没落令嬢は、再会した年下祓い師の「目」になる

 貴弥の「目」になるため、彼の臨時相棒になった瑠璃は、翌日から貴弥の家にお世話になることになった。
 瑠璃は三春屋に住み込みで働いている。三春屋からも通えるが、時間が不規則になる、と貴弥に説得されたのだ。

「気に入ってくれたか?」

 瑠璃のために用意された部屋で荷物を解いていると、貴弥がやってくる。

「もちろんよ。私には豪華すぎるくらいだわ。ありがとう」

 瑠璃は微笑んだ。

 京本家は瑠璃の想像以上に大きな屋敷だった。同じく祓い師である両親は仕事の都合でほとんど帰ってこないそうだ。
 瑠璃に用意された部屋は、三春屋で瑠璃が暮らしていた部屋の数倍豪華な客間で、今は一庶民でしかない瑠璃は申し訳なく思うくらいだ。しかも、使用人までつけてくれた。

(もしかしたら、私のこと華族令嬢だと思ってるのかしら。「坊ちゃまからお噂はかねがね……」と言っていたし)

 貴弥を幼い頃からよく知っているというその女性のまなざしはとても優しかった。もし何か言われたら、もう華族令嬢ではないと訂正しよう。
 と同時に、瑠璃は自分に期間限定の相棒なのだからこの環境に慣れてはいけない、と言い聞かせる。
 貴弥に誘われたとき、ためらった一番の理由がこれだ。結局三春屋の仕事も休むのだし、とお世話になることにしたけれど。

(貴弥はどこまで私の事情を知っているんだろう……)

 向こうだって、いきなり瑠璃が商家で働いていることに驚いたはずだ。けれど、特にそのことには触れてこない。それがありがたかった。
 瑠璃は、自分でも思うほど過去を割り切れていないのかもしれない。

「そうか。よかった」
「それよりも、その格好ってことは早速仕事?」

 そう。貴弥は祓い師の証である濃紺の羽織を着ていたのだ。

『意図的に特殊なケガレを付着させた品が出回っているんだ。そのケガレは膨張し人に取り憑く』

 貴弥の「目」になると決めたときに聞いた、彼が今追っている事件。
 祓い師は祓師会(ふつしかい)という組織に所属しており、そこから能力を考慮された仕事を振ってもらうのだという。

『三春屋の若旦那に取り憑いていたケガレは、聞いた限り、今俺が追っているケガレにそっくりだ』

 ケガレは人に甚大な影響を与える。それを意図的に付着させるなんて。
 まだ拡大には至っていないらしいが、これは少しでも早く解決しなければならない。
 貴弥が瑠璃に助けを求めるのも当然だと思った。

「ああ。昨日三春屋の若旦那に話を聞いて、少し訪ねたい問屋があるんだ。――瑠璃も付き合ってもらえるか?」
「もちろんよ。あ、でも少し着替えてもいい?」

 瑠璃は、貴弥の家を訪ねるにあたり、今日だけはと一張羅の小花柄の銘仙を着ていた。

「着替える必要、あるのか?」
「動きやすいほうがいいでしょう? 大丈夫。すぐに着替えるから」

 貴弥は何か言いたげにしたけど、結局はわかった、とうなずいた。

(いよいよ初めての仕事ね)

 ケガレと遭遇するかはわからないけれど。
 でも、手伝うと決めた以上、彼の役に立ちたい。少しでも早く事件を解決するためにも。