影に咲く恋、光に散る命【シナリオ】

満「…光も西園寺家に同行したいと?」
光「はい。唯菜は私の妻となる人です。私には守る役目があります。」
満「影切りの刀を持つ光が行くと、色々と面倒なことになると思うんだけど。」
光「それでも、です。」
満はため息をつく。
満「分かった。雅には私から話をつけておく。」

唯菜は姫那と離れの縁側に二人並んで座りながら、幼い頃の思い出話に花を咲かせていた。安江が茶を淹れて、そっと側に置く。
光「西園寺家に行く準備はいいか?私も同行することになった。」
唯菜「光さまと一緒だと心強いです。」
穏やかに微笑む光を目にし、姫那は肩を落とした。
姫那「私は、お姉ちゃんに勝つことばかり考えて、自分の欲しいものばかり考えて、何も見えていなかったわ。」

雅、姫那、唯菜、光の四人は西園寺家に入った。何とも言えない圧を感じたのは自分だけだろうかと唯菜は辺りをきょろきょろと見回す。
真っ先に向かったのは床に臥せる神楽の所だった。
雅「神楽、姫那ちゃんを連れて帰って来たよ。」
神楽はうっすらと目を開け、姫那を見ると、その頬に涙が伝った。
神楽「愛しき人よ。私は貴方を利用することしかできなかった。」
姫那「神楽さま…。」
神楽は姫那に手を伸ばし何か続けようとしたが、また意識が遠のいたようだった。

雅「我が家には影生みの刀に並ぶ“映し鏡”という家宝があるんですよ。それを使えば、姫那さんを救うことは可能かもしれない。付いて来て下さい。」
雅の後に三人が続く。障子を開けた応接室に大きな鏡が置いてあった。
雅「まず、唯菜さん。鏡の前に立ってみて下さい。何が見えますか?」
鏡の前に行く唯菜。しかし鏡には何も映っていない。
唯菜「何も見えませんが。」
雅「では次に、姫那さん。」
姫那「…真っ黒な影が見えます。」
雅「唯菜さん、鏡を見てその影に触れようとしてみて下さい。」
訝し気に腕を組んでそのやり取りを見ていた光。唯菜が姫那の影に触れようとした、その瞬間だった。
神楽「ダメだ!」
ぜえぜえと息を荒げながらも、神楽が唯菜を突き飛ばした。瞬時に光が唯菜を受け止める。
神楽は姫那を抱きしめた。
雅「まだ安静にしていないと体に障るよ、神楽。」
神楽「光さん、私ごと姫那を斬って下さい!」
その言葉に光は刀に手を置く。
唯菜「光さま、止めて下さい。」
神楽「姫那はもう死んでいる。もう救えない。唯菜さんの力が失われるだけだ。」
刀を抜き、真っ直ぐ構える光に姫那は青ざめる。
姫那「神楽様は、私に死んでほしいの?」
神楽「愛しています。私は貴方と過ごした日々を、夫婦の契りを交わした夜を、決して忘れない。だからこそ…光さん、斬って下さい。」
一筋の閃光が走った。

姫那の姿はぐにゃりと揺れ、闇の中へと消えて行った。
雅「あらあら。唯菜さんが新たな影の守姫となってくれたら、我が息子も更に長生きできると喜んでいたのに、計画が台無しだ。まぁ、仕方ないか。神楽、これ。」
斬られたのは姫那だけで、神楽はかすり傷一つしていなかった。雅から投げ渡された影生みの刀を手に、神楽は光の向かって深々と頭を下げた。
唯菜「助けられなかった。」
ぽろぽろと涙をこぼす唯菜。
神楽「唯菜さんが気にすることではありません。彼女は既に死んでいました。誰にも助ける術はなかったのです。父上が騙していたようですが。」
神楽に睨まれ、雅は視線を逸らす。
神楽「西園寺家は影に属する家です。家の何処かで、姫那さんは影として生き続けるでしょう。」
光「屋敷に戻るぞ、唯菜。」
そっと肩に手を置かれたが、唯菜はその手を振り払った。
光「…唯菜?」
唯菜「姉妹だったのよ、たった一人のかけがえのない妹だったの。」
光「私も救えるものならば救いたかった。しかし死影を放置しておけば、やがて巨大な怨霊となって人を殺すようになる。」
唯菜はそれでも姫那の死を受け入れられない様子で、その場を飛び出して行った。
光「唯菜!」
雅「物事の分別があまりつかないタイプの子なんですかね。光さん、あとを追うなら早い内が良いですよ。もうすぐ日が沈む。我が家が影でうごめく時間帯です。」
踵を返した光に、神楽が声をかけた。
神楽「光さんに謝っておきたいことがあります。」
光「何だ。」
神楽「影切りの刀を持ち出すよう口出ししたのは、私です。彼女は、刀における命の代償のことを知らない様子でした。私はそれを知っていて、利用しました。」
光「過ぎたことはどうでもいい。ただ、むやみやたらに影生みの刀を振り回して、外部にまで死影を広げるのは止めて頂きたい。」
神楽「分かりました。というか、影の守姫がいなくなった以上、影生みの刀は祀っておくだけにすることになるかと。」
軽く頷いて、光はその場を後にした。
雅「光があるから、影がある。彼にとっては影は悪だったのかもしれないけど、我が家にとっては善なんだよね。」
神楽「影の良さを理解するのは難しいものです、父上。それより…。」
神楽は二人が去って行った家の門の方向を見つめた。
神楽「唯菜さんが、何処に居場所を求めたのかが気になります。」