笑わない皇子と金平糖

理仁は戸惑い気味にぎゅっと手を握り返してきた。

「ありがとう。
よく考えれば別に私は父上にこの生き方を強制されたわけではなく、自分でそうしなければならないと思い込んでいたのだな。
今、気づいた」

理仁の指先がそっと、まだ涙の残る華子の目尻を拭う。

「もう、見栄を張って理想の自分を演じるのはやめる。
本当の私に失望する人間は勝手に失望すればいい。
それよりもせっかく手に入れたはなこをほかの男に盗られるほうがつらいからな」

華子と目をあわせ、理仁がにかっと笑う。
その笑顔は子供の頃に見た笑顔とまったく変わっていなくて、華子の胸が高鳴った。

「あ、あの。
ほかの男に盗られるって……?」

そもそもなぜ、そんな誤解を理仁がしているのかわからない。

「ん?
はなこが男を落とす方法を桐壺に習っていると聞いた」

「私が習っていたのは理仁様の気を引く方法ですが……?」

「あーっ!」

いきなり大きな声を出し、理仁はがしがしと頭を掻きだした。

「嵌められた!
あの女狐め!」

(女狐……?)

理仁は悔しがっているが今頃、高笑いしているであろう桐壺の姿が思い浮かんでおかしくなってくる。

「まあ、あの方のおかげで理仁様の正直な気持ちが聞けて感謝しております」

「確かにそうだな」

理仁も同意だとばかりに諦めたようにため息をついた。

「それで、だ」

改まって向かいあい、理仁が華子の両手を取ってくる。

「もう我慢をするのはやめた。
私は幼きあの日から、はなこを愛している。
はなこの正直な気持ちを聞かせてほしい」

怖いくらい真剣な目で理仁に見つめられ、華子の喉がごくりと鳴った。

「私も理仁様を……」

そこまで言って華子が止まる。

『肝心な部分ははぐらかして殿方の気を引くのです』
いつぞやの桐壺の言葉が脳裏に蘇ってきた。

(ここはより完璧にするために、桐壺さんの教えを実践するときでは?)

「理仁様を?」

期待を込めて聞き返す理仁から手を解き、桐壺が実演したとおりに袖で口もとを隠し目を逸らす。

「好きかと聞かれたら……そのようなこと、わたくしの口から言わせるのですか」

精一杯の上目遣いで見上げると、理仁は黙ったままなにも言わない。

(決まった!)

と、華子は勝利を確信したが。

「言わせたいに決まってるだろ!」