笑わない皇子と金平糖

「肝心な部分を……はぐらかす?」

意味がわからず華子の首が横に倒れ、桐壺は思わず笑っていた。

「そうです。
例えば理仁様から自分が好きかと尋ねられたとします。
華子様ならなんと答えますか?」

「もちろん、理仁様が好きです!」

部屋の隅に控えていた朝顔が額に手を当て首を振っているが、見えないフリをする。

「華子様らしい素直な答えです」

「へへへ」

「でも」

褒められたのかと嬉しくなったのは一瞬で、桐壺の強い声ですぐに背筋が伸びた。

「ここは、こうです」

こほんと桐壺が小さく咳払いした途端、空気が変わる。
そっと袖で口もとを隠し、恥ずかしげに目を伏せた。
もうそれだけで華子の胸はどきどきしっぱなしだ。

「好きかと聞かれたら……そのようなこと、わたくしの口から言わせるのですか」

すーっと潤んだ目をして上目遣いで見上げられ、華子の心臓がどくんと大きく跳ねる。

「ご理解いただけましたでしょうか」

「は、はい!」

平常に戻った桐壺に声をかけられ、我に返って華子は慌てて返事をした。

(桐壺さん、凄い。
同性なのに思わず好きになっちゃいそうだったもん。
私もあんなふうにできるんだろうか。
ううん、できるようになって理仁様に好きになってもらうんだけど!)

「私もやってみます!
えっと、こう?」

「そうそう、前よりずいぶんよくなりましたよ」

自分も桐壺のようになって理仁の気を引くのだと華子は闘志を燃やしていたが……。



その日も桐壺の講義だったが、いつまで経っても彼女がやってこない。
知らせもなく、時間厳守な彼女にしては珍しかった。

「はっ。
これが女は約束の時間に遅れるものというあれでは……?」

「違います」

どうにか自分に言い聞かせようとしたのに、朝顔の冷たい指摘が入ってきて落ち込んだ。

「でも、きちんとしている桐壺さんが知らせもなく無断で休むなんておかしいです」

夕顔の言葉に同意だと華子が頷く。

「お手紙、書いてみようかな……」

などと悩んでいたら、遠く怒鳴り声が聞こえてきた。

「え、なに?」

「見てまいります」

朝顔が腰を浮かせた頃にはどすどすと乱雑な足音が近づいてきている。
守るように夕顔が華子の前に座り、立ち上がった朝顔が手をかけるよりも早く戸が開いた。