いつからだろう。紫生の友達以上になりたいと思ったのは。夏休みに一緒に遊園地に行った時? 定期試験前に一緒に勉強した時? 授業中に彼の項に流れる汗を見た時? たぶん、これよりも前にはもう好きになっている。
彼は決して友達としか思ってくれない。片思いがこんなにキツイなんて初めて知った。
9月の高校の教室は冷房が効いていても暑い。下校しているのか、校内に生徒はほとんど残っていなかった。
「藤﨑。なに黄昏てんの? あ。もしかして、今日の英語の小テスト出来なかったから? 藤﨑もそういう事あるんだ。珍しい」
こっちの気も知らず、紫生が話しかけてくる。日直だった藤﨑は学級日誌を書いている手を止めて、紫生を見る。こちらにだけ向けてくる笑顔が眩しい。思わず目を細める。
「そうじゃないよ。なんというか、叶わないことに諦めをつけようとしてるとこだよ」
紫生に好きだとか、愛してるとか言えるわけがない。言えない。そんな自分がもどかしい。
確かに恋人にはなりたい。どんなに一緒にいようとも、どんなに一緒に何をしようと、紫生にとって友達のままだ。
「やりゃいいじゃん。叶わないとかさ、藤﨑が決めることじゃないと思うけどな」
「そんな簡単に言うなよ」
本当に、紫生は何だりかんだり簡単に言う。
担任へ学級日誌を提出し、帰路につく。途中、紫生が「ゲーセンに行こう」と言い出した。
「藤﨑のさ、その諦めたいことをさ一瞬だけ忘れようよ」
その諦めたい事の相手が言うなよ。忘れられなくなる。諦められなくなる。
「まあ、良いけどさ」
結局、藤﨑は紫生には甘かった。
身体を動かそうとして選んだのはアスレチックだった。身体を動かすのは藤﨑も紫生も楽しいし、好きだ。一番高いところで紫生は笑っている。藤﨑もそこへと向かう。
「いやー、楽しいね。ここに来たのは久しぶりだ。3週間ぶりくらい?」
「最近じゃねーか」
「そうだね」
「でも本当に楽しい。来て良かった」
藤﨑は首を縦に振る。ボルダリングやジップラインもやってみる。普段使わない筋肉を使うので、なかなか身体が動かなかった。明日には筋肉痛になりそうだ。
7時を過ぎて、母から早く帰ってこいと連絡があった。水を飲みながら、紫生と並んで帰る。紫生の髪は汗で湿っている。どんな触り心地なのか気になったが、藤﨑は紫生の頭に向かった手を下ろした。
「なあ。叶わないこと、一瞬だけでも忘れられた?」
「……おう」
「そっか」
公園を通りがかって、紫生が滑り台の上まで登った。まだ遊ぶのか、と少し呆れるが、紫生が楽しいならそれで良い。藤﨑も紫生の方へと足を進めた。
「ふーじーさーきっ。やっぱ遊ぶなら外だよな。空が綺麗。あ。早いね。月が出てる。月が綺麗だ。ずっと」
溢した紫生の言葉を藤﨑は逃さなかった。ずいぶんと文学的だ。それに紫生はそれを意図していない。それが藤﨑の心臓にナイフを突き刺しているようだった。
「……死んでもいいわ」
藤﨑は呟く。紫生に顔が向けられない。きっと泣いている。
「なんか言った?」
「なんも言ってねーよ」
「おっけー」
紫生は滑り台から滑って下りると、「帰ろう。お腹すいた」と呑気に言った。
「そうだな」
藤﨑は紫生と歩きだした。
これからも紫生には言えない。紫生のためならずっと友だちでいよう。それが紫生の幸せならば。
彼は決して友達としか思ってくれない。片思いがこんなにキツイなんて初めて知った。
9月の高校の教室は冷房が効いていても暑い。下校しているのか、校内に生徒はほとんど残っていなかった。
「藤﨑。なに黄昏てんの? あ。もしかして、今日の英語の小テスト出来なかったから? 藤﨑もそういう事あるんだ。珍しい」
こっちの気も知らず、紫生が話しかけてくる。日直だった藤﨑は学級日誌を書いている手を止めて、紫生を見る。こちらにだけ向けてくる笑顔が眩しい。思わず目を細める。
「そうじゃないよ。なんというか、叶わないことに諦めをつけようとしてるとこだよ」
紫生に好きだとか、愛してるとか言えるわけがない。言えない。そんな自分がもどかしい。
確かに恋人にはなりたい。どんなに一緒にいようとも、どんなに一緒に何をしようと、紫生にとって友達のままだ。
「やりゃいいじゃん。叶わないとかさ、藤﨑が決めることじゃないと思うけどな」
「そんな簡単に言うなよ」
本当に、紫生は何だりかんだり簡単に言う。
担任へ学級日誌を提出し、帰路につく。途中、紫生が「ゲーセンに行こう」と言い出した。
「藤﨑のさ、その諦めたいことをさ一瞬だけ忘れようよ」
その諦めたい事の相手が言うなよ。忘れられなくなる。諦められなくなる。
「まあ、良いけどさ」
結局、藤﨑は紫生には甘かった。
身体を動かそうとして選んだのはアスレチックだった。身体を動かすのは藤﨑も紫生も楽しいし、好きだ。一番高いところで紫生は笑っている。藤﨑もそこへと向かう。
「いやー、楽しいね。ここに来たのは久しぶりだ。3週間ぶりくらい?」
「最近じゃねーか」
「そうだね」
「でも本当に楽しい。来て良かった」
藤﨑は首を縦に振る。ボルダリングやジップラインもやってみる。普段使わない筋肉を使うので、なかなか身体が動かなかった。明日には筋肉痛になりそうだ。
7時を過ぎて、母から早く帰ってこいと連絡があった。水を飲みながら、紫生と並んで帰る。紫生の髪は汗で湿っている。どんな触り心地なのか気になったが、藤﨑は紫生の頭に向かった手を下ろした。
「なあ。叶わないこと、一瞬だけでも忘れられた?」
「……おう」
「そっか」
公園を通りがかって、紫生が滑り台の上まで登った。まだ遊ぶのか、と少し呆れるが、紫生が楽しいならそれで良い。藤﨑も紫生の方へと足を進めた。
「ふーじーさーきっ。やっぱ遊ぶなら外だよな。空が綺麗。あ。早いね。月が出てる。月が綺麗だ。ずっと」
溢した紫生の言葉を藤﨑は逃さなかった。ずいぶんと文学的だ。それに紫生はそれを意図していない。それが藤﨑の心臓にナイフを突き刺しているようだった。
「……死んでもいいわ」
藤﨑は呟く。紫生に顔が向けられない。きっと泣いている。
「なんか言った?」
「なんも言ってねーよ」
「おっけー」
紫生は滑り台から滑って下りると、「帰ろう。お腹すいた」と呑気に言った。
「そうだな」
藤﨑は紫生と歩きだした。
これからも紫生には言えない。紫生のためならずっと友だちでいよう。それが紫生の幸せならば。

