後宮の冷徹陰陽師と朱き花嫁

「私の前で口を挟むな。お前のような下女が、なぜ禁忌とされる古代の術を使える? なぜこの時間に怪異の現れる場所を知っていた? 術を使える怪しい下女など、生かしておくだけで後宮の害毒だ。牢に入れて取り調べる」
「ま、待ってください。玄宵さま! 私を見てください!」
 地面に伏しながらも陽和は必死に顔を上げ、玄宵の瞳を真っすぐに見つめた。
(私のことを忘れてしまったのだろうか。それとも没落した家の娘など、関わりたくないのだろうか……)
 しかし玄宵は必死に訴えかける陽和の視線を容赦なく遮ると、一度も目を合わせることもなく背後の配下たちへ淡々と命じた。
「この者を拘束せよ。術の暴走を防ぐため、霊力を封じる重枷をはめ、地下牢の奥へ放り込め。逃亡を試みた場合は、その場で切り捨てて構わん」
「はっ!」
 玄宵の命に配下の陰陽師たちが容赦なく陽和の両腕を掴み上げ、冷たい鉄の枷をはめる。ガチャリと重い金属音が響いた瞬間、陽和の体内から霊力が吸い取られ、激しいめまいに視界がぐらりと揺れた。
「あぁ……くっ……」
 陰陽師たちが歩き出し引きずられていく間も、陽和は必死に玄宵の背中を見つめ続けた。しかし彼は、一度たりとも振り返ることはなかった。
 幼いころ「私が桐壷さまを守ってあげるね」と手を繋いだ記憶が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
 目の前にいるのは、確かにあの桐壷のはずだ。けれど月明かりの下に佇む彼の孤高の背中は、まるで氷で出来ているかのように硬く冷たい。陽和の知っている桐壷とは完全に別人のようで、瞳の奥にある冷酷な光は“優しい少年”の面影を完璧なまでに消し去っていた。
(どうして……どうしてそんなに冷たい目をするの。あの頃の優しい桐壷さまは、もうどこにもいないのね……)
 拘束され冷たく湿った地下牢へと連行されていく暗闇の中で、陽和は胸が張り裂けそうな絶望と悲しみに打ちひしがれていた。