時は平安。
朝廷には二人の異能者が仕えていた。
一人は、あらゆる怨念を操り災いを成す呪詛師。
一人は、あらゆる穢れを払い清める陰陽師。
両者は対極にありながら、その力は当代随一であった。
帝は二人を深く信頼し、その力が後世に失われることを惜しんだ。
だが、幾人もの弟子を育てても、その才を受け継ぐ者は現れない。
そこで帝は二人に命じ、その力を刀へ封じることにした。
呪詛師の力を宿した刀は『影生みの刀』。
陰陽師の力を宿した刀は『影切りの刀』。
二振りは対となり、世の均衡を守る宝として残された。
しかし、その力はあまりに強大だった。
刀を振るう者は、その代償として己の寿命を削られる。
帝は嘆いた。
後世へ残したかった力が、人の命を奪う呪いにもなってしまったからである。
誰も解決策を見出せぬまま月日が流れたある日、一人の少女が御前へ現れた。
少女は不思議な勾玉を胸に抱いていた。
そして静かに名乗った。
「私は守姫にございます。」
守姫は言った。
刀の主が支払うはずだった命の代償を、自らが引き受けると。
誰かを守るために生まれた一族であると。
少女が勾玉に祈りを捧げると、刀に宿る呪いは主から離れ、守姫へと流れた。
こうして刀の使い手は代々、一人の守姫を伴侶として迎えるようになった。
影生みの刀には影を見守る守姫を。
影切りの刀には光を見守る守姫を。
たとえ歴史が移ろい、人々がその始まりを忘れようとも。
刀と守姫の契りだけは、決して途絶えることなく受け継がれていく。
満「…どう?」
満はスイートポテトにフォークを刺して口に運んだ。
唯菜「どう、と言われましても。それは神話なんですか?」
満「実話だとされている。」
ロイヤルミルクティーを淹れながら、唯菜は首を傾げた。
唯菜「私には関係ない話だと思います。」
満「守姫は代々、君の母君の家系から受け継がれているんだよ。」
唯菜「…は?」
満は指を組み、その上に顎を乗せた。
満「光は女学校で影の守姫を見つけたんだ。刀の継承者には守姫が体内に勾玉を宿しているのが透けて見えるからね。光はすぐにもう一人の守姫を探して女学校の中を回ったんだが、残念ながら見つからなかったそうだ。しかし肩を落として帰りにある和菓子屋へ寄っところ、なんと光の守姫の継承者を偶然にも見つけたと私に報告してきた。それが君だよ、唯菜ちゃん。」
唯菜「私が光の守姫…?」
満「私は少し君を試すことにしてね。まぁ、刀を持ち出したのにはちょっとばかし問題点があるとは思ったけれど、それでも君の誠実さはここ半月の君の働きぶりを見ていれば明らかだ。実に良い嫁を見つけてきたと光を感心したものだよ。君に守姫としての覚悟があれば、の話だけれど。」
唯菜は視線を落とした。
唯菜「私にどうしろと?」
満「光と君の結婚を認めると言ってるんだよ。その代わり、守姫として光に命を捧げる覚悟を決めてもらわないとだけど。私の妻も神代家の家系から娶ったんだ。妻は早くに亡くなった。」
唯菜「今は姫那がいます。」
満「ああ…やっぱり光の言う通り、君は妹思いなんだね。でも残念ながら、彼女は既に死影だ。光は君が傷つくのを恐れて、何とか姫那ちゃんから勾玉を引きはがせないかと四苦八苦したみたいだけど、無理な話なんだよね。既に肉体もろとも死んでるんだから。」
唯菜(姫那が死んでいる?)
幼い頃、まだ母が生きていた頃、二人で庭を駆け回った。姫那は勝気な所があったけれど、それでも唯菜にとって可愛い妹に変わりはなかった。
唯菜はその場で意識を失って倒れた。
満「…はてさて。これからどうなることか。」
光「父上?」
ちょうど戸をノックして入って来た光は、倒れていた唯菜を見つけると大きく目を見開いた。
光「唯菜!しっかりしろ!」
満「ちょっとショックを受けたみたい。でも守姫の話は一通りして、光との結婚も認めると話したよ。あとは唯菜ちゃんの覚悟が決まり次第かな。ところで、光は何用?」
光はぐったりとした唯菜を片手で抱き、額に口づけをした。そして満を見上げる。
光「姫那が散財気味で。」
満「散財気味、じゃなくて散財してるんでしょ。鷹山家の資産を食いつぶす気かな。頭が痛い問題だ。もう光、いっそのこと斬っちゃってよ。」
光「勾玉さえ引きはがせれば…。」
満「無理でしょ。体内に宿ってるんだもの。それにもう肉体も死んでるみたいだし。」
立ち上がり、満はうーんと伸びをした。
満「影生みの刀の妻となる覚悟を一度は決めたんでしょ。自業自得。それでいて、夫を裏切って、まさか刀ごと現れるとは、ねぇ。私もビックリだ。今頃西園寺家はどうなってるかな。ひと悶着起きてそうな予感はする。刀は家宝だから。唯菜ちゃんは任せたよ。」
部屋を出て行った満を後に、光は唯菜を抱き上げ、本家の一室へ向かった。
ゆっくりと目を開けた唯菜に、光は微笑んだ。
光「大丈夫か。」
唯菜「ひか…る…さま。」
辺りをきょろきょろと見回す。大きな天蓋付きのベットの中だった。側には化粧台が置かれてある。
唯菜「ここは…。」
光「亡き母の部屋だ。守姫として父と共に生き、そして父より早くに亡くなった。唯菜。私と共に生きてくれるか?」
唯菜「…え?」
