「おはよう、ミナト!」
「おはよう、アレン!」
朝、教室に入るとアレンが笑顔で手を振ってくれた。
その隣にはカイル。
……うん。
いつもどおりの光景だ。
ただし。
「……アレン、顔が赤くない?」
「えっ!? そ、そうかな!?」
「うん。熱でもある?」
「な、ないよ!」
アレンは慌てて首を振った。
その横でカイルが、ものすごく気まずそうに視線をそらしている。
…………。
俺は二人を交互に見た。
昨日。
俺は。
見てしまった。
二人の初キスを。
「…………」
「ミナト?」
「……いえ。今日も世界は平和だなと思いまして」
「またそれ!?」
アレンが困ったように笑った。
カイルは咳払いをひとつする。
「……ミナト。昨日のことだが」
「はい!! 誰にも言ってません!!」
「……そうか。ありがとう」
「二人の秘密だからね!!」
「み、ミナト! 声が大きいよ!!」
「あっ、ごめん!!」
俺は慌てて口を押さえた。
やばい。
うっかり口を滑らせたら大変だ。
二人の大切な思い出なんだから、絶対に守らなければ!
それにしても。
初キスをした翌日の二人って、こんなに初々しいんだ……。
アレンがカイルを見るたびに照れて、カイルもアレンの視線に気づくと少しだけ耳を赤くする。
昨日までの二人に、ほんの少しだけ甘い空気が加わっている。
……尊い。
本当に尊い。
俺は机に突っ伏した。
「ミナト!? 今度はどうしたの!?」
「……幸せです」
「えっ?」
「俺は今、すごく幸せです……」
「そ、そっか……?」
アレンは不思議そうに首をかしげた。
カイルは小さくため息をついたけれど、その表情はどこか柔らかかった。
そんな二人を見ていると、俺まで嬉しくなる。
この幸せが、ずっと続けばいい。
心からそう思った。
◆ ◆ ◆
昼休み。
俺は中庭のベンチで、ノアと一緒にパンを食べていた。
「ねえ、ノア」
「ん? どうしたの、ミナトくん?」
「好きな人って、どんな感じなんだろう?」
ノアがパンを持ったまま固まった。
「…………え?」
「いや、アレンとカイルを見てたら、ふと気になって」
「ああ……なるほど」
ノアは少し考えてから、にっこり笑った。
「ミナトくんも、恋愛に興味が出てきた?」
「違う違う! 俺が恋愛するわけじゃないよ!」
「はいはい」
「本当だってば!」
俺は慌てて手を振った。
「ただ、レオンにもいつか好きな人ができるのかなって」
……そう。
昨日、帰り道でレオンが言っていた。
『お前にも、いつかそういう相手ができるんだろうな』
あのときは何も考えなかったけれど。
レオンにも、好きな人ができるかもしれない。
誰かに優しくして。
その人と一緒に帰って。
嬉しそうに笑って。
そして、いつか恋人になる。
…………。
「……あれ?」
想像してみたら、なぜか胸の奥が少しだけ落ち着かなくなった。
「ミナトくん?」
「……いや、何でもない」
「今、ちょっと変な顔してたよ?」
「えっ!? どんな顔!?」
「うーん……自分でも分からない気持ちを、必死に考えてる顔?」
「何それ!?」
ノアは楽しそうに笑った。
「それで、レオンに好きな人ができたらどう思うの?」
「どうって……」
俺は空を見上げた。
レオンが誰かと恋人になる。
その人にだけ優しく笑ったり、二人で出かけたり。
今まで俺と一緒に練習していた時間が、その人との時間に変わったり。
……。
……あれ?
なんか、それは。
「……ちょっと寂しいかも」
思わず口に出してしまった。
ノアは何も言わず、俺を見つめた。
「……でも、レオンが幸せならいいと思う!」
俺は慌てて付け加えた。
「レオンは優しいし、すごい魔法使いだし! 好きになる人がいてもおかしくないし!」
「うん」
「だから、俺は応援するよ!」
「……そっか」
ノアは優しく笑った。
「ミナトくんって、ほんとに優しいね」
「えっ? そう?」
「うん。でもね」
ノアは少しだけ顔を近づけた。
「寂しいって思ったことも、ちゃんと大事にしていいんだよ」
「…………」
俺は何も答えられなかった。
寂しい。
そう思ったこと自体が、少し不思議だった。
レオンは友達だ。
大切な友達だから、一緒にいられなくなったら寂しい。
きっと、それだけ。
……本当に、それだけなのかな。
初めて、そんな疑問が頭をよぎった。
◆ ◆ ◆
その日の放課後。
俺は先生に頼まれた資料を届けるため、魔法科の研究棟へ向かっていた。
廊下を歩いていると、聞き覚えのある声がした。
「あの、ヴァイス先輩!」
……レオン?
