笑わない皇子と金平糖

「華子!
私という夫がいながらほかの男の気を引こうとはどういう了見だ!」

凄い勢いで男――理仁に怒鳴られ、華子の身体がびくりと大きく震える。
助けを求めようと目の前にいる夕顔の手を掴んだものの。

「あらあら」

「うふふ」

なにやら楽しそうに笑った朝顔とともに、華子の手を振り払って部屋を出ていった。

「どういうことなのか説明しろ!
いや、説明などいらん!
私の華子をほかの男にやったりするものか!」

華子の前にどさっと腰を下ろした理仁は怒り心頭で、朝顔と夕顔が出ていったことにすら気づいていない。

(こ、怖い。
私、こんなに理仁様を怒らせることをやったんだ)

「あ、あの……」

「そんなに私が不満か!
不満があるのはわかっている!
だからといってほかの男など、絶対に許さんぞ!」

せめてなにをやったのか聞こうとするが、理仁はまったく聞く耳を持たずに怒鳴り続ける。

「み」

「み?」

華子の様子が変わったと気づいたのか、理仁が怪訝そうに止まる。

「みー、みー」

恐怖に耐えかね、ついに華子は幼子のように泣きはじめた。

「あー……」

泣きじゃくる華子を見て頭が冷えたのか、理仁は困ったように首の後ろを掻いている。

「……泣くな」

ぽんと理仁の手が頭にのり、華子の泣き声が途切れた。

「怒鳴って悪かった。
はなこに泣かれると、困る」

躊躇い気味にくしゃりと、理仁の手が華子の髪を撫でる。

(今、〝はなこ〟って)

その呼び名は昔、そう呼んでほしいのに周囲は呼んでくれないと理仁に不満を漏らしたものだ。

(まだ覚えていてくださったんだ)

華子がそろりと顔を上げると、どうしていいのかわからないといった顔でそっぽを向いている理仁が見えた。

「……それ」

「ん?」

華子の視線に気づいたのか、理仁の手が自分の髪に行く。
そこに結んである髪紐を慌てて解きかけてやめ、しかし見られたくないのか手で隠し、最終的に諦めたのかため息をついた。

「私が贈ったものですよね」

「ああ」

理仁の指先が、気まずそうにくるくると髪紐の房を弄ぶ。

「使ってくださっていたのですか」

藤色に銀糸の入った組み紐は華子が組んだもので間違いない。

「そうだな」

「もしかしてほかのものも」

「全部大事に使っている」

ぶっきらぼうに理仁が答える。