そして、事件解決から数日後。
陽和は真新しい上質な着物を纏い、陽光が柔らかく注ぐ離れの縁側で、どこか寂しげに遠くの空を見つめていた。
(下女としての処分も免れ、没落した実家の名誉も玄宵さまの手によって回復された。もう後宮にとどまる理由はどこにもない。玄宵さまも、囮としての私を必要としないでしょう……)
役目が終わった以上、いつまでもこの離れに居座るわけにはいかない。けれど彼のそばを離れると思うだけで、胸がちぎれるほど痛かった。
「なぜ、溜息をついている」
そのとき背後から、低く甘い声が響く。
陽和が振り返ると、漆黒の狩衣を纏った玄宵が立っていた。あの冷徹を絵にかいたような名残はどこにもなく、陽和を見つめる瞳には熱い情愛が宿っている。
「玄宵さま。事後の処理やお家再興のご手配のほど、本当にありがとうございました。私の役目も終わりましたので、そろそろ辞して後宮を出ようかと──」
「どこへ行く気だ?」
玄宵の声が、すっと低くなる。
「どこへって……。後宮を出て、新しく立ち上がる実家へと──きゃっ!?」
言葉の途中で、陽和の視界が大きく揺れる。
玄宵は陽和の隣に腰かけると、そのまま逃がさないように彼女の細い腰を力強く引き寄せた。不意に身体を密着させられて、陽和の頰が瞬時に熱くなる。
「玄宵さま!? なにを……っ」
「出すわけがないだろう。言ったはずだ。最初から、お前を開放する気なんてない」
「そんなこと、聞いた覚えは……」
「鳳凰の巫女の正当な血を引く陽和を、陰陽頭である私の正妻として正式に迎えると、帝には既に報告済だ」
「せ、正妻!? 私が、ですか?」
思いがけないあまりにも大きすぎる言葉に陽和は息をのみ、見開いた瞳をしばたたかせた。しかし彼女を真っすぐに見据える玄宵の瞳には、微塵の冗談も迷いもない。
「他に誰がいるというのだ。お前以外の女を、俺の手元に置くと思うのか?」
玄宵は陽和の顎にそっと手を添え、至近距離で彼女の瞳を覗き込んだ。そこには陽和の後ろを泣きながらついてきた、幼い少年の姿はもうどこにもいない。目の前にいるのは陽和を愛し、守り、生涯自分だけのものにすると決めた──ひとりの男だった。
「幼い頃お前は、『私が桐壷さまを守ってあげる』と言ってくれたな」
ポツリと漏らされた玄宵の言葉に、陽和は思わず息をのみ小さくうなずく。ずっと胸の奥に閉じ込めていた幼い日の思い出を、彼もまた一時たりとも忘れていなかったのだ。
「あのときからずっと、俺の心はお前に奪われていた」
玄宵の手が陽和の頬を包み込み、そのまま無理やり視線を固定させる。氷のようだった眼差しには隠し切れない熱と、恐ろしいほどの執着が秘められていた。
陽和は真新しい上質な着物を纏い、陽光が柔らかく注ぐ離れの縁側で、どこか寂しげに遠くの空を見つめていた。
(下女としての処分も免れ、没落した実家の名誉も玄宵さまの手によって回復された。もう後宮にとどまる理由はどこにもない。玄宵さまも、囮としての私を必要としないでしょう……)
役目が終わった以上、いつまでもこの離れに居座るわけにはいかない。けれど彼のそばを離れると思うだけで、胸がちぎれるほど痛かった。
「なぜ、溜息をついている」
そのとき背後から、低く甘い声が響く。
陽和が振り返ると、漆黒の狩衣を纏った玄宵が立っていた。あの冷徹を絵にかいたような名残はどこにもなく、陽和を見つめる瞳には熱い情愛が宿っている。
「玄宵さま。事後の処理やお家再興のご手配のほど、本当にありがとうございました。私の役目も終わりましたので、そろそろ辞して後宮を出ようかと──」
「どこへ行く気だ?」
玄宵の声が、すっと低くなる。
「どこへって……。後宮を出て、新しく立ち上がる実家へと──きゃっ!?」
言葉の途中で、陽和の視界が大きく揺れる。
玄宵は陽和の隣に腰かけると、そのまま逃がさないように彼女の細い腰を力強く引き寄せた。不意に身体を密着させられて、陽和の頰が瞬時に熱くなる。
「玄宵さま!? なにを……っ」
「出すわけがないだろう。言ったはずだ。最初から、お前を開放する気なんてない」
「そんなこと、聞いた覚えは……」
「鳳凰の巫女の正当な血を引く陽和を、陰陽頭である私の正妻として正式に迎えると、帝には既に報告済だ」
「せ、正妻!? 私が、ですか?」
思いがけないあまりにも大きすぎる言葉に陽和は息をのみ、見開いた瞳をしばたたかせた。しかし彼女を真っすぐに見据える玄宵の瞳には、微塵の冗談も迷いもない。
「他に誰がいるというのだ。お前以外の女を、俺の手元に置くと思うのか?」
玄宵は陽和の顎にそっと手を添え、至近距離で彼女の瞳を覗き込んだ。そこには陽和の後ろを泣きながらついてきた、幼い少年の姿はもうどこにもいない。目の前にいるのは陽和を愛し、守り、生涯自分だけのものにすると決めた──ひとりの男だった。
「幼い頃お前は、『私が桐壷さまを守ってあげる』と言ってくれたな」
ポツリと漏らされた玄宵の言葉に、陽和は思わず息をのみ小さくうなずく。ずっと胸の奥に閉じ込めていた幼い日の思い出を、彼もまた一時たりとも忘れていなかったのだ。
「あのときからずっと、俺の心はお前に奪われていた」
玄宵の手が陽和の頬を包み込み、そのまま無理やり視線を固定させる。氷のようだった眼差しには隠し切れない熱と、恐ろしいほどの執着が秘められていた。

