影に咲く恋、光に散る命【シナリオ】

桜舞い散る闇夜の中で、影切る貴方に恋してしまった私は罪でしょうか——。
目が覚めると、布団の中にいた。
安江「お目覚めですか。」
その日は安江が用意した朝食を取った。光の姿はなかった。
唯菜「…お世話になりました。」
何事もなかったかのように、鷹山家の離れを後にする。
唯菜(全部、夢だったんだ。全部、夢。)
空を見上げると、どんよりとした雲が立ち込めていた。

唯菜「お父さま。」
父は新聞を読みながら煙草をふかしていた。
父「なんだ。」
唯菜「私はやはり女学校を辞めます。また家の手伝いをしながら、和菓子屋に勤めたいと思っています。」
姫那「やっと、お姉ちゃんも自分の身の程というものが分かった!?」
姫那は満足そうに、にやりと笑った。
唯菜は何も言い返すことができず、膝を着き、深々と頭を垂れた。

店主「おやぁ、唯菜ちゃん!これまたどうしたんだい?女学校に通うことになったと聞いていたが。」
唯菜「また働かせてもらえますか。」
店主「そいつは私にとっちゃ願ったり叶ったりだけど…いいのかい?」
唯菜「はい。父には既に許可をもらっています。」
練り菓子の形を整えていると、店主は上機嫌で笑いかけてきた。
店主「唯菜ちゃんがいなくなってから、砂糖の塩梅が分からなくて困ってたんだ。常連さんからも不評でねぇ。店畳まなきゃいけないかも、ってくらい売上が落ちちゃってたんだよ。」
ここでは自分の存在を必要とされているかと思うと、はにかむしかなかった。
家に帰ってからは、夕食にすき焼きを用意した。その日は姫那の誕生日で、西園寺も家に訪れているようだった。客間からは姫那のはしゃぐ声が聞こえる。休む間もなく湯を沸かし、客間に布団を敷き、どっと疲れが押し寄せた所でようやく布団の中に潜り込んだ。外からは夕立の気配がした。

翌日、外は土砂降りの雨だった。唯菜は朝食と姫那のお弁当を用意し、家の掃除を一通り済ませると傘をさして和菓子屋へ向かった。
唯菜「雨って憂鬱ですねぇ。」
なんてぼやいていると、店主も同意するようにため息をついた。
店主「客足も少ないからねぇ。」
ため息が重なる。
その時だった。小さな老婆が暖簾をくぐって店内に入って来た。よく見ると、それは安江ではないか。
安江「ここにいらっしゃいましたか、唯菜さま。」
姫那「安江さん!」
店主「おや。顔見知りかい?」
鷹山家の存在は忘れるつもりだった。もう女学校も辞めたのだ。会う機会などないだろうと思っていた。
安江「坊ちゃまに、唯菜さまの作る大福が食べたいと駄々をこねられましてねぇ。和菓子屋巡りをしてた所です。唯菜さま、」
続く言葉にどきりとして、唯菜は安江から目線を逸らした。
安江「鷹山家に戻ってきてはくれませんか?」
唯菜「…私にはもう関わり合いはないはずです。」
安江「坊ちゃまは、今でも唯菜さまをたいそう気に入っていらっしゃいますよ。」
唯菜「…せっかく女学校に通う機会を頂いたのに、私はそれを無下にしてしまいました。」
安江「坊ちゃまはそのようなことにこだわるほど、器の小さい方ではありません。…二人きりでお話がしたいです。店主さん、少し唯菜さまを借りていいですか?その代わりと言ってはなんですが、今日売れ残りそうな和菓子は全て買い取らせて頂きますから。」
店主「ありがたい話だ。唯菜ちゃん、行ってきな!」
唯菜(ええ~っ!?そんな強引な。)

ざあざあ降りの雨の中、商店街の道を唯菜と安江、二人で歩いた。人通りは少なく誰もが足早に通り過ぎていく。
安江「坊ちゃまの正体を知って、恐ろしくなりましたか。」
唯菜「え?」
安江「鷹山家は代々影切りという生業を継いでいます。あの夜、わざと唯菜さまに坊ちゃまの後をつかせたことに、坊ちゃまはたいそうご立腹でした。でも私は、唯菜さまに知っておいて頂きたいと思ったのです。」
唯菜「私は…。」
ぽつりと本音が漏れた。桜の花弁が舞う中で刀を振るう光の姿が思い出させられる。
唯菜「美しいと思ってしまいました。恋してしまったようです。」
頬が赤くなるのを隠せない。安江はにっこりと微笑んだ。
安江「では、鷹山家に戻ることについては何の問題もございませんね。実は坊ちゃまは今日とても体調が悪いんです。きっと唯菜さまが励まして下さったら、良くなるに違いありません。」
唯菜は困ったように眉根を寄せた。
唯菜「私が光さまの役に立ちますか?」
安江「勿論です。」
そう断言されて、唯菜はそのまま鷹山家に向かうことになった。

光は布団の中でうなされていた。息が上がり、冷や汗が伝っている。体調が悪いとは本当のようだ。
安江「坊ちゃま、唯菜さまが来て下さりましたよ。」
光「ゆ…いな?」
うっすらと目を開け、光は手を伸ばした。唯菜はその手を取り、頬に当てる。
唯菜「ここにおります。」
その瞬間、光は目を見開くと思わず体を起こして唯菜を抱きしめた。
光「嫌われたかと…もう会えないかと思っていた。」
熱があるのか、光の体は熱い。
安江「大福とお茶を用意してきます。」
そう言って安江はさり気なく部屋を後にした。

その夜、光の腕の中で唯菜は一夜を明かすことになった。光は時折夢にうなされているようだった。その度に唯菜を抱く腕の力をこめ、唯菜は光の胸の中に深く顔をうずめた。