笑わない皇子と金平糖

「きっと私がおしゃべりだから呆れてたのよ」

もう食欲はなく、箸を置いた華子のお膳は半分も減っていない。

「ご不満があるのならはっきり言うべきですよ。
仮にもこれから夫婦としてやっていくのですし」

夕顔まで渋い顔になる。
心の中には曇天が垂れ込め、これからが不安になっていった。

「大丈夫!
初夜は無駄なおしゃべりしないで、理仁様の気に入る妻を演じてみせるわ!」

けれど空元気でもいいので落ちていきそうな気持ちを奮い立たせる。

「その息です、華子様!」

「そうと決まれば湯殿で身体を磨かねば!」

朝顔も夕顔も自分の気持ちを汲んでくれ、華子の気が少し楽になった。

湯殿で身体を磨き、いい匂いの香油を塗り込んで肌を整える。

「これならどんな殿方でもイチコロです」

「頑張ってくださいまし」

意味深に笑いながら女房のふたりが下がる。

「今度こそ、上手くやるんだから」

決意も新たに華子は理仁を待っていたが――朝になっても彼は寝所に現れなかった。



「理仁様のお渡りがない……」

朝だというのに華子が陰気なため息をつく。
婚礼の日から一度も、理仁は華子の元を訪れていない。

後宮で聞く理仁の話は、華子が知っている彼とはまったく違っていた。
冷酷で笑わない、怒らせたら二度と京都(みやこ)の地を踏めると思うな。
あの優しい彼からは想像できない噂ばかりで華子は困惑していた。

「仕事が忙しいって初夜すらなく、新妻を放っておくなんて酷いですよ!」

「そうですよ。
仮にも藤小路(ふじこうじ)家の姫様をないがしろにするなんて」

朝餉を摂る華子の両側から朝顔と夕顔が遠慮なく文句を言ってきた。

「お忙しいなら仕方ないわ」

苦笑いで華子が味噌汁を啜る。
宮中の朝餉もご飯と味噌汁、焼いた魚が一切れに野菜の煮たのと実家と同じ献立だ。
その中でも味噌汁が。

「あー、美味しい……」

満足げに飲み干したお椀を華子がお膳に戻す。

「これさえあれば多少の困難くらい、乗り切れるわ」

強がりではなく、これは華子の本音だ。
ここの味噌汁は実家と同じ味がして淋しさが紛れ、頑張ろうという気にさせてくれた。

朝餉が終わるとお后からお招きがない日は暇になる。

「そうだ!
理仁様にお手紙を書くのはどうかしら?」

いい考えだとばかりに華子が手を叩く。