影に咲く恋、光に散る命【シナリオ】

朱色の晴れ着姿を着た唯菜に、黒色の袴姿の光。
鷹山女学校の校庭で結婚式を挙げ、二人は挨拶周りに勤しんでいた。
雅「やあやあ、この度はおめでとう。」
そう笑って唯菜に近づいてきたのは、西園寺家当主の雅。
雅「唯菜ちゃん、無事に床入りの儀も済ませたようだね。」
唯菜「どうして…その、済ませたかどうかとか分かるんですか?」
雅「よ~く見れば分かるって言ったでしょ?と言っても、鷹山家の人はなかなかどんくさくて気づいていないから、ここだけの話。」
雅は唯菜の耳元で囁いた。
雅「今の君には、影がない。」
唯菜はふっと自分の後ろを見る。確かにあるはずの影がない。
雅「じゃあね。」
去って行こうとする雅を、唯菜は呼び止めた。
唯菜「神楽さんに、これを渡してもらえますか。」
姫那の遺品の勾玉を取り出した唯菜。
雅「いやいや、それは未来に向けてあるべき場所に戻すべきですよ。」
唯菜「…?」
そこに光が近寄って来た。雅はひらひらと手を振って去って行く。
光「勾玉を返そうとしてたのか?」
唯菜「姫那は、神楽さんの元にいるべきだと思ったから。」
光「だったら、桜の木の下に埋めるといい。この校庭の桜の木の下には、代々の守姫の遺骨や遺品などが眠ってるんだ。四季を問わず花が咲くのも、その力のおかげだとされている。」
風が吹き、花弁が舞う。
父「唯菜、結婚おめでとう。」
次に近寄って来たのは久しく目にしていなかった唯菜と姫那の父だった。
唯菜「お父さま。姫那は…。」
父「西園寺家に無事嫁いだそうだな。詳しいことは知らんが、屋敷の中で穏やかに過ごしていると聞いている。」
光が唯菜の肩に手を置く。しかし、唯菜は首を横に振った。父には正直に話すべきだと感じていたからだ。
唯菜「お父さま、姫那は亡くなりました。」
父「…は?姫那が、姫那が、姫那が…。」
動揺を隠しきれずにいる父に、唯菜は困ったように眉根を寄せる。光が、それをかばう。
光「姫那さんは西園寺家に嫁いで愛されていたのは確かです。しかし、死影と化してしまった為、私が斬りました。」
父「おのれ!」
怒り心頭の父が拳をあげた所で、満が割って入った。
満「ちょっとちょっと。せっかくの祝いの式なのに、新郎に喧嘩ふっかけるなんて止めて下さいよ。笑い話になりません。姫那さんが嫁いだのは西園寺家でしょう?今日の式にも参列してもらってるんですから、話はその方として下さい。光、唯菜ちゃんと七塚家の当主とは今はまだ距離を置いた方がいい。状況が受け入れるのには時間がかかるかもしれない。」
二人はその場を離れることにした。
唯菜の顔を光が覗き込む。
光「今日くらい、自分を責めることは止めて笑顔を見せてくれ。」
唯菜は顔を上げ、微笑む。光も笑顔を返す。

結婚式が無事終わり、日常が戻ろうとしていた。
光は家を空けることが多かったので、唯菜はその間和菓子屋に働きに出ることになった。
小春「唯菜がいないと、私のやることがなくなっちゃう。」
帰宅した唯菜にぷりぷりと腹を立てる小春。そこで唯菜は名案をひらめいた。
唯菜「だったら、女学校に通ってみる?」
小春「女学校?」
唯菜「私には合わなかったけれど、小春なら上手くやっていけるかも。将来、いいお嫁さんになる為に行く場所よ。」
しかし、小春はそれを拒否した。
小春「私は一生唯菜の侍女として側で働くって決めてるの。」
唯菜「でも、暇なんでしょう?」
いたずらに笑う唯菜に対し、小春は、
小春「それとこれとは別。」
と言い切る。
光「唯菜、ただいま帰った。」
唯菜「お帰りなさい。今日は和菓子屋で薄皮饅頭を作ったんです。夕食の前にお食べになりますか?」
光「ああ、頂こう。」
唯菜の額に口づけをする光。
小春「私も薄皮饅頭頂いていいですか!?」
と無邪気に瞳を輝かせる小春に、安江が少しばかり怪訝そうな顔をする。
安江「貴方は少々、遠慮というものを知った方が良いですね。」
小春「私、和菓子好きなんです。食べたいんです。」
本当に遠慮の欠片を見せない小春が、小春らしくて、唯菜はふふっと笑ってしまう。

唯菜「家族って、いいですね。」
食卓を囲みながら、唯菜はそんな言葉を呟いた。
安江「早くもう一人ぐらい増やして下さってかまわないんですよ?」
安江の一言に、光が同意する。
光「そうだな。結婚したからには、私も早く子が欲しい。」
唯菜「えっ。私、そんなつもりで言ったのでは…。」
赤面する唯菜。
小春「私は男の子が二人、女の子が二人、くらいが理想的だと思います。」
光「跡取り候補に男が二人もいたら、後々面倒だろう。」
と苦言を呈する光は、小春の存在にすっかり慣れている。
小春「でも、子供の性別なんて生んでみないと分かんないじゃないですか。てことは、やっぱり多い方がいいですよ。」


夜になると、相変わらず光は女学校へと抜け出す。唯菜は後を追う。
桜舞い散る夜の中、刀を振るう光。鞘に刀を収めると、背後の唯菜に気づいて安堵したように息を吐く。
唯菜は光と抱き合って、その存在を確かめる。
唯菜「大好きです。」
光と影。それは対立するものではなく、互いを支えあうものなのだ。
もう二人は、決して離れない。
命が散るその後でも、きっと——。
風に舞う桜の花弁が二人を包み込んでいた。