「勘違いするなよ、陽和」
玄宵は陽和の顎に指をかけ、無理やり顔をあげた。冷たい指先の感触が、肌を通して熱のように伝わってくる。
「お前に拒否権はない。私情を挟むつもりも、特別扱いするつもりもない。ただの使い勝手のいい駒として、精々役に立ってもらう」
冷徹な瞳で見つめられ、陽和は思わず息をのんだ。胸の奥がギュッと痛む。
「……駒、なのね。本当に、ただの……」
静寂が満ちる取調室に、陽和の消え入りそうな声だけが落ちる。悲しみなのか悔しさなのか、彼女の目に涙がにじんだ。
「承知いたしました、玄宵さま。言いつけに従います」
静かに頭を下げた陽和の頭上から、玄宵の小さな息遣いが聞こえた。そのときほんの一瞬、顎を掴んでいた玄宵の指先が、名残惜しそうに陽和の肌を擦ったような気がした。
しかし陽和が顔を上げたときには、彼はすでに冷酷な陰陽頭の顔に戻り、背を向けたまま立ち止まることもなく重厚な扉を開けた。廊下から差し込む僅かな明かりが、玄宵の冷ややかなシルエットを浮き彫りにする。
「配下に命じて今夜のうちに、お前を私の屋敷の離れに移す。明日からは『陰陽頭に一目惚れされ、強引に屋敷に連れ込まれた特別な側室』として振る舞え」
「……はい」
「勘違いするな。お前の命を守るためではない。囮としての価値を損なわないためだ」
玄宵は一歩踏み出し、振り返ることなく告げた。
「精々、死なんように役目を果たせ」
扉がバタンと、冷たい音を立てて閉まる。ひとり残された陽和は、震える自分の手を胸元でそっと握りしめた。
幼いころに気弱な彼の手を引いて歩いた記憶が、遠い幻のように霞んでいく。さっきまで目の前にいたのは氷の感情しか持ち合わせていない玄宵という男なのだと、悲しみに満ちた切なさが陽和の胸を強く刺した。
玄宵は陽和の顎に指をかけ、無理やり顔をあげた。冷たい指先の感触が、肌を通して熱のように伝わってくる。
「お前に拒否権はない。私情を挟むつもりも、特別扱いするつもりもない。ただの使い勝手のいい駒として、精々役に立ってもらう」
冷徹な瞳で見つめられ、陽和は思わず息をのんだ。胸の奥がギュッと痛む。
「……駒、なのね。本当に、ただの……」
静寂が満ちる取調室に、陽和の消え入りそうな声だけが落ちる。悲しみなのか悔しさなのか、彼女の目に涙がにじんだ。
「承知いたしました、玄宵さま。言いつけに従います」
静かに頭を下げた陽和の頭上から、玄宵の小さな息遣いが聞こえた。そのときほんの一瞬、顎を掴んでいた玄宵の指先が、名残惜しそうに陽和の肌を擦ったような気がした。
しかし陽和が顔を上げたときには、彼はすでに冷酷な陰陽頭の顔に戻り、背を向けたまま立ち止まることもなく重厚な扉を開けた。廊下から差し込む僅かな明かりが、玄宵の冷ややかなシルエットを浮き彫りにする。
「配下に命じて今夜のうちに、お前を私の屋敷の離れに移す。明日からは『陰陽頭に一目惚れされ、強引に屋敷に連れ込まれた特別な側室』として振る舞え」
「……はい」
「勘違いするな。お前の命を守るためではない。囮としての価値を損なわないためだ」
玄宵は一歩踏み出し、振り返ることなく告げた。
「精々、死なんように役目を果たせ」
扉がバタンと、冷たい音を立てて閉まる。ひとり残された陽和は、震える自分の手を胸元でそっと握りしめた。
幼いころに気弱な彼の手を引いて歩いた記憶が、遠い幻のように霞んでいく。さっきまで目の前にいたのは氷の感情しか持ち合わせていない玄宵という男なのだと、悲しみに満ちた切なさが陽和の胸を強く刺した。