朝廷には二人の異能者が仕えていた。
一人は、あらゆる怨念を操り災いを成す呪詛師。
一人は、あらゆる穢れを払い清める陰陽師。
両者は対極にありながら、その力は当代随一であった。
帝は二人を深く信頼し、その力が後世に失われることを惜しんだ。
だが、幾人もの弟子を育てても、その才を受け継ぐ者は現れない。
そこで帝は二人に命じ、その力を刀へ封じることにした。
呪詛師の力を宿した刀は『影生みの刀』。
陰陽師の力を宿した刀は『影切りの刀』。
二振りは対となり、世の均衡を守る宝として残された。
しかし、その力はあまりに強大だった。
刀を振るう者は、その代償として己の寿命を削られる。
帝は嘆いた。
後世へ残したかった力が、人の命を奪う呪いにもなってしまったからである。
誰も解決策を見出せぬまま月日が流れたある日、一人の少女が御前へ現れた。
少女は不思議な勾玉を胸に抱いていた。
そして静かに名乗った。
「私は守姫にございます。」
守姫は言った。
刀の主が支払うはずだった命の代償を、自らが引き受けると。
誰かを守るために生まれた一族であると。
少女が勾玉に祈りを捧げると、刀に宿る呪いは主から離れ、守姫へと流れた。
こうして刀の使い手は代々、一人の守姫を伴侶として迎えるようになった。
影生みの刀には影を見守る守姫を。
影切りの刀には光を見守る守姫を。
たとえ歴史が移ろい、人々がその始まりを忘れようとも。
刀と守姫の契りだけは、決して途絶えることなく受け継がれていく。
満「…どう?」
満はスイートポテトにフォークを刺して口に運んだ。
唯菜「どう、と言われましても。それは神話なんですか?」
満「実話だとされている。」
ロイヤルミルクティーを淹れながら、唯菜は首を傾げた。
唯菜「私には関係ない話だと思います。」
満「守姫は代々、君の母君の家系から受け継がれているんだよ。」
唯菜「…は?」
満は指を組み、その上に顎を乗せた。
満「光は女学校で影の守姫を見つけたんだ。刀の継承者には守姫が体内に勾玉を宿しているのが透けて見えるからね。光はすぐにもう一人の守姫を探して女学校の中を回ったんだが、残念ながら見つからなかったそうだ。しかし肩を落として帰りにある和菓子屋へ寄っところ、なんと光の守姫の継承者を偶然にも見つけたと私に報告してきた。それが君だよ、唯菜ちゃん。」
唯菜「私が光の守姫…?」
満「私は少し君を試すことにしてね。まぁ、刀を持ち出したのにはちょっとばかし問題点があるとは思ったけれど、それでも君の誠実さはここ半月の君の働きぶりを見ていれば明らかだ。実に良い嫁を見つけてきたと光を感心したものだよ。君に守姫としての覚悟があれば、の話だけれど。」
唯菜は視線を落とした。
唯菜「私にどうしろと?」
満「光と君の結婚を認めると言ってるんだよ。その代わり、守姫として光に命を捧げる覚悟を決めてもらわないとだけど。私の妻も神代家の家系から娶ったんだ。妻は早くに亡くなった。」
唯菜「今は姫那がいます。」
満「ああ…やっぱり光の言う通り、君は妹思いなんだね。でも残念ながら、彼女は既に死影だ。光は君が傷つくのを恐れて、何とか姫那ちゃんから勾玉を引きはがせないかと四苦八苦したみたいだけど、無理な話なんだよね。既に肉体もろとも死んでるんだから。」
唯菜(姫那が死んでいる?)
幼い頃、まだ母が生きていた頃、二人で庭を駆け回った。姫那は勝気な所があったけれど、それでも唯菜にとって可愛い妹に変わりはなかった。
唯菜はその場で意識を失って倒れた。
満「…はてさて。これからどうなることか。」
光「父上?」
ちょうど戸をノックして入って来た光は、倒れていた唯菜を見つけると大きく目を見開いた。
光「唯菜!しっかりしろ!」
満「ちょっとショックを受けたみたい。でも守姫の話は一通りして、光との結婚も認めると話したよ。あとは唯菜ちゃんの覚悟が決まり次第かな。ところで、光は何用?」
光はぐったりとした唯菜を片手で抱き、額に口づけをした。そして満を見上げる。
光「姫那が散財気味で。」
満「散財気味、じゃなくて散財してるんでしょ。鷹山家の資産を食いつぶす気かな。頭が痛い問題だ。もう光、いっそのこと斬っちゃってよ。」
光「勾玉さえ引きはがせれば…。」
満「無理でしょ。体内に宿ってるんだもの。それにもう肉体も死んでるみたいだし。」
立ち上がり、満はうーんと伸びをした。
満「影生みの刀の妻となる覚悟を一度は決めたんでしょ。自業自得。それでいて、夫を裏切って、まさか刀ごと現れるとは、ねぇ。私もビックリだ。今頃西園寺家はどうなってるかな。ひと悶着起きてそうな予感はする。刀は家宝だから。唯菜ちゃんは任せたよ。」
部屋を出て行った満を後に、光は唯菜を抱き上げ、本家の一室へ向かった。
ゆっくりと目を開けた唯菜に、光は微笑んだ。
光「大丈夫か。」
唯菜「ひか…る…さま。」
辺りをきょろきょろと見回す。大きな天蓋付きのベットの中だった。側には化粧台が置かれてある。
唯菜「ここは…。」
光「亡き母の部屋だ。守姫として父と共に生き、そして父より早くに亡くなった。唯菜。私と共に生きてくれるか?」
唯菜「…え?」



