人知を超えた速度で成長する蔦に絡みとられた華枝の悲鳴が響く。
あたりの雑草が急速に繁茂し、揺れる柳の枝までもが華枝の足をすくう。
それは、たしかに異能だった。無能のはずの異母姉が、花姫の神力を覚醒させた瞬間だった。
花姫が春の花守に貸し与える、植物を目覚めさせ、芽吹かせる力。もがけばもがくほどに蔦は絡まり、咲き誇る藤の花の香りに全身を包まれる。
「嘘よ、お義姉さまがこんな……。ありえない、ありえないありえない!」
激高した華枝は、異能の炎を全身に纏って蔦を振り切ろうとした。
それは自らの花顔も焼く、憤怒の炎だった。
肌が、髪が焦げる、忌まわしい匂いが周囲に満ちる。悲鳴を聞いて、千代は華枝に駆け寄った。
「駄目、華枝……! それじゃあなたまで……っ」
いつも、逃げ出したいと思っていた。それでも、異母妹の死を願ったことはなかった。華枝はただ、育った環境が悪かっただけ。普通の家庭で育てば、仲の良い姉妹になれたかもしれないのに。
火の渦は、やがて竜のように空に立ち上る。しかし、その業火は千代に届く前に水に飲まれて消える。
「千代、無事か……!?」
暗闇からランプを手に駆けつけてきた式武官の一団の先頭を行くのは、瑞貴だった。
瑞貴が手を振ると華枝を飲み込んでいた水の玉は弾けて消える。
瑞貴の異能に飲まれ、華枝は力を使い果たしたのか、その場に頽れて動かなくなる。
「殿下……っ?」
肩を掴まれ、千代の視界は目と鼻の先に迫った瑞貴の顔でいっぱいになった。
「なぜここに……」
「清涼殿を尋ね、瑠璃から報告を受けた。なぜ俺に報せなかった!」
怒らせてしまった。千代は所在なく身を縮めた。結局、神饌も取り戻せず、千代はまた失敗した。
「あなたの、期待に、応えたくて」
信じたいと思った。期待に応えたいと思った。
「ごめんなさい。神饌を守れなくて。で、でも……どうやら、神力が使えるようになったようです。これで、少しはわたしを信じてくれたあなたのお役に立てますでしょうか?」
なんとか笑みを浮かべてみせる。今更ながらに震えが出てきたようだ。
絞り出した声に、瑞貴は言葉を詰まらせた。それから、温かな何かに包まれて、千代は目を丸くした。ややあって、瑞貴の腕に抱きしめられていることに気づいた。ふわりと薄荷のさわやかな香りが鼻孔をくすぐる。
「殿下……?」
「心配をした。君が無事でよかった……」
千代はおずおずと瑞貴の背中に手を伸ばした。
「俺は、……生きていてくれたら、いい。だから、金輪際一人でこんな無茶をしないでくれ」
絞り出すような声に、彼の不安がにじむ。
優しい人。千代を心から案じてくれる人。神力が発現したことよりも、まずは千代の無事を喜んでくれる人。
「……はい」
彼の安息に繋がるのなら、なんだってできる。そう思えたから。
あたりの雑草が急速に繁茂し、揺れる柳の枝までもが華枝の足をすくう。
それは、たしかに異能だった。無能のはずの異母姉が、花姫の神力を覚醒させた瞬間だった。
花姫が春の花守に貸し与える、植物を目覚めさせ、芽吹かせる力。もがけばもがくほどに蔦は絡まり、咲き誇る藤の花の香りに全身を包まれる。
「嘘よ、お義姉さまがこんな……。ありえない、ありえないありえない!」
激高した華枝は、異能の炎を全身に纏って蔦を振り切ろうとした。
それは自らの花顔も焼く、憤怒の炎だった。
肌が、髪が焦げる、忌まわしい匂いが周囲に満ちる。悲鳴を聞いて、千代は華枝に駆け寄った。
「駄目、華枝……! それじゃあなたまで……っ」
いつも、逃げ出したいと思っていた。それでも、異母妹の死を願ったことはなかった。華枝はただ、育った環境が悪かっただけ。普通の家庭で育てば、仲の良い姉妹になれたかもしれないのに。
火の渦は、やがて竜のように空に立ち上る。しかし、その業火は千代に届く前に水に飲まれて消える。
「千代、無事か……!?」
暗闇からランプを手に駆けつけてきた式武官の一団の先頭を行くのは、瑞貴だった。
瑞貴が手を振ると華枝を飲み込んでいた水の玉は弾けて消える。
瑞貴の異能に飲まれ、華枝は力を使い果たしたのか、その場に頽れて動かなくなる。
「殿下……っ?」
肩を掴まれ、千代の視界は目と鼻の先に迫った瑞貴の顔でいっぱいになった。
「なぜここに……」
「清涼殿を尋ね、瑠璃から報告を受けた。なぜ俺に報せなかった!」
怒らせてしまった。千代は所在なく身を縮めた。結局、神饌も取り戻せず、千代はまた失敗した。
「あなたの、期待に、応えたくて」
信じたいと思った。期待に応えたいと思った。
「ごめんなさい。神饌を守れなくて。で、でも……どうやら、神力が使えるようになったようです。これで、少しはわたしを信じてくれたあなたのお役に立てますでしょうか?」
なんとか笑みを浮かべてみせる。今更ながらに震えが出てきたようだ。
絞り出した声に、瑞貴は言葉を詰まらせた。それから、温かな何かに包まれて、千代は目を丸くした。ややあって、瑞貴の腕に抱きしめられていることに気づいた。ふわりと薄荷のさわやかな香りが鼻孔をくすぐる。
「殿下……?」
「心配をした。君が無事でよかった……」
千代はおずおずと瑞貴の背中に手を伸ばした。
「俺は、……生きていてくれたら、いい。だから、金輪際一人でこんな無茶をしないでくれ」
絞り出すような声に、彼の不安がにじむ。
優しい人。千代を心から案じてくれる人。神力が発現したことよりも、まずは千代の無事を喜んでくれる人。
「……はい」
彼の安息に繋がるのなら、なんだってできる。そう思えたから。
