笑わない皇子と金平糖

きっと捨てられたのだと思っていた。
まさか、使っていたなどとは思わない。

「手紙は」

「全部読んで取ってある」

「ではなぜ、一度も会いに来てくださらなかったのですか……?」

涙で濡れた目で、華子が理仁を見上げる。
しばらくレンズ越しに華子を見つめたあと理仁が目を逸らし、やはり自分は嫌われているのだと華子は胸が張り裂ける思いだった。

「……私の噂を知っているか」

これからのことを華子が思案していると理仁が唐突に口を開く。

「え、はい」

「一分遅れただけで降格された、反論したら宮中を追われた。
……まあ、全部事実ではないけれどな」

自嘲するように理仁の口もとが歪み、華子までつらくなった。

「しかしそんなふうに思われているのがこの私だ。
その私が妻に惚れ込んでいるとか知られたら……!」

「……え?」

理仁は真剣に悩んでいるが、華子の口からは変な声が出た。

(え、そんな理由で今まで会いにきてくださらなかったの?)

華子としてはくだらなすぎる理由だが、理仁にとっては深刻そうだ。

「呆れているのはわかる、わかっているが、……うん、まあそうだな」

小さくため息をつき、理仁は諦めたかのように話しだした。

「昔の私はよくいえば元気で、まあなんというか粗忽者だったんだ。
反対に弟は学問もできてしっかり者で、次の帝にと周囲の期待も高かった。
けれど父上は皇太子に私を選んでくださり、それからは父上の期待に応えようと頑張った。
そうしてできたのが今の私だ」

顔を上げた理仁が困ったように笑い、どうしていいのかわからない。

(私はもっとおしとやかに、皇子妃らしくとは躾けられたけれど、自分を変える必要はなかった。
けれど理仁様はあのあと、自分らしく生きることすらできなくなってしまったのだわ)

そっと華子の手が理仁の手を握る。

「理仁様は変わられてしまいました」

「うん、そうだな」

苦しげに理仁の顔が歪んだが、かまわずに続けた。

「けれど理仁様の根っこの部分は変わられていません」

レンズの向こうで理仁が、大きく目を見張る。

(確かに表に見える顔は昔と違って怖い方だけれど。
私の手紙を全部読んで取っていてくれたり、贈ったものを大事に使ってくださっている理仁様はあの頃からまったく変わらない、優しい方だわ)