足を止めると、少し先にレオンと女子生徒が立っていた。
この間、魔法を教えてもらっていた子だ。
「この前教えていただいた方法で練習したら、うまくできました!」
「そうか。よかったな」
「ありがとうございます! 先輩のおかげです!」
女子生徒は嬉しそうに笑った。
「また分からないところがあったら、聞いてもいいですか?」
「ああ。分かる範囲なら答える」
「本当ですか!? 嬉しいです!」
……うん。
レオンはすごい。
教え方も上手だし、頼りになる。
だから、あの子が嬉しそうなのも分かる。
俺だって、レオンに教えてもらえるのは嬉しい。
…………。
……ん?
今、俺は何を考えた?
俺だって嬉しい?
いや、それはそうだけど。
レオンが誰かに頼られているのを見ると、誇らしい気持ちになる。
でも、同時に。
あの子がレオンと話しているのを見ていると、早く自分もレオンと話したくなる。
「……何やってるんだ、俺」
小さくつぶやいた、そのとき。
「……アステル?」
「うわっ!?」
レオンがこちらに気づいていた。
女子生徒も振り返る。
「こんにちは、アステルくん!」
「あっ、こんにちは!」
俺は笑顔で挨拶した。
「レオン、今から帰るところ?」
「ああ。お前は?」
「先生に資料を届けに来たんだ!」
「そうか」
レオンは女子生徒に向き直った。
「では、俺はこれで」
「あっ、はい! ありがとうございました、ヴァイス先輩!」
女子生徒は頭を下げて、反対方向へ歩いていった。
俺はその背中を見送りながら、なぜかほっとしていた。
……え?
何で、ほっとしたんだ?
「アステル?」
「……あっ、何でもない!」
レオンが不思議そうに俺を見る。
「お前、今日はずいぶん考え事が多いな」
「えっ!? そうかな?」
「何かあったのか?」
俺は少し迷った。
そして、思い切って聞いてみた。
「……レオンって、好きな人いるの?」
「…………は?」
レオンが、ぴたりと動きを止めた。
「……何だ、急に」
「いや! 何となく気になっただけ!」
「何となく?」
「うん! ほら、レオンってかっこいいし、優しいし、魔法もすごいし! 好きな人がいてもおかしくないなって!」
言ってから、俺は少しだけ後悔した。
……何で、こんなこと聞いたんだろう。
レオンはしばらく俺を見つめていた。
その目が、いつもより真剣に見えた。
「……いない」
「え?」
「今は、いない」
「……そっか!」
なぜか、胸の奥が軽くなった。
思った以上に、ほっとしてしまった。
レオンはそれを見逃さなかった。
「……アステル」
「はい?」
「お前は?」
「えっ!?」
「好きな人はいるのか」
「い、いないよ!!」
俺は勢いよく答えた。
「俺、恋愛とか全然分からないし! 今は魔法の練習もしたいし、アレンとカイルの幸せも見守りたいし!」
「……そうか」
レオンは視線を落とした。
その表情がほんの少しだけ曇ったように見えたけれど、俺には理由が分からなかった。
「……帰るぞ、アステル」
「あっ、うん!」
俺はレオンの隣に並んだ。
さっきまで気になっていたことは、結局よく分からないままだった。
ただひとつ。
レオンに好きな人がいないと聞いて、嬉しかった。
でも少しだけモヤッとした心もあった。
その事実だけが、胸の奥に残っていた。
◆ ◆ ◆
寮へ向かう帰り道。
俺たちはいつもより静かに歩いていた。
何か話したい。
でも、何を話せばいいのか分からない。
さっき自分から好きな人の話を振ったくせに、急に恥ずかしくなってきた。
……うう。
何で聞いちゃったんだろう。
「……アステル」
「は、はい!」
「そんなに緊張しなくていい」
「えっ!? 俺、緊張してないよ!?」
「そうか」
レオンは少しだけ笑った。
「……なら、いい」
しばらくして、レオンが口を開いた。
「さっきの質問だが」
「……うん?」
「好きな人がいるかどうか、気になったんだろう」
「……うん」
「何か理由があるのか?」
俺は足元を見た。
本当のことを言っていいのか、少し迷った。
でも、レオンに嘘をつきたくなかった。
「……レオンに好きな人ができたら、今みたいに一緒にいられなくなるのかなって思って」
言ってしまった。
胸がどきどきする。
レオンは何も言わなかった。
俺は慌てて続けた。
「もちろん、好きな人ができるのはいいことだと思うよ! レオンには幸せになってほしいし!」
「…………」
「ただ……」
言葉が途切れた。
ただ、何だろう。
本当は、もっと一緒にいたい。
