笑わない皇子と金平糖

渋ったものの桐壺に強い声を出され、どうにか妥協してさん付けにして彼女をうかがう。

「まあ、いいでしょう」

諦め気味に桐壺がため息をつき、華子の顔がぱーっと輝いた。

「しかし華子様。
どうして殿方を魅了する術など学びたいのです?
華子様には理仁様がいらっしゃるではありませんか」

「あの、それはその……」

もっともな質問だけに答えに詰まる。

「もしかしてあれですか?
女に磨きをかけてもっと理仁様を喜ばせたい、そういうことでしょうか」

「はい!
そういうことです!」

当たり障りのない予想を言われ、渡りに船とばかりに乗っかった。
もっとも、当たらずといえども遠からずだからまったく違うわけでもない。

「わかりました。
華子様の女心のためならこの桐壺、微力ながらお助けいたします」

多少の誤解はあるものの桐壺が承知してくれ、華子はやる気を燃やしていた。

「華子様。
睨んではいけません、睨んでは。
そっと、そっと見上げるのです」

「こ、こうですか……?」

桐壺に言われるとおりに上目遣いをやろうとするが、どうしても目に力が入ってしまう。

「もっと恥ずかしげに」

「む、難しい……」

開きっぱなしにしている目が乾燥してきて、ついに華子は諦めた。

「はぁーっ。
私、向いてないのかな……」

お茶を淹れてくれた朝顔の目が、なにをやっているのかと冷たいが気にしない。

「桐壺さんは本当に桐壺更衣みたいに気品があって優雅で羨ましいです」

桐壺更衣とは上流階級の娘たちのあいだでは基礎教養となっている、物語に出てくる人物だ。
美しくて帝に寵愛され、まさしく目の前にいる彼女は物語から出てきたみたいに見える。

「まあ。
そんなことはありませんわよ。
そもそも桐壺はあだ名ですし」

ころころとおかしそうに彼女が笑う。
鈴を転がすような声は上品で、気を抜くと大声で笑ってしまう華子からはほど遠い。

「そうなんですか」

「はい。
桐壺更衣に似ていると誰ともなく言いはじめて。
そのうち桐壺と呼ばれるようになっていました。
まあ、私は心労で倒れるような弱い女ではありませんが」

ふふっと意味深に笑う彼女は妖艶で、華子はますます憧れていた。



その後も桐壺による講義は続いた。

「手の内をすべて見せてはいけません。
肝心な部分ははぐらかして殿方の気を引くのです」