帝都に戻ってからのふたりは、互いの想いを確かめ合いながら少しずつ夫婦としての絆を深めていった。
この年まで恋愛ひとつせずにきた雪緒を景は急かすことなく、ゆっくりと距離を縮めてくれている。名取川家の人たちもそんなふたりの様子に気づいているのだろう。全員が温かな目で見守ってくれるのを感じるたびに、雪緒は幸せな気持ちになるのだった。
そんな生活が急転したのは、三枝家からの便りが届いたことが始まりだった。
これまで一度も便りなど寄越したことがなかったため、何事かと思う思いと警戒心が入り交じりながら、雪緒は封を開いた。
「父上が危篤だと……?」
手紙には雪緒の父が急病で危篤となり、すぐにでも帰ってくるよう記載されている。内容を確認した景はわずかに眉をしかめた。
「臭うな。虚偽の可能性を見ておいたほうがいい」
「やはり景殿もそう思うか」
「そもそも本当に危篤ならば、長々と手紙を書く前に直接連絡してこればいい」
彼の言うことはその通りで、雪緒もこの手紙は十中八九嘘だろうと感じつつ。父親が本当に危篤ならば、放ってはおけない情で揺れ動いていた。
そんな彼女の心情を汲んだのだろう。景は思案げな表情を浮かべたあと。
「実の父親のことだ。どうするかは雪緒の好きにして構わない」
「……いや。やはり何かあると見て、いったん様子見しようと思う」
聞いた彼はわかったとうなずいて、
「三枝家のことは私の方で探りを入れておく。まあ近頃はあまりいい話を聞かないが」
「……そうなのか?」
雪緒はその時になって初めて、三枝の門下生が次々に辞めていること、そのせいで生活が苦しくなっていることを知った。
「君の献身を軽く見ていた代償だ」
「とはいえ妹の子に非はない。なんとか立て直せるとよいのだが……」
自身には何の責任もないとはいえ、実家の苦境は苦いものがある。もしかするとそのせいで父は本当に病に伏してしまったのかもしれない。
景にはいったん保留にするといったものの、明日にでも様子をうかがいに行くことにしよう。
(もし嘘ならすぐに帰ればいいことだ)
彼に話すと大事になりそうで、余計な負担をかけたくなかった雪緒は黙って出向くことにした。
そんな彼女の気遣いは最悪の形で裏切られることとなる。
この年まで恋愛ひとつせずにきた雪緒を景は急かすことなく、ゆっくりと距離を縮めてくれている。名取川家の人たちもそんなふたりの様子に気づいているのだろう。全員が温かな目で見守ってくれるのを感じるたびに、雪緒は幸せな気持ちになるのだった。
そんな生活が急転したのは、三枝家からの便りが届いたことが始まりだった。
これまで一度も便りなど寄越したことがなかったため、何事かと思う思いと警戒心が入り交じりながら、雪緒は封を開いた。
「父上が危篤だと……?」
手紙には雪緒の父が急病で危篤となり、すぐにでも帰ってくるよう記載されている。内容を確認した景はわずかに眉をしかめた。
「臭うな。虚偽の可能性を見ておいたほうがいい」
「やはり景殿もそう思うか」
「そもそも本当に危篤ならば、長々と手紙を書く前に直接連絡してこればいい」
彼の言うことはその通りで、雪緒もこの手紙は十中八九嘘だろうと感じつつ。父親が本当に危篤ならば、放ってはおけない情で揺れ動いていた。
そんな彼女の心情を汲んだのだろう。景は思案げな表情を浮かべたあと。
「実の父親のことだ。どうするかは雪緒の好きにして構わない」
「……いや。やはり何かあると見て、いったん様子見しようと思う」
聞いた彼はわかったとうなずいて、
「三枝家のことは私の方で探りを入れておく。まあ近頃はあまりいい話を聞かないが」
「……そうなのか?」
雪緒はその時になって初めて、三枝の門下生が次々に辞めていること、そのせいで生活が苦しくなっていることを知った。
「君の献身を軽く見ていた代償だ」
「とはいえ妹の子に非はない。なんとか立て直せるとよいのだが……」
自身には何の責任もないとはいえ、実家の苦境は苦いものがある。もしかするとそのせいで父は本当に病に伏してしまったのかもしれない。
景にはいったん保留にするといったものの、明日にでも様子をうかがいに行くことにしよう。
(もし嘘ならすぐに帰ればいいことだ)
彼に話すと大事になりそうで、余計な負担をかけたくなかった雪緒は黙って出向くことにした。
そんな彼女の気遣いは最悪の形で裏切られることとなる。