今までみたいに練習して、話して、一緒に帰って。
それが変わってしまうのは、少し寂しい。
「……俺、レオンと一緒にいる時間が好きなんだ」
ようやく、それだけ言えた。
レオンが足を止めた。
俺も立ち止まり、顔を上げる。
「……アステル」
「……何?」
レオンはしばらく俺を見つめていた。
そして、静かに答えた。
「……俺も、お前といる時間は好きだ」
「…………」
今度は、俺が固まった。
「……え?」
「何度も言わせるな」
「いや、だって……!」
胸が、急に熱くなった。
レオンも俺といる時間が好き。
その言葉が、何だかすごく嬉しかった。
「……そっか」
俺は笑った。
「……よかった」
レオンも、ほんの少しだけ笑った。
そのあと、俺たちは再び歩き始めた。
さっきまでより、少しだけ近い距離で。
俺はまだ知らない。
レオンが言った「好き」と、自分が感じている「好き」が、いつか同じ意味になることを。
そしてレオンもまた、まだ伝えられない気持ちを胸の奥にしまっていた。
――いつか、お前が俺を選んでくれたら。
そんな願いを抱きながら。
「おはよう、アレン!」
朝、教室に入るとアレンが笑顔で手を振ってくれた。
その隣にはカイル。
……うん。
いつもどおりの光景だ。
ただし。
「……アレン、顔が赤くない?」
「えっ!? そ、そうかな!?」
「うん。熱でもある?」
「な、ないよ!」
アレンは慌てて首を振った。
その横でカイルが、ものすごく気まずそうに視線をそらしている。
…………。
俺は二人を交互に見た。
昨日。
俺は。
見てしまった。
二人の初キスを。
「…………」
「ミナト?」
「……いえ。今日も世界は平和だなと思いまして」
「またそれ!?」
アレンが困ったように笑った。
カイルは咳払いをひとつする。
「……ミナト。昨日のことだが」
「はい!! 誰にも言ってません!!」
「……そうか。ありがとう」
「二人の秘密だからね!!」
「み、ミナト! 声が大きいよ!!」
「あっ、ごめん!!」
俺は慌てて口を押さえた。
やばい。
うっかり口を滑らせたら大変だ。
二人の大切な思い出なんだから、絶対に守らなければ!
それにしても。
初キスをした翌日の二人って、こんなに初々しいんだ……。
アレンがカイルを見るたびに照れて、カイルもアレンの視線に気づくと少しだけ耳を赤くする。
昨日までの二人に、ほんの少しだけ甘い空気が加わっている。
……尊い。
本当に尊い。
俺は机に突っ伏した。
「ミナト!? 今度はどうしたの!?」
「……幸せです」
「えっ?」
「俺は今、すごく幸せです……」
「そ、そっか……?」
アレンは不思議そうに首をかしげた。
カイルは小さくため息をついたけれど、その表情はどこか柔らかかった。
そんな二人を見ていると、俺まで嬉しくなる。
この幸せが、ずっと続けばいい。
心からそう思った。
◆ ◆ ◆
昼休み。
俺は中庭のベンチで、ノアと一緒にパンを食べていた。
「ねえ、ノア」
「ん? どうしたの、ミナトくん?」
「好きな人って、どんな感じなんだろう?」
ノアがパンを持ったまま固まった。
「…………え?」
「いや、アレンとカイルを見てたら、ふと気になって」
「ああ……なるほど」
ノアは少し考えてから、にっこり笑った。
「ミナトくんも、恋愛に興味が出てきた?」
「違う違う! 俺が恋愛するわけじゃないよ!」
「はいはい」
「本当だってば!」
俺は慌てて手を振った。
「ただ、レオンにもいつか好きな人ができるのかなって」
……そう。
昨日、帰り道でレオンが言っていた。
『お前にも、いつかそういう相手ができるんだろうな』
あのときは何も考えなかったけれど。
レオンにも、好きな人ができるかもしれない。
誰かに優しくして。
その人と一緒に帰って。
嬉しそうに笑って。
そして、いつか恋人になる。
…………。
「……あれ?」
想像してみたら、なぜか胸の奥が少しだけ落ち着かなくなった。
「ミナトくん?」
「……いや、何でもない」
「今、ちょっと変な顔してたよ?」
「えっ!? どんな顔!?」
「うーん……自分でも分からない気持ちを、必死に考えてる顔?」
「何それ!?」
ノアは楽しそうに笑った。
「それで、レオンに好きな人ができたらどう思うの?」
「どうって……」
俺は空を見上げた。
レオンが誰かと恋人になる。
その人にだけ優しく笑ったり、二人で出かけたり。
今まで俺と一緒に練習していた時間が、その人との時間に変わったり。
……。
……あれ?
