自然かもしれない。
小春「どうして婚約者だった人が女中に成り下がったのかまでは知らないけど、好きだから、婚約に同意したんでしょ?恋はしなかったの?」
暗闇の中、影を切る光に、確かに唯菜は恋をした。でも、そんなことを思い出しても、過去のことだ。
小春「愛されるのは許されなくても、恋するのは自由だと思うよ。私も光さまのことは好きだし。恋してる?かな。だって、あんなに光輝く美しさを持つ男性なんて、なかなかいないもん。誰だって恋しちゃうって!」
唯菜「…迷惑じゃないかな。」
小春「何でそうなるの?」
小春は純粋に不思議がっている。
小春「もし、唯菜がまだ光さまに恋をしているのなら、そのことを伝える価値は十分あると思うよ。だって光さまの方だって一度は婚約を受け入れたんだから、唯菜に気がなかったわけではないんじゃない?」
唯菜「…。」
返す言葉が見つからない。すると小春は決心したように立ち上がった。
小春「よし。私が当主さまに、光さまが住んでる離れを訪問していいかどうか、聞いてきてあげる!」
唯菜「えぇ…女中の身分だし。」
小春「この鬼饅頭作ったのは唯菜でしょ?作った本人が届けて何が悪いの。」
気持ちが定まっていない唯菜を置いて、小春は満の書斎へと駆け出していった。
満の返事は二つ返事で「いいよ。」とのことだった。
小春に背中を押され、唯菜は鬼饅頭をお盆に乗せて、恐る恐る離れへと足を運んだ。ここの所、光は屋敷に籠っていると聞く。その姿を最後に目にしたのは、いつだっただろう。
玄関口で、安江がため息をつきながら箒をはいていた。
安江「あら。唯菜さま。お久しぶりです。」
唯菜が、どう返事を返したらいいのか分からず黙っていると、安江はこう言った。
安江「鬼饅頭ですか?坊ちゃまはあいにく、女学校の方に行かれてるんですよ。最近影切りの役目を怠っていた為、影が増え過ぎてしまったようで…。」
唯菜は居ても立っても居られず、鬼饅頭を安江に渡し、女学校の方へと走り出した。まだ日が完全に落ちてはいない。
校庭で光は舞うように刀を振るっていた。
唯菜(美しい…。)
その行為が、命と代償であっても。いや、だからこそ美しいとも言えるのだろうか。
刀を鞘に収め、光は唯菜の存在に気づいた。
唯菜「私は恋してしまいました。」
唯菜の言葉に、光は大きく目を見開いた。
唯菜「光さまのことが、今でも変わらず好きです。この気持ちは生涯変わりません。」
それだけ言い残し、身をひるがえした唯菜。光は手を伸ばしていたが唯菜を留めることはできず、何とも言えない表情をした。
姫那「光さま!この新しい着物は、どうです?私に似合っています?」
相変わらず姫那の散財は止まっていない。光は姫那を適当にあしらい、
光「休む。」
とだけ言って、部屋に籠った。
姫那「もうっ。つれない御方。」
と姫那は頬を膨らませながらも、新しい着物を手に笑顔を見せていた。
安江「坊ちゃま、唯菜さまが夕方、鬼饅頭を持ってこられたんですよ。」
光は鬼饅頭を見て、唯菜の顔を思い出した。
安江「そろそろ、唯菜さまに向き合ってはいかがですか?恋焦がれて苦しむ二人のお姿、この安江見過ごすわけには参りませんので。」
光はふっと笑った。
光「恋焦がれて、か。」
特に唯菜が親しくなったのは小春という少女だった。栗色の髪が印象的な少女だった。
小春「唯菜はすごいね。家事も掃除も何もかも完璧ね。」
と小春は無邪気に笑った。
小春「今度、私にも大福食べさせてくれる?」
唯菜「当主さまの許可が降りればね。」
小春「ケチー。」
そんなたわいもない会話をしていると、年配の女中が、
年配の女中「ほらほら、お喋りばっかりして怠けてないで、働いた、働いた。」
と急かした。そういう女中も笑顔で、やはり明るい。
台所で鬼饅頭を蒸していると、サツマイモの甘い香りが鼻をくすぐった。出来立ての鬼饅頭をお皿に乗せ、当主さまの書斎へ向かうと戸をノックする。
唯菜「鬼饅頭が蒸しあがりました。」
満「おお。一度食べてみたかったんだよね。」
満は瞳を輝かせ、立ち上がり戸を開ける。
満「わー。美味しそう。」
