天界物語①『女神アフディーの初恋』

 彼女の視界――磨き上げられた教卓の端から、見覚えのあるカタツムリが静かに現れ、じっと彼女を見つめます。

「……もう、時間が来たようだね」

 女教師は優しく呟くと、ポケットからあの『孔雀の羽根』を取り出し、愛おしそうに見つめました。

 足元には「食いしん坊のうさぎ」が、周りを気にしながら寄り添うように近づきます。

 どこからか飛んできた「アオショウビン」が、女教師の肩に静かに止まり、済ました表情をしています。

 それは西日が差し込む、午後の教室での出来事でした。

 その日を境に、教師の名前や存在の記憶は、眩い光に溶けるように消えてしまうのでした。

 誰もが胸の奥に戸惑いを抱えながらも、普段通りの生活を送り、その不思議を口に出す者は一人もいません。

 ですが、彼らの心の中には。 消えない灯火のように、『愛』の記憶だけが、いつまでも温かく残り続けるのです。

 誰かを信じることの尊さ。 泥だらけになって笑い合った、あのお芋の温もり。

 手に触れなかったからこそ永遠になった孔雀の輝き。

 これから先、傷つき、戸惑いながらも、少しずつ大人になって前に進んでいく子供たち――。

 迷いそうになった時、それらの記憶は『絆』『情愛』『信愛』と形を変え、理由もわからないまま胸を温かく満たすのでした。

 彼らはその愛おしい感覚を道標にしながら、自分の足で一歩ずつ、未来へと生きていくのです。

 それこそが、かつて人間に恋をした女神アフディーが地上に残した、たった一つの、そして最大の「悪戯」だったのかもしれません。


 おしまい。