笑わない皇子と金平糖

いったん自室として与えられた後宮の離れへと行き、朝顔と夕顔の手を借りて小袿に着替える。

「見た?
見た?
理仁様。
もー、あんなに凜々しくなられて。
……きゃーっ!」

ここには子供の頃から一緒の朝顔と夕顔しかいないのもあり、華子は恥じらいもなく両手を頬に当て、悲鳴を上げて悶えた。

「はいはい。
確かにかなりの美丈夫でございました」

「えー。
朝顔、テキトー」

唇を尖らせて華子が抗議したものの、朝顔は素知らぬ顔だ。

「でも理仁様、一度も華子様と目をあわせてくださいませんでしたね」

「うっ」

夕顔の指摘で華子がぎくりと固まる。

「あ、あれじゃない?
緊張してたとか……?」

華子自身、理仁とまったく視線があわないのには気づいていた。
というか、さりげなく逸らされすらした。
けれど自分だって儀式で緊張しているし、きっと気のせいだと言い聞かせていたのだ。
なのにはっきり言われると認めざるをえない。

「なら、いいのですけど」

夕顔が憂鬱なため息をつき、あんなに光り輝いていた気持ちに雲がかかった。

夕餉は初めて夫婦が共に過ごす供膳の儀だった。
離れの広間でお膳を前に向かいあう。
儀式といっても一緒に食事をするだけで、料理も鯛の尾頭付きがついているくらいで特別なものではない。

(き、気まずい)

着替えた理仁は背広姿になっていた。
しかも繊細な銀のブリッジとツルの縁なし眼鏡をかけ、背広姿で緩く髪を束ねた理仁も格好いいなどと最初は見蕩れていたが、すぐに状況が変わってくる。

「あ、あの」

華子が声をかけると理仁の箸が止まった。

「と、殿方は洋装で羨ましいです。
女はまだ昔のままなの……で」

「……はぁっ」

小さくため息をつかれ、笑顔が固まる。

「す、すみません。
うるさかったですよね。
それでいつも注意されるのに」

じわりと浮いてきた涙をぐっと堪えた。
これくらいで泣くなんてみっともないところは見せたくない。

無言のまま食べ終わり、理仁は部屋を出ていった。

「はぁーっ……」

彼の姿が見えなくなった途端、華子の口からあたりをまっ黒に染めそうなほど重いため息が落ちた。

「あれ、酷くありません!?」

すぐに控えていた朝顔が寄ってきて理仁が去っていった方向を見ながら文句を言うので、華子は苦笑いしていた。