影に咲く恋、光に散る命【シナリオ】

長雨が続き、光の容態が芳しくない日が続いた。
唯菜は光の手を握りしめながら、自分が何もしてあげられないもどかしさで悩んでいた。
唯菜(光さまは幾度となく私を助けて下さった。それなのに…。)
障子戸がすっと引く音がして、そちらを見やると満が腕を組んで立っていた。
満「唯菜ちゃん、ちょっと話があるんだけど。」
唯菜は首を横に振る。
唯菜「今は光さまの側に居させて下さい。」
満「いや、それを解決する話。」
満はにっこりと微笑んだ。

満の書斎に置かれた客用の椅子に腰を降ろした唯菜。
満はロイヤルミルクティーをすすりながら、まったりとした様子。
満「光の調子が良くないのはね、影切りの刀による命の代償のせいだと思うんだ。それで、唯菜ちゃんが光の守姫になれば解決する話なんだよね。」
唯菜「私が光の守姫に…。」
唯菜はその言葉を噛み締める。
満「決意は大体決まってるでしょ?継承の儀を済ませれば、唯菜ちゃんは晴れて実質光の守姫になれるんだよ。まぁ、その後床入りの儀が待ってるけどね。」
光に抱き寄せられた時の温もりを思い出し、唯菜の顔が赤くなる。
満「どうする?本来なら影切りの刀の継承者である光の同席があっていいものなんだけど、光はあの様子だしね。こっそり継承の儀だけ済ませちゃってもいいかなって私は思ってるんだ。」
唯菜「…光さまと、ふたりで残りの人生を歩みたいです。」
満「そうこなくっちゃ。」
茶目っ気たっぷりにウィンクして、満は立ち上がった。
満「善は急げだね。明日にでも継承の儀を行おう。保証人が一人必要なんだけど…安江でいいかな。」
そこで唯菜はふと思いついた。
唯菜「別の方を希望します。」
満「誰か親族でもいたっけ?言っておくけど、西園寺家とかを当てようとしているなら反対だよ。彼らは影に属する一族だからね。認められない。」
唯菜「いえ、鷹山家内にいる人物です。私が一度、光さまとのことを諦めようとした時、背中を押してくれた人です。」
満「あ。もしかして…。」

大福を頬張りながら、
小春「私が継承の儀の保証人!?」
と小春はたいそう面食らった様子だった。
唯菜「イヤ?」
小春「嫌じゃないけど、私はただの女中だよ。もう唯菜とは住む世界が違う。」
唯菜「私が光さまに思いを伝えて、また結ばれたのは小春のおげなの。」
指先をからめて唯菜は頬を赤く染めた。
唯菜「小春がいなかったら、私はもう光さまとのことは諦めてたと思う。」
小春は緑茶を飲み干して、
小春「そういうわけなら、私が喜んで保証人とやらになってあげましょう。」
と宣言した。唯菜は微笑む。
唯菜「ありがとう。」
小春「その代わり、これからも和菓子作ったら私にも分けてよ!絶対だからね。」
無邪気に笑う小春は、唯菜にとって親友とも呼べる存在なのだった。

本家の中央に位置する、畳が敷き詰められた広々とした部屋で継承の儀は行われることになった。光と安江の姿はなかったが、鷹山家に住む者は皆集められたようだった。
満は影切りの刀を手にし、
満「これより継承の儀を執り行う。保証人は、しかと目に焼き付けよ。」
と宣言した。唯菜の横に正座していた小春が深々と頭を下げる。
唯菜「私は、光の守姫となることをここに誓い、生涯をかけて影切りの刀の持ち主に命を捧げることを約束します。」
一同「おめでとうございます。」
影切りの刀を満から受け取ると、影が自分の中に吸い寄せられるような感覚を唯菜は覚えた。

光「何故、守姫になることを勝手に決めた!」
唯菜「勝手なのは、どちらです。床入りの儀を迫ろうとしていた方が口にする言葉ではないでしょう。それに、光さまの考えがどうあろうと私はもう光の守姫なのです。」
小春「お茶を淹れてきました。…って、もう犬も食わない奴ですか?」
小春は鷹山家本家の女中から、唯菜の侍女へと昇進することが決まった。
茶の入った湯呑を手にしながらも、光はまだ苛立ちを隠せない様子だった。
光「父上はどうかしている。影切りの刀の主である私抜きで継承の儀を執り行うなどとは…何て強引な方だ。」
唯菜「でもこうして、光さまは元気になられた。私にとってはそれが何よりです。」
唯菜は光の頬に手を伸ばした。
唯菜「これからは、ふたりで生きましょう。」
光「…姫那を斬ったのは私だぞ?妹を殺され、恐ろしくはないのか?」
唯菜「私…いえ、皆の為だったことは理解しています。」
唯菜と光の視線が交わる。
安江「小春、貴方の為に新しい着物を満さまが用意して下さいました。」
小春「ええっ。私に?」
安江「満さまは気の利く御方ですからね、唯菜さまの侍女として恥じないようお計らい下さったのですよ。本家の方に問屋が来ているようですから、行きましょう。」
安江はそう言って小春を連れ、離れを出て行った。
唯菜は光に抱き着いた。光は少し驚いた様子。
しかし顔と顔を見合わせると、二人は微笑んで唇を重ねた。
光「床入りの儀を済ませねばな。」
唯菜「覚悟はできております。」
唯菜を押し倒し、光は覆いかぶさって唯菜の体を這うように手を滑らせた。
満月の夜だった。