笑わない皇子と金平糖

さらに理仁は将来、華子が嫁ぐ相手だと教えられた。

(あの人のお嫁さんになるんだ)

それがとても嬉しくて、泣くほどつらかった花嫁修業も頑張れた。
そしてとうとう今日、華子は理仁の元へ入輿する。

「華子様、そろそろ出発の時間です」

そのうち、朝顔とは別の女官、夕顔(ゆうがお)が声をかけてきた。
ちなみに朝顔と夕顔は双子で、華子よりふたつほど年上だ。

「華子様、行きましょう」

両側から朝顔と夕顔が差し出す手に自分の手をのせ、ゆっくりと華子は立ち上がった。

華子を乗せた豪奢な輿はゆっくりと街を進んでいく。
御簾越しに見える外には煉瓦造りの建物が建ち並んでいた。
いつもは路面電車が行き交っているが、花嫁一行が通る今日はお休みだ。

「素敵なお着物」

「きっと、お綺麗な方に違いない」

沿道には花嫁行列をひと目見ようと、たくさんの民衆が集まっていた。
もちろん、華子の顔は見えないが、お披露目で衣装――十二単の裾をちらりと御簾から覗かせてある。
人々はその美しさからあれこれ華子について想像しているというわけだ。

「進むの遅いなー。
これじゃいつまで経っても理仁様に会えないじゃない」

輿の中の華子はといえば、理仁に会えるのを今か、今かと待ちわびてそわそわとしていた。

「こほん」

「華子様」

輿の右から咳払いが、左から小声ながらも強い声が聞こえてきて、華子がびくんと身体を揺らす。

「……はい」

しゅんと項垂れたのは一瞬で、華子はすぐに再び姿勢を正し、真っ直ぐに前を見た。
こんな些細なことで理仁を失望させたくない。

華子にとってはもう永遠に辿り着かないのではないかというほどの時間をかけ、ようやく御所に辿り着く。
改めて身なりを調えたあと、神殿で婚礼の儀が始まった。

「天地の神々の……」

神妙な顔を作りつつ、宣誓を読み上げる理仁の顔をちらちらとうかがう。

(大人になってますます素敵になられてるのですが)

束帯姿で長い黒髪を首の後ろで束ねている理仁は凜々しく見えた。
優しいのはもう知っているが、こんなに素敵な方が自分の夫になるなどまだ夢でも見ているみたいで、華子は奇声を発しそうになるのを必死に抑えていた。

宸殿(しんでん)での帝と后への朝見を済ませた頃にはもう、日が傾きはじめていた。

「疲れたー」

「お疲れ様でした」