無能の白髪娘は胡蝶の君と結ばれる 〜噂の遊び人は、かつて救えなかった少年でした〜


蝶の妖の血が混じった人間は、蛹(さなぎ)と羽化の期間を経て成人となる。
蛹の間、子供の体はどろどろに溶け、成人へと形が変化するのだ。その過程で、手足だったり視覚や聴覚などの感覚だったり、何かが欠けることも少なくない。

楓雅の場合は記憶だった。
しかも、特定の誰かと過ごした記憶だけがごっそり抜けている。

相手は女性で、とても大事にされていたし、自分も彼女を想っていたことは覚えている。
握られた手のやわらかな感触も、優しく声をかけられたことも。
それなのに、声や顔を具体的に思い出そうとすると頭痛がしてくるのだ。

病弱で家から殆ど出たことがなかった楓雅の人間関係なんてたかがしれている。
接点があった人物に会えば記憶が蘇るかもしれないと考え、性別問わず面会してみたが何も思い出さなかった。

残った人物は佳乃という治癒師の女性だけになったが、彼女は行方不明で会えなかった。
仁科家が故意に隠しているのではと疑ったが、調べたところ本当に彼女はいなかった。
生存している可能性を考え、ほうぼうを探して一週間が経っている。

「楓雅様、もう諦めたらいかがですか」

側近の小言を楓雅は笑い飛ばした。

「まだ探していない場所のが多いじゃないか。どこかに絶対いる。確信できる限りは探すぞ」
「大体、一人の女性に執着するなんて、蝶まじりではありえません」
「前例がないわけじゃないだろう」
「それは妖の血が弱かった場合です。楓雅様は蝶の性質を強く受け継いでおられますから、複数の人間から神力を吸わないと弱ってしまうのですよ」
「だから遊郭に行ってるじゃないか。あそこはあらゆる情報も集まるから、人探しもできて一石二鳥だ」
「私が申し上げたいのは、複数の妻を迎えてくださいという話で……」
「佳乃が見つかってから考える。子供のころは彼女の神力だけが不調を改善させたというし、探さない理由はない」
「……かしこまりました」

苦虫を噛んだような表情を従者がしたのに気づかないふりをして、楓雅は夜闇のなかでもひときわ美しい、遊郭の灯りを見つめていた。

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