没落令嬢は、再会した年下祓い師の「目」になる

 三春屋の主人が瑠璃のことを呼んでいる、と言付けをもらったのは、それから三日後のことだった。

(なんだろう。ケガレのことかしら?)

 呼び出される心当たりなど、それくらいしかない。
 首をひねりながらも、主人が待っているという特別室へ行く。

「失礼いたします」

 そう声をかけてふすまを開け――瑠璃は目を見開いた。
 そこには紺色の着物をきっちりと着込んだ貴弥が座っていたのだ。

(何故? 貴弥がここに?)

祓い師の制服を着ていないということは、私的な用事ということだろうか。

「瑠璃。来たか」

 混乱する瑠璃を知ってか知らずか、主人が機嫌良く声をかけてくる。

「いや、まさか今をときめく京本くんが瑠璃と知り合いだったなんてな。彼が瑠璃に話があるらしい」
「話、ですか?」

 つまり、貴弥は瑠璃を瑠璃と認識してここに来たことになる。
 あの短時間で、瑠璃だと気づいたなんて。
 何も知らない令嬢の時とは違い、今の瑠璃はただの庶民だ。一つにまとめた黒髪にはやや艶が足りないし、面立ちも少しきつくなった気がしている。

「じゃあ、京本くん、あとは君にまかせます」

 主人はそう言うとすっくと立ち上がって部屋を出て行ってしまった。思わず瑠璃はその後ろ姿を目で追ってしまう。
 部屋にいるのは貴弥と瑠璃の二人のみ。

「……」

 逃げるわけにはいかない。瑠璃は覚悟を決めて、正座のまま、貴弥の方に向き直ることにした。
 凜とした佇まい。特に涼やかな目元は、瑠璃の記憶の中の彼と全く変わらない。

「久しぶりだな。瑠璃。まさかここであんたに会えるとは思わなかった」

 ほんの少し緊張した面持ちで貴弥が言う。ただ、口調は昔と変わらないままだった。
 だから、瑠璃も昔のままの口調で話す。

「私も驚いたわ。――すっかり一人前の祓い師なのね。若旦那様についていたケガレは、すごく強いものだったわ。あれを祓ったんでしょう?」
「そうか。あんたも見たんだな。ああ。だが、まだまだ修行中だ」

 ゆっくりと貴弥が首を振る。
 少し、沈黙が落ちた。

「それで今日はどうしたの?」

 そうだ。貴弥はわざわざここに再会を喜びにきたわけではないだろう。何か目的があるはずなのだ。
 でも、それが見えない。
 思い切って瑠璃が切り出すと、貴弥はわずかに視線をさまよわせた。

「貴弥?」

 瑠璃が名前を呼ぶと、貴弥はぎゅっと膝の上の拳を握った。
 琥珀がかった色の瞳がこちらを見据える。

 「瑠璃。あんたに俺の『目』になってほしいんだ」