笑わない皇子と金平糖

「華子さんは後宮での生活に慣れたかしら?」

おっとりと笑ったお后に尋ねられ、華子は慌てて持っていたカップを置いた。

「はい。
お陰様ですっかり慣れました」

初めて親元から離れたというのに、後宮での暮らしは快適だ。
ただし、理仁のお渡りが一度もないということを除けば。

「それはよかったわー。
なんでも困ったことがあったら言ってちょうだいね?
私たち、もう親子なのだし」

そっと気遣うようにお后が華子の手を取ってくる。

(理仁様が私に会いにきてくださらないのです)

その優しさに縋り、喉まで出てきた言葉を華子はぐっと飲み込んだ。
こんな夫婦間の問題を義母であるお后に知られるわけにはいかない。

「ありがとうございます」

結局、華子は后を安心させるようににっこりと微笑むしかできなかった。

これで正しいのか作法に悩みつつも、初めての西洋菓子に感動する。
どうにかケーキを食べ終え、お茶を飲んでいたらひとりの女房と目があった。
周囲の四苦八苦している女房たちとは違い、彼女はお茶を飲む手を止めて優雅に微笑んでくる。

(素敵……)

年の頃は朝顔、夕顔よりも少しばかり上で、お后付きの女房としては若い。
けれど華子は彼女にここにいる誰よりも気品と、どことなく妖しげな雰囲気を感じていた。

(きっと、殿方の好む女性とはあのような方なのだわ)

華子はどうにかして彼女を自分のところへ招き、どうすれば理仁の気を引けるか教授願えないだろうかと考えていた。



それから数日後、華子は自分の住む藤御殿にお茶会のときの女房を招いていた。

「桐壺(きりつぼ)様!
どうか私にり……」

理仁様と言いかけて、慌てて止める。
夫が婚礼後、一度も会いに来ないなど外に漏れるのは外聞が悪い。

「……殿方を魅了する術を教えてくださいませ!」

「えっと……」

キラキラした目をした華子から両手で手を握って迫られ、女房――桐壺は戸惑いの色が隠せていなかった。

「あの、華子様」

それでもこほんとひとつ咳払いをし、平静を装う。

「まず、〝桐壺様〟はやめてください。
私はただの女房で、あなた様は皇太子妃です。
立場が違います」

「でも……」

けれど華子にとって桐壺は師なのだ。
おいそれと呼び捨てにはできない。

「華子様」

「じゃ、じゃあ、桐壺……さん」