顔を見あわせ、おかしくなってふたりでけらけらと笑う。
こんなふうに笑うのも彼にとってはひさしぶりだった。
「まあ、そう気にするな。
僕はこっそり夜、布団を被って文句を言っている」
「じゃ、じゃあ、はなこもそうする!」
無意識に手が出て、彼女の髪をくしゃりと撫でていた。
まだ涙の残る目でにこにこ笑っている顔を見ていると、なぜか顔が熱くなった。
「そうだ、食べるか」
懐から出した小さな巾着袋を、彼が彼女の前で開く。
中を見て彼女の目がみるみる輝いていった。
「いいの?」
「ああ」
手を取って、その上に袋を傾けて少し出してやる。
隠してこっそり食べている金平糖だが、彼女にならわけてやってもいい。
「おいしー」
ひとつ口に入れた彼女の顔がみるみる満面の笑みになり、自然と彼も笑っていた。
「華子さまー、華子様、どこですかー?」
そのうち、彼女を探しているらしい女官たちの声が聞こえてくる。
「華子ってお前か?」
「そうだよ。
でも、可愛くないからはなこって呼んでっていうのに、誰も呼んでくれないの!」
可愛らしく彼女が頬を膨らませ、彼はつい苦笑いしていた。
「そうか。
僕はもう行く。
お前もあまり屋敷を抜けだして女房たちを困らせるなよ」
軽く彼女の頭をぽんぽんし、彼はすぐに駆けだした。
「いた、華子様!」
「もう、探したんですよ!」
遠く、彼女を見つけた女房たちの声が聞こえる。
もう声も届かない角まできて、彼はようやく足を止めた。
「華子ではなくはなこ、か」
今日は珍しく機嫌がいい。
彼は少しだけ、未来が楽しみになっていた。
「……というのが私と、理仁様の馴れ初めでね?」
「はいはい華子様。
その話はもう、耳にタコができるほど聞きましたから」
おざなりに返事をし、お付きの女官――朝顔が華子の髪を梳く。
「もう!
だってやっと、その理仁様の元へお嫁入りできるのよ?」
プーッと不満げに頬を膨らませた彼女――華子は少女のようで、これから入輿するのだとは信じられない。
それもそのはず、彼女はまだ十八だ。
屋敷を抜けだして泣いていたあの日、出会った男の子は帝の第一皇子である理仁だとわかった。
開国が進み文明開化が盛んなこの国で今どき、水干姿で髪を角髪に結っている子供など、皇族しかいない。
こんなふうに笑うのも彼にとってはひさしぶりだった。
「まあ、そう気にするな。
僕はこっそり夜、布団を被って文句を言っている」
「じゃ、じゃあ、はなこもそうする!」
無意識に手が出て、彼女の髪をくしゃりと撫でていた。
まだ涙の残る目でにこにこ笑っている顔を見ていると、なぜか顔が熱くなった。
「そうだ、食べるか」
懐から出した小さな巾着袋を、彼が彼女の前で開く。
中を見て彼女の目がみるみる輝いていった。
「いいの?」
「ああ」
手を取って、その上に袋を傾けて少し出してやる。
隠してこっそり食べている金平糖だが、彼女にならわけてやってもいい。
「おいしー」
ひとつ口に入れた彼女の顔がみるみる満面の笑みになり、自然と彼も笑っていた。
「華子さまー、華子様、どこですかー?」
そのうち、彼女を探しているらしい女官たちの声が聞こえてくる。
「華子ってお前か?」
「そうだよ。
でも、可愛くないからはなこって呼んでっていうのに、誰も呼んでくれないの!」
可愛らしく彼女が頬を膨らませ、彼はつい苦笑いしていた。
「そうか。
僕はもう行く。
お前もあまり屋敷を抜けだして女房たちを困らせるなよ」
軽く彼女の頭をぽんぽんし、彼はすぐに駆けだした。
「いた、華子様!」
「もう、探したんですよ!」
遠く、彼女を見つけた女房たちの声が聞こえる。
もう声も届かない角まできて、彼はようやく足を止めた。
「華子ではなくはなこ、か」
今日は珍しく機嫌がいい。
彼は少しだけ、未来が楽しみになっていた。
「……というのが私と、理仁様の馴れ初めでね?」
「はいはい華子様。
その話はもう、耳にタコができるほど聞きましたから」
おざなりに返事をし、お付きの女官――朝顔が華子の髪を梳く。
「もう!
だってやっと、その理仁様の元へお嫁入りできるのよ?」
プーッと不満げに頬を膨らませた彼女――華子は少女のようで、これから入輿するのだとは信じられない。
それもそのはず、彼女はまだ十八だ。
屋敷を抜けだして泣いていたあの日、出会った男の子は帝の第一皇子である理仁だとわかった。
開国が進み文明開化が盛んなこの国で今どき、水干姿で髪を角髪に結っている子供など、皇族しかいない。



