笑わない皇子と金平糖

夫が来ないとひとり、うじうじしているよりもよっぽどいい気がした。

「朝顔!
紙と筆を用意して」

「はい、ただいま!」

すぐに華子の目の前に文机が置かれ、紙と墨が準備される。

「なにを書こうかしら?
まずは私の自己紹介からかな。
あ、淋しいとか書かないようにしないとダメよね。
気を遣わせてしまうし」

悩みながら紙に筆を走らせ、何度も書き直す。
ようやく書き終わった頃には昼餉の時間になっていた。

「華子様。
あれはもはや手紙というより書物では……?」

「え、そうかしら?」

懸紙で包まれた手紙は人差し指と親指を思いっきり開いて掴まねばならないほど、分厚い。

「私のこといろいろ知ってもらおうと思ったら、どんどん長くなっちゃったんだもん」

自分ではなにも思っていなかったが、人に指摘されると頬が熱くなっていった。

「まあ、いいんじゃないですか」

夕顔にまで呆れ気味のため息を落とされ、華子は穴を掘って埋まりたい気持ちになった。

昼餉のあと、庭に咲く桔梗が綺麗だったので一本切り、手紙に添えて理仁に届けてもらう。

「お返事、くださるかしら」

忙しくて書く時間も取れないのなら、花の一本でも返してくれればいい。
華子は今か今かと待ちわびた。



*****

「理仁様。
華子様から書状が届いております」

「華子から?」

入ってきた秘書官に声をかけられ、理仁が書類から顔を上げる。
初夜も放っておいた。
きっと抗議だろう。

「はい。
こちらです」

執務机の上に置かれた物体を眼鏡の奥から睨む。

「書状と言わなかったか?」

「はい、書状です」

しかし目の前にあるのはどう見ても書状ではなく小包だ。

「まあいい、下がれ」

「はっ」

秘書が出ていき、ドアが完全に閉まったのを確認して書状という名の小包を手に取る。

「さて、どんな罵詈雑言が飛んでくるか。
それともさめざめと不満を訴えられるのか」

罵られるのはもう覚悟ができている。
けれど読みながら次第に理仁の口もとが緩んでいった。

長く読んでいたせいで目が疲れ、眼鏡を外して眉間を揉む。

「そういえば服の文句を言っていたな」

再び眼鏡をかけた理仁は、どこか嬉しそうだった。

*****



「昨晩も理仁様、来られなかった……」

今日も朝から華子が、陰鬱なため息をつく。