無能の白髪娘は胡蝶の君と結ばれる 〜噂の遊び人は、かつて救えなかった少年でした〜

夜の帷に穴を開け、昼の明るさと喧騒を抜き出したような街、遊郭。
宵の楽園とも呼ばれるその場所は、どこもきらびやかで妖しい活気に満ちている。
そして夜明けとともに眠りにつき、あたり一面が静まりかえるのだ。

朝一に花咲く薬草を摘みにきた佳乃(かの)だけが、橋のたもとで朝の訪れを見守っていた。
そんな彼女が出会ったのは、蝶の妖(あやかし)と人間の混血──妖まじりや蝶まじりと呼ばれている──である、美しいけれど軽薄な遊び人の男だった。

「どうだ? 過去に出会った蝶まじりより、俺のほうが美男子だろう?」

雅(みやび)様、と花魁たちから呼ばれているとおり、風情のある男だ。
無地の着物とコートは一見質素なのに、深い漆黒の髪と浅葱色の瞳の色が艷やかで華があり、目を惹かれる。

(楓雅(ふうが)様に似てる……ううん、彼は楓雅様だわ)

雅の言う通り、佳乃は過去に蝶の妖と交流したことがある。
楓雅という、10歳前後に見える少年だった。
歴史ある名家の生まれにもかかわらず謙虚で、華族でない佳乃にも礼儀正しく接してくれた。

(あの時亡くなったと思ったのに、生きていらしたのね……!)

歓喜で震え、涙しそうになるのを両手を握ってこらえた。

彼に、自分のことを思い出してほしくなかったから。

(役立たずになってしまった私を見て失望されるくらいなら、初対面の他人として接してもらうほうがずっといいわ)

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