天界物語①『女神アフディーの初恋』

 次に二人を待ち受けていたのは、みずみずしい沼地でした。

 食いしん坊のウサギだけは、何食わぬ顔でひょいひょいと渡りきり、対岸の木から垂れる蔦(つた)をムシャムシャと食べ始めています。

 それを見て、息を呑むアロンでしたが、意を結したように自分に言い聞かせます。

「……よし、行くぞ」

 アロンが一歩踏み出すと、足がズブズブと沈み込みました。
 一歩抜くたびに重たい泥がまとわりつき、なかなか前へ進めません。
 頑張るアロンを見て、アフディー様も我に帰ります。

「私だって、これくらい……」

 負けじと足を踏み入れたアフディー様でしたが、沈み込む泥から足が抜けず、バランスを崩して前のめりに転倒してしまいます。

 沼に両手をつき、跳ね上がった泥水で顔を真っ黒に汚してしまいました。

 アロンは驚き、かける言葉が見つかりませんでしたが、アフディー様が、すかさず手で泥水を拭うと、手についた泥で更に顔を汚します。

「あはははっ。なんだよその顔、真っ黒じゃないか」

 腹を抱えて笑ったアロンでしたが、笑いすぎた拍子にバランスを崩し、派手に尻もちをつきました。

 跳ね返った泥が、彼のシャツを大袈裟に汚します。

「何よ。 アロンだって泥だらけじゃないの」

 その光景を見下ろしながら、「情熱的な青い鳥」が翼を広げて歌い上げます。

「おお、なんという分かち合い。泥を分け合い、苦難を共にする。これぞ、魂が純白である者にしかできぬ行為。お二人は今まさに輝に満ちていますぞ」

「「どこがだよ!」」

 二人は声が揃うと、お互いのひどい姿を見合わせ、今度は二人で大きな笑い声を森の中に響かせました。