笑わない皇子と金平糖

ぐらんぐらんと肩を掴んで身体を揺らされて遠い目になりながらも、昔と変わらない理仁がますます好きになっていた。



翌朝、華子と理仁は向かいあって朝餉を摂っていた。
理仁の肌は昨日とは違い、殻の剥けたゆで玉子のようにツルピカだ。

「後宮の朝餉ってどんなものなんだろうって思っていたんですが、実家と一緒でほっとしました。
しかもお味噌汁なんて同じ味なんですよ」

「ああ。
藤小路家の料理人から作り方を習って、同じものを出すように命じたからな」

「え?」

思わず華子は、手に持つお椀を見つめていた。

(もしかして私、最初から凄く愛されていた?)

そう気づくと喜んでいいのか早く言ってほしかったと責めるべきなのか微妙な気持ちになる。

「もう我慢しないと決めたからな。
今晩も来る」

「えっと……。
昨日の今日はちょっといいかなー、って」

「なんだ、私が来ると都合が悪いのか」

華子が曖昧に笑い、理仁の機嫌がみるみる悪くなっていく。

「いえ、来てくださるのは嬉しいです!」

(そう、来てくださるのは嬉しいのよ。
でも、夜が激しくて身体が持つか心配なんですもの)

慌てて取り繕いながら華子は内心、重いため息をついていた。

「じゃあ、また夜来る」

朝餉を終え、名残惜しそうに華子に口づけして去りかけた理仁が振り返る。

「そうだ。
これをやる」

内ポケットから小袋を取り出し、理仁は華子の手を取ってのせた。

「これは……」

「金平糖。
好きだっただろ」

そう言いつつ、理仁の顔は真っ赤になっている。

「……はい」

(あの日のこと、覚えていてくださったのだわ)

「ありがとうございます」

華子は大事に金平糖の袋を抱きしめた。

今度こそ、理仁が表へ戻っていく。

「朝顔」

「はい」

「至急、桐壺さんを呼んで」

「は?」

「桐壺さんを呼んで!
大至急!」

「は、はい!」

半ば叫ぶように命じられ、朝顔が大慌てで走っていく。

「桐壺さんにどうしたら殿方の要求に応えられるか教えてもらわないと……」

華子としては真剣な悩みだったがこれがさらなる理仁の誤解を生み、また一波乱あることをまだ知らない。

【終】