掃除の20分、友だちだったあいつに恋をした。

「天!今日、遊びに行こうぜ。」

ついにきた金曜日。
五限終了のチャイムが鳴り、荷物をリュックに放り込んでいたところ加藤に誘われた。

「ごめん、今日は予定があって。」

「え~。なんだよ、中島も彼女とデートだって言うしさ。」

残念そうに眉毛を八の字にする加藤。
せっせと帰り支度をする俺をみて何かを閃いたようだった。

「もしかして、天もデートじゃないよな。」

「はあ⁉」

「だってなんかいつもと様子が違う気がする!」

「ちげぇよ。水口と遊ぶんだよ。」

「水口と?そんなに仲良かったっけ。」

「まあ、あれだ掃除場所が一緒でそこから。」

「あ~なるほど。」

加藤が納得したその時だった。

「高橋準備できたか?」

加藤の背後から水口が姿を現した。

「おう。じゃあな、加藤。」


「じゃあな~、天、来週は俺と遊べよ~。」

「分かった。」

加藤に適当に返事をして、水口と教室を出る。

「で、どこ行く?」

上履きから靴に履き替えながら、水口に聞く。

「公園行かない?」

「公園?」

てっきり、ファミレスとかゲーセンとかカラオケとかそういう場所に
行くんだと思っていたため、意表を突かれた。

「隣駅の近くに大きい公園があるだろ。」

「あ~秋町公園か。」

「そうそこ、行こ。」

俺の返事を聞かずに歩き出す水口。

「おい、待てよ!」

慌てて水口を追いかけた。

「なぁ、この時間なに。」

俺と水口はでっかい公園の隅にあるベンチに座っている。

「高橋、俺のことそんなに知らないって言うからゆっくり話そうと思って。」

「だからって、学校の近くにファミレスとかあるじゃん。」

「そこだと学校の奴ら多いし。」

「別に秘密の話するわけじゃないからいいだろ。」

「良くない。俺のことは高橋だけに知ってほしい。」

「・・・なんだそれ。」

俺は恥ずかしくなってぷいっと水口いる方とは逆に顔を向けた。

「あ、照れちゃった?」

揶揄うような口調で距離を詰めてくる。

「・・・うるさい。そんなに自分のこと話したいなら話せよ。」

「俺の話もしたいけど、高橋のことも教えて。」

「俺のこと?」

俺のこと知ってどうしたいのだろうか。
そこらへんにいるただの男子高校生のことなんて。

「高橋って彼女いたことある?」

「は⁉喧嘩売ってる?」

「なんでそうなるんだよ。だた聞いただけじゃん。」

モテモテの水口からしたら、彼女がいたことがあるのが普通なのかもしれない。
人生で一度もできたことない人間がいるなんて思ってないのだろう。

「・・・ない。」

「え?」

「だから、彼女できたことないって言ってんだろ。」

少し怒りながら言う俺を見て驚いた表情の水口。信じられないんだろう。
水口みたいにモテる人間ばかりじゃないって気付いたか。

「・・・そうなんだ。」

なぜか水口は笑っていた。俺の弱みを握って嬉しいのかもしれない。

「水口はモテモテだから、そういうの困らないだろ。」

「好きじゃない人からの好意はいらない。」

きっぱり言い切る水口は怖くなるほど、冷たい表情をしていた。
好きじゃない人からの好意?それって好きな人がいるってことなのか。

「それって好きな人がいるってこと?」

「えっ!水口くんだ!」

俺が質問を言い終えた後すぐ、聞き覚えのある声がして顔を上げた。
そこには水口と掃除場所を一緒にすれば良かったと悔しがっていたクラスの女子二人組がいた。

「高橋くんと一緒なの?何してるの?」

水口に詰め寄るが、水口は何も答えない。
さすがに女子に悪いなと思って

「たまたま公園に来たんだ。」

と、俺が答えた。

「え、そうなの?私たちもたまたま来ててさ。良かったら一緒に話さ」
「話さない。行こう、高橋。」

女子の言葉を遮って、水口が立ち上がった。
そして俺の腕を掴むとどんどん歩いていく。
女子たちはショックを受けたように固まっている。

「お、おい!」

少し歩いたところで、腕が解放され水口の足が止まった。

「どうしたんだよ。」

俯く水口の顔を見ると、さっきと同じ冷たい表情をしていた。
そうか、こいつは今までもこうやって女子たちに囲まれて、踏み込まれて、
嫌な思いをたくさんしてきたのだろう。
嫌だった思いを過去をどうにか消してあげられたらいいのに。

