後宮の冷徹陰陽師と朱き花嫁


 藤紫の妃一族の失脚により、後宮を覆っていた黒い呪詛の霧は瞬く間に晴れ渡っていった。
 陽和の中に眠る鳳凰の浄化の炎と玄宵が統治する絶対的な陰陽術の結界というふたつの力が共鳴したことで、後宮の暗部にとどまっていた妖や怨霊の毒気はひとつ残らず討ち払われ、清らかな朝の光が宮中を照らし平和が取り戻されたのだ。
 だが事後処理においては、別の問題が浮上していた。
 藤紫の残党たちが、下女の身分でありながら禁忌の術を用いた陽和を危険視し、朝廷内で処罰を求める声をあげていたのだ。
 しかしそれを一蹴したのは、他でもない陰陽頭の玄宵だった。
「陽和殿は下女などではない。朝廷に功のあった誇り高き“鳳凰の巫女”の正当な継承者である」
 玄宵は堂々とした態度で帝の前に出ると、古い勅許の写しと藤紫一族が過去に謀略を用いて陽和の実家を没落へと追い込んだ決定的な証拠を突きつけた。
 かつて陽和の実家が濡れ衣を着せられて没落した背景には、彼女たちの持つ鳳凰の力を恐れた藤紫一門の汚い画策があった。玄宵はこの数年間、冷血漢のフリをして陰陽頭の地位に君臨しながら、実はその裏で完璧な証拠を集め続けていたのだ。
「陽和殿の家名は再興されるべきであり、過去の罪はすべて無効。さらに今回の後宮呪詛の危機をその身を挺して救った大功臣として、破格の恩賞を下されるのが妥当と存じます」
 玄宵の冷静かつ隙のない舌鋒(ぜっぽう)に、朝臣(あそん)たちは誰ひとり反論できなかった。
 こうして帝の勅命により陽和の実家の名誉回復が果たされ、下女としての処分も白紙撤回されたのである。