笑わない皇子と金平糖

――これは私たちの知る日本と似ているけれど、どこか違う国のお話。


水干姿の少年が、細い路地を駆けていく。
すらりと長い手足はまだどこか、幼さを残していた。角髪(みずら)に結われた髪の、長い垂れ先が、風になびく。
息を上げ、走る彼の足は軽やかだ。

宮廷を抜けだし、裏路地を進んだ先。
人に忘れられた祠があるぽっかりとした空間が彼にとっては唯一、息がつける場所だった。
今日も講義の合間を縫ってやってくると、珍しく先客がいるのに気づいた。

(ここは僕だけの場所なのに)

断りもなく勝手に入られたような気がして、文句を言ってやろうと乱雑に歩を進めるとすぐに小さな女の子の泣き声が聞こえてきて足が止まった。

「みー、みー」

今度は足音を立てないようにそっと近づく。
そこでは年の頃は六つか七つくらいの女の子が、半ば朽ちかけた祠の前でしゃがんで泣いていた。

「どうしたの……?」

おそるおそる声をかけると泣き声が途絶える。
ゆっくりと顔を上げた彼女と目があった。

「だ、だれ……?」

ひっく、ひっくとしゃくりながら彼女が、怯えた視線を向けてくる。

「僕は……」

そこまで言って、言葉が途切れた。
相手が子供でも自分の身分をあかすわけにはいかない。

「だ、誰だっていいだろ」

しかしどう誤魔化していいのかわからず、唇を尖らせて言い返す。

「お前こそ誰だ?
ここでなにをしている」

「はなこはね、お勉強ができなくて叱られたの」

舌っ足らずに彼女が話しだすので、少年は目の前にしゃがんで視線をあわせた。

「勉強ができなくて叱られた?」

うんと彼女が頷く。

「お話が終わるまで動いてはダメって言われても、つい動いちゃうの」

それは彼にも経験があった。
長い時間、背筋を伸ばして座っているのはつらいものだ。
自分よりも小さい子となればなおさらだろう。

「出されたお菓子はひとつまでってわかってても、美味しくてふたつ目を食べて怒られるの」

「うん、まあそれは、つらいよな。
僕もよく怒られる。
講義のあいだはあくびをしてはいけません、だろ?」

彼は少女の隣に足を投げ出して座り、地面に両手をついた。

「廊下を走ってはいけません、大声で笑ってはいけません。
うるさいって」

「あ、大声で笑っちゃダメは、はなこも言われる!」

「お前も!?」