「なあ、俺にもっと水口のこと教えてよ。」

俺は手を伸ばして少し背伸びをした。
なぜか水口のこと元気づけたいと思った。伸ばした手を水口の頭に乗せた。
その手を水口がそっと握ってくる。
目と目が合って、今この世界には二人だけしかいないような錯覚に陥る。
胸が高鳴って、口から心臓が出そうになったとき。

 「ワンっ!」

散歩をしていたのであろう、ゴールデンレトリーバーに吠えられ、はっとなった。

「こら、やめなさい!ごめんなさいね~。」

飼い主の女性がゴールデンレトリーバーに「はやくいくよ!」と言って、足早に去って行った。
俺たちに残ったのは少しの気まずさだった。

「腕引っ張って、ごめん。」

先に口を開いたのは、水口だった。

「いや、大丈夫。俺こそ頭に手・・・ごめん。」

「それは別にむしろ有難いというか・・・」

なんだこの甘ったるい空気は。耐えられなくなった俺は

「おい、あそこの木まで競争な!」

と言って、走り出した。

さっきのことはなかったことにするんだ。
俺はただ、水田の抱えている闇を少しでも消したくて、それでそれで。

「陸上部に勝てると思うなよ。」

水口が猛スピードで追いかけてくる。

「お前、俺じゃなくて木に向かえよ!」

すぐに水口に追いつかれ、肩を掴まれ、二人ともその場に転がった。

「部活休みの日に、走らせるな。」

「ちょっとくらいいいだろ。」

二人の荒い息が段々と落ち着いていく。

「高橋って何人兄弟?」

「今聞く質問かよそれ。」

「いいだろ。」

「俺は、姉ちゃん二人だよ。」

「あ~末っ子な感じすごいするわ。」

「なんでだよ。お前は?」

「俺は一人っ子だよ。」

「あ~そんな感じするわ。」

「おい!」

俺の言葉に水口が怒ったような表情になって、お腹をくすぐってきた。

「やめろよ!」

俺もやり返そうと水口のお腹に手を伸ばす。
もうすぐ届くって頃に腕を掴まれ、水口が俺に覆いかぶさるような姿勢になる。
さっきの甘ったるい空気がまた漂い始める。

「ねぇ、天って呼んでいい?」

「別にいいけど、何でも。」

名前くらいなんでもいい。加藤だって俺のこと「天」って呼ぶし。

水口は、少し微笑んだような表情を見せる。

「俺のことも名前で呼んで。」

「下の名前知らないし。」

「爽」
 
「そ、そう。」

ただ、友だちの名前を呼ぶだけなのに胸が騒がしくて
今にも消えたくなるくらい恥ずかしくなる。
俺に名前を呼ばれて爽は嬉しそうに笑う。
表情があんまり変わらないって女子たちが噂をしていたけど、そんなの嘘だ。
俺といるときの爽は、笑ったり怒ったり表情をころころ変える。
俺が友だちだからなのか。そのことに特別な意味なんかなくても少し優越感を感じる。

「天。俺とずっと仲良くしてくれ。」

祈るような縋るようなそんな声で爽は俺にお願いをした。

「仕方ないな。」

俺はフッと笑って今度こそ爽のお腹をくすぐった。

公園からの帰り道。先を歩く俺を「天。」と爽が呼ぶ。

「何?」
 
「ねぇ、また二人で遊びに行かね。」

「いいけど、次は公園以外な。」
 
「楽しかっただろ。」

「見ろ、Yシャツがこんなに汚れただろ。次は屋内な。」

「じゃあ、次は天の家行く。ポメラニアンに会いたい。」

家に誰かを呼ぶのは初めてじゃないしまぁいいか。
姉ちゃんたちがいたら面倒だけど仕事と大学でいないときを狙おう。

「別にいいけど。」

俺の返答に「やった。」と喜ぶ爽を見て、やっぱり変な奴だなって思った。