佳乃との逢瀬に満足して帰宅した楓雅を迎えた側近は、今日も眉間にしわを寄せた。
「楓雅様、またあの女性と会っていたのですか」
「ああ」
「同じ女としか会っていないじゃないですか。蝶はあちこちの花から蜜をいただくものです」
「神力なら、花魁たちから拝借しているよ」
「そうではありません。あの白髪が問題です! 何の力もない女に執着してもいいことありませんよ」
「理屈ではそうだが……。本能が求めるって感じなんだよな。もしかして、彼女は俺が探している佳乃なんじゃないか?」
「そう思うなら、さっさと名前を聞いてくださいよ」
側近は頭を抱え、大きなため息をついた。
「佳乃という治癒師は見事な漆黒の髪をしていたんですよね? 別人でしょう。何にせよ枯れた花に執着しても時間の無駄です」
「本当に枯れた花だと思うのか?」
「ええ。白髪、しかも若白髪ですよ? 神力を吸ったら本人の寿命を縮めてしまうから、おいそれと触れることもできないではないですか。そんな相手と過ごす時間なんて、楓雅様には不要です。蓼藍家を継ぐ者としての自覚をもっとお持ちください」
「俺が後継者として至らない話と彼女は無関係だろう。これ以上彼女を侮辱するな。気分が悪くなる」
鋭く細めた目で雅は側近の男を見据えると男は震え上がり、その場で平伏した。
楓雅は黙ったまま、側近に背を向けて自室に戻っていく。
残された側近は、自分の訴えが少しも聞き入れられないことに、両手を拳にして地面を殴った。
これといった長所のない女を気にかける楓雅も、悪気なく彼と関わろうとする女も気に食わない。
怒りを鎮めようと深呼吸をくり返していた彼は、何かを思いついて顔を上げ、空を見上げた。
夜空で光っていた月は、朝の光と雲によって隠されている。
(ああそうだ。彼女が他人のものになれば、楓雅様も諦めがつくに違いない)
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