唯菜(ここにいる人は、皆明るい人ばかり。私まで明るい気持ちになれる。)
満足そうに鬼饅頭をほおばる満を見て、唯菜は思わず小春の要望を口にしようとした。
唯菜「あの…鬼饅頭、かなり大量に作ったんですよ。」
しかし、そこで既に唯菜が口にするまでもなかった。
満「ああ、じゃあ女中も含めて皆で食べなきゃね。幸せは分かち合わなきゃ。」
唯菜「…ありがとうございます。」
小春「うんまーっ。」
と小春は鬼饅頭片手に満足気だった。
小春「ねぇねぇ、光さまに届けにいかない?」
光さま、という言葉が出てきたことで唯菜は戸惑った。
唯菜「それは…その…。」
小春「唯菜って、光さまの婚約者だったんでしょ?今はもう嫌いなの?」
唯菜「婚約者って、何処でそんな話を。」
小春「そのくらいの噂、鷹山家の女中なら皆知ってるよ?」
確かに。知らない方が不自然かもしれない。
小春「どうして婚約者だった人が女中に成り下がったのかまでは知らないけど、好きだから、婚約に同意したんでしょ?恋はしなかったの?」
暗闇の中、影を切る光に、確かに唯菜は恋をした。でも、そんなことを思い出しても、過去のことだ。
小春「愛されるのは許されなくても、恋するのは自由だと思うよ。私も光さまのことは好きだし。恋してる?かな。だって、あんなに光輝く美しさを持つ男性なんて、なかなかいないもん。誰だって恋しちゃうって!」
唯菜「…迷惑じゃないかな。」
小春「何でそうなるの?」
小春は純粋に不思議がっている。
小春「もし、唯菜がまだ光さまに恋をしているのなら、そのことを伝える価値は十分あると思うよ。だって光さまの方だって一度は婚約を受け入れたんだから、唯菜に気がなかったわけではないんじゃない?」
唯菜「…。」
返す言葉が見つからない。すると小春は決心したように立ち上がった。
小春「よし。私が当主さまに、光さまが住んでる離れを訪問していいかどうか、聞いてきてあげる!」
唯菜「えぇ…女中の身分だし。」
小春「この鬼饅頭作ったのは唯菜でしょ?作った本人が届けて何が悪いの。」
気持ちが定まっていない唯菜を置いて、小春は満の書斎へと駆け出していった。
満の返事は二つ返事で「いいよ。」とのことだった。
小春に背中を押され、唯菜は鬼饅頭をお盆に乗せて、恐る恐る離れへと足を運んだ。ここの所、光は屋敷に籠っていると聞く。その姿を最後に目にしたのは、いつだっただろう。
玄関口で、安江がため息をつきながら箒をはいていた。
安江「あら。唯菜さま。お久しぶりです。」
唯菜が、どう返事を返したらいいのか分からず黙っていると、安江はこう言った。
安江「鬼饅頭ですか?坊ちゃまはあいにく、女学校の方に行かれてるんですよ。最近影切りの役目を怠っていた為、影が増え過ぎてしまったようで…。」
唯菜は居ても立っても居られず、鬼饅頭を安江に渡し、女学校の方へと走り出した。まだ日が完全に落ちてはいない。
校庭で光は舞うように刀を振るっていた。
唯菜(美しい…。)
その行為が、命と代償であっても。いや、だからこそ美しいとも言えるのだろうか。
刀を鞘に収め、光は唯菜の存在に気づいた。
唯菜「私は恋してしまいました。」
唯菜の言葉に、光は大きく目を見開いた。
唯菜「光さまのことが、今でも変わらず好きです。この気持ちは生涯変わりません。」
それだけ言い残し、身をひるがえした唯菜。光は手を伸ばしていたが唯菜を留めることはできず、何とも言えない表情をした。
姫那「光さま!この新しい着物は、どうです?私に似合っています?」
相変わらず姫那の散財は止まっていない。光は姫那を適当にあしらい、
光「休む。」
とだけ言って、部屋に籠った。
姫那「もうっ。つれない御方。」
と姫那は頬を膨らませながらも、新しい着物を手に笑顔を見せていた。
安江「坊ちゃま、唯菜さまが夕方、鬼饅頭を持ってこられたんですよ。」
光は鬼饅頭を見て、唯菜の顔を思い出した。
安江「そろそろ、唯菜さまに向き合ってはいかがですか?恋焦がれて苦しむ二人のお姿、この安江見過ごすわけには参りませんので。」
光はふっと笑った。
光「恋焦がれて、か。」



