「お前がその茶に仕込んだのは東方の禁忌、狂骨の呪言だな。さらにここ数か月、後宮内に蔓延していた呪詛の痕跡と、お前の一族が裏で買い付けていた黒呪の道具の記録。すべて手元に揃っている」
「なっ……なにを根拠のないでたらめを……」
「でたらめかどうかは、これから帝の前で見分すれば、おのずとわかることだ」
玄宵がパチンと指を鳴らすと廊下から配下である陰陽師たちが一斉になだれ込み、藤紫の妃と待女たちを包囲した。
「陰陽頭、無礼ではないですか! 私の父が右大臣であることを、お忘れなのですか!?」
玄宵は怒り狂う藤紫の妃を一切無視し陽和の手から乱暴に茶器を奪い取ると、その茶を畳にぶちまけた。紫煙とともに、畳がじゅうじゅうと音を上げて焼け焦げていく。
「……我が君、帝の御名において命じる」
「な、なにをっ!」
玄宵は藤紫の妃の叫びなどばっさり切り捨て、氷よりも冷たい声で命を告げた。
「後宮内における大逆不道の呪詛の数多、ならびに帝への大不敬罪。藤紫の妃の一族ごと、全員拘束せよ。反抗する者は、その場で切り捨てても構わん」
「ひ、ひぃ……助けて、誰か……っ!」
有無を言わさぬ完璧な手際と圧倒的な威圧感に、後宮の頂点に君臨していた第一妃が泣き叫びながら惨めに引きずられていく。広間に残された他の妃たちは恐怖で顔を蒼白にし、ただ床にひれ伏せている。
「……引き揚げるぞ、陽和」
玄宵は一度も振り返ることなくそう短く告げると陽和の手首を掴み、大股で広間をあとにした。
無言のまま渡り廊下を突き進む玄宵の背中はどこまでも頑なで、まるで触れれば切り裂かれてしまうのではないかと思うほど尖りきっている。
陽和は掴まれている手首に伝わる強烈な力に耐えながら、必死に彼のあとについていく。屋敷の離れに到着し部屋の重い格子戸がバタンと閉まった、その瞬間──。
「……あ」
陽和の手首を掴む玄宵の手が僅かに、けれどはっきりと震えていることに気づく。同時に、手首を締め付けていた力がふっと緩んだ。陽和が顔を上げると玄宵は戸に背を預けたまま、肩を上下にさせて荒い息を吐いていた。
「玄宵……さま?」
陽和の声に振り返った玄宵の顔に、先ほどまで後宮を震撼させていた冷徹な陰陽頭の面影は微塵もない。あるのは青ざめた顔、歪んだ唇、僅かに震える指先。そして今にも崩れ落ちそうな、完璧に余裕を失った必死な眼差しだ。
「……なぜ言わなかった?」
低く掠れた声が、静寂の広がる室内にぽつりと落ちる。
「え?」
「藤紫の妃に呼び出されたことを、あの毒茶の気配に気づいていたことを、なぜもっと早く私に言わなかったと聞いている!」
ドンッと勢いに任せ、玄宵が後ろの戸を拳で強く叩いた。あまりの激しさに陽和が身を竦めようとした、そのとき──。
「なっ……なにを根拠のないでたらめを……」
「でたらめかどうかは、これから帝の前で見分すれば、おのずとわかることだ」
玄宵がパチンと指を鳴らすと廊下から配下である陰陽師たちが一斉になだれ込み、藤紫の妃と待女たちを包囲した。
「陰陽頭、無礼ではないですか! 私の父が右大臣であることを、お忘れなのですか!?」
玄宵は怒り狂う藤紫の妃を一切無視し陽和の手から乱暴に茶器を奪い取ると、その茶を畳にぶちまけた。紫煙とともに、畳がじゅうじゅうと音を上げて焼け焦げていく。
「……我が君、帝の御名において命じる」
「な、なにをっ!」
玄宵は藤紫の妃の叫びなどばっさり切り捨て、氷よりも冷たい声で命を告げた。
「後宮内における大逆不道の呪詛の数多、ならびに帝への大不敬罪。藤紫の妃の一族ごと、全員拘束せよ。反抗する者は、その場で切り捨てても構わん」
「ひ、ひぃ……助けて、誰か……っ!」
有無を言わさぬ完璧な手際と圧倒的な威圧感に、後宮の頂点に君臨していた第一妃が泣き叫びながら惨めに引きずられていく。広間に残された他の妃たちは恐怖で顔を蒼白にし、ただ床にひれ伏せている。
「……引き揚げるぞ、陽和」
玄宵は一度も振り返ることなくそう短く告げると陽和の手首を掴み、大股で広間をあとにした。
無言のまま渡り廊下を突き進む玄宵の背中はどこまでも頑なで、まるで触れれば切り裂かれてしまうのではないかと思うほど尖りきっている。
陽和は掴まれている手首に伝わる強烈な力に耐えながら、必死に彼のあとについていく。屋敷の離れに到着し部屋の重い格子戸がバタンと閉まった、その瞬間──。
「……あ」
陽和の手首を掴む玄宵の手が僅かに、けれどはっきりと震えていることに気づく。同時に、手首を締め付けていた力がふっと緩んだ。陽和が顔を上げると玄宵は戸に背を預けたまま、肩を上下にさせて荒い息を吐いていた。
「玄宵……さま?」
陽和の声に振り返った玄宵の顔に、先ほどまで後宮を震撼させていた冷徹な陰陽頭の面影は微塵もない。あるのは青ざめた顔、歪んだ唇、僅かに震える指先。そして今にも崩れ落ちそうな、完璧に余裕を失った必死な眼差しだ。
「……なぜ言わなかった?」
低く掠れた声が、静寂の広がる室内にぽつりと落ちる。
「え?」
「藤紫の妃に呼び出されたことを、あの毒茶の気配に気づいていたことを、なぜもっと早く私に言わなかったと聞いている!」
ドンッと勢いに任せ、玄宵が後ろの戸を拳で強く叩いた。あまりの激しさに陽和が身を竦めようとした、そのとき──。

