影に咲く恋、光に散る命【シナリオ】

光「和菓子屋で働き続けたい?」
真っ直ぐに光を見つめ、唯菜は答えた。
唯菜「はい。どんな時でも、誰かの役に立つ存在でありたいんです。」
光「私の為に手料理を用意するだけで、既に私の役に立っているぞ。」
唯菜は首を横に振って、譲らなかった。光はため息をつく。

本家で父の満と対面した光は愚痴をこぼした。
光「危険な考え方だと思いませんか。」
満「受け取り方次第じゃないの。それより、影が増えていることに私は強い危機感を覚えている。女学校の敷地を超えているみたいだ。何処かで影生みの刀が動いてるんじゃないかなぁ。」

光が影を切りに夜外に出る度、唯菜は後を追いかけた。安江は止めなかった。
暗闇の中、刀を振るう光の姿は、それはそれは唯菜の目に美しく映った。
唯菜「お疲れ様です。」
光「また後を付けてきたのか。」
刀を収めた光は渋い顔をした。
光「危険だから来るなと何度言えば分かるんだ。」

帰宅した光は、唯菜が寝静まったのを確認して、安江を𠮟りつけた。
光「唯菜が家を出て行かないよう、しっかり見張っておけ。」
安江「そうは言いましても、唯菜さまは和菓子屋で働くのを諦めておりませんし。」
光「昼はまだ良い。夜の話をしてるんだ。私の後を付けてこぬよう、家に留めておけ。」
安江「じゃあ、お昼は自由に外出させていいんですね?」
光はムッとした表情になる。
光「唯菜は私だけのものにしたい。」
安江「独占欲が強いのもほどほどにしませんと。嫌われますわよ。」

翌朝、唯菜はにこにことした表情で和菓子屋へ出向いた。光は渋い顔をしながらも、了承してくれた。
安江「お気をつけて。」
光「帰りに大福を三十個持ち帰るんだぞ。」
光が付けた条件に、唯菜は思わず吹き出す。
唯菜「そんなに食べては病になります。」
光「私の分だけではない。本家にも届けたい。」
唯菜「なるほど。」

唯菜が上機嫌で饅頭を蒸していると、店主がすっとんきょうな声を上げた。
店主「あらまぁ、また来て下さったんですか。」
唯菜が顔を上げると、見覚えのある丸眼鏡の男性が立っていた。
神楽「今日は赤飯饅頭を六十個ほど。」
店主「まいどあり!しかし毎日毎日和菓子をそんなに大量に買って、お金が尽きないとはお客さんはかなりの富豪とみた。」
唯菜が店主の耳元で囁く。
唯菜「よくみえる方なんですか?」
店主「ここ最近の常連さんさ。」
神楽「唯菜さん、お久しぶりですね。私のことは忘れてしまいましたか?西園寺神楽です。」
そこで唯菜は初めて客が姫那の婚約者であることに気づいた。
神楽「鷹山家に嫁ぐと決めたそうですね、姫那から聞きました。」
姫那は幸せになれたのだろうか。
唯菜「…姫那は元気にしていますか。」
神楽「それが、うちに嫁いでからというもの姫那の体調は芳しくないんです。」
唯菜「え?」
予想外の返事だった。姫那のことだ。今頃西園寺家でふんぞり返って女中をこき使っている所を想像していた。仲の良い間柄ではなかったが、姉妹なので体調が芳しくないと言われると心配になる。
神楽「唯菜さまの方から、我が家に見舞いに来て頂けるとありがたいんですが。姫那もきっと新しい環境で疲労してのではと私は心配しているんですよ。」

和菓子屋での仕事が終わった後、唯菜は西園寺家へ向かった。鷹山家と同様かなりの敷地面積を持つ豪邸だった。姫那は床の中でうなされていた。
唯菜「姫那、しっかりして。」
神楽(七塚家の娘は、本当に愚かで健気なものだ…。)

すっかり日が暮れていた。夕時までには家に戻ると約束したのに、光も安江も心配しているかもしれない。
神楽「家まで送りますよ。貴方は私の大事な妻の姉なのだから。」
その言葉に甘えて、唯菜は家まで送ってもらうことにした。

唯菜「遅くなりました。」
神楽と共に帰宅した唯菜を目の前に、光は刀を抜いた。
神楽「おやぁ。」
唯菜「ちょっ、ちょっと刀をしまって下さい光さま。西園寺さまは私をわざわざ送って下さったんですよ?」
光「こいつは影生みの刀の持ち主だ。」
唯菜「影生みの刀?」
神楽はとぼけたような声を上げる。
神楽「はてさて。何の事だかさっぱりです。私は失礼しますね。」

光はかなり不機嫌そうだった。
唯菜「あの…そもそも影って何なんですか?」
光「負の感情だ。誰かを殺したいとか、蹴落としたいとか、そういうものは女学校に集まりやすい。」
唯菜「それで、影生みの刀とは?」
光「私の刀と対になって生まれた刀だ。影切りの刀が影を切れるのに対し、影生みの刀は影を生むことができる。」
そこで光は表情を緩めた。
光「…話過ぎたな。今日はもうゆっくりとお休み。」

しかし、その日の深夜になってまた光は外を出て行くようだった。
安江「唯菜さま、起こしてしまいましたか。」
いつものように光の後を追おうとした唯菜の肩に手を置く。
安江「今日の所は、お休み下さいませ。坊ちゃまが心配なされます。」
しかし唯菜は従わなかった。
安江「やれやれ。」

木陰から光の様子を伺っていた唯菜に、後ろから思わぬ声が飛んできた。
神楽「止めなくていいんですか?」
唯菜はふいをつかれて振り向いた。神楽だった。
神楽「本当に、見ているだけで良いんですか?影切りの刀を振るう度に、彼の命は削られていくというのに。」
唯菜(——え?)