なんか、それは。
「……ちょっと寂しいかも」
思わず口に出してしまった。
ノアは何も言わず、俺を見つめた。
「……でも、レオンが幸せならいいと思う!」
俺は慌てて付け加えた。
「レオンは優しいし、すごい魔法使いだし! 好きになる人がいてもおかしくないし!」
「うん」
「だから、俺は応援するよ!」
「……そっか」
ノアは優しく笑った。
「ミナトくんって、ほんとに優しいね」
「えっ? そう?」
「うん。でもね」
ノアは少しだけ顔を近づけた。
「寂しいって思ったことも、ちゃんと大事にしていいんだよ」
「…………」
俺は何も答えられなかった。
寂しい。
そう思ったこと自体が、少し不思議だった。
レオンは友達だ。
大切な友達だから、一緒にいられなくなったら寂しい。
きっと、それだけ。
……本当に、それだけなのかな。
初めて、そんな疑問が頭をよぎった。
◆ ◆ ◆
その日の放課後。
俺は先生に頼まれた資料を届けるため、魔法科の研究棟へ向かっていた。
廊下を歩いていると、聞き覚えのある声がした。
「あの、ヴァイス先輩!」
……レオン?
足を止めると、少し先にレオンと女子生徒が立っていた。
この間、魔法を教えてもらっていた子だ。
「この前教えていただいた方法で練習したら、うまくできました!」
「そうか。よかったな」
「ありがとうございます! 先輩のおかげです!」
女子生徒は嬉しそうに笑った。
「また分からないところがあったら、聞いてもいいですか?」
「ああ。分かる範囲なら答える」
「本当ですか!? 嬉しいです!」
……うん。
レオンはすごい。
教え方も上手だし、頼りになる。
だから、あの子が嬉しそうなのも分かる。
俺だって、レオンに教えてもらえるのは嬉しい。
…………。
……ん?
今、俺は何を考えた?
俺だって嬉しい?
いや、それはそうだけど。
レオンが誰かに頼られているのを見ると、誇らしい気持ちになる。
でも、同時に。
あの子がレオンと話しているのを見ていると、早く自分もレオンと話したくなる。
「……何やってるんだ、俺」
小さくつぶやいた、そのとき。
「……アステル?」
「うわっ!?」
レオンがこちらに気づいていた。
女子生徒も振り返る。
「こんにちは、アステルくん!」
「あっ、こんにちは!」
俺は笑顔で挨拶した。
「レオン、今から帰るところ?」
「ああ。お前は?」
「先生に資料を届けに来たんだ!」
「そうか」
レオンは女子生徒に向き直った。
「では、俺はこれで」
「あっ、はい! ありがとうございました、ヴァイス先輩!」
女子生徒は頭を下げて、反対方向へ歩いていった。
俺はその背中を見送りながら、なぜかほっとしていた。
……え?
何で、ほっとしたんだ?
「アステル?」
「……あっ、何でもない!」
レオンが不思議そうに俺を見る。
「お前、今日はずいぶん考え事が多いな」
「えっ!? そうかな?」
「何かあったのか?」
俺は少し迷った。
そして、思い切って聞いてみた。
「……レオンって、好きな人いるの?」
「…………は?」
レオンが、ぴたりと動きを止めた。
「……何だ、急に」
「いや! 何となく気になっただけ!」
「何となく?」
「うん! ほら、レオンってかっこいいし、優しいし、魔法もすごいし! 好きな人がいてもおかしくないなって!」
言ってから、俺は少しだけ後悔した。
……何で、こんなこと聞いたんだろう。
レオンはしばらく俺を見つめていた。
その目が、いつもより真剣に見えた。
「……いない」
「え?」
「今は、いない」
「……そっか!」
なぜか、胸の奥が軽くなった。
思った以上に、ほっとしてしまった。
レオンはそれを見逃さなかった。
「……アステル」
「はい?」
「お前は?」
「えっ!?」
「好きな人はいるのか」
「い、いないよ!!」
俺は勢いよく答えた。
「俺、恋愛とか全然分からないし! 今は魔法の練習もしたいし、アレンとカイルの幸せも見守りたいし!」
「……そうか」
レオンは視線を落とした。
その表情がほんの少しだけ曇ったように見えたけれど、俺には理由が分からなかった。
「……帰るぞ、アステル」
「あっ、うん!」
俺はレオンの隣に並んだ。
さっきまで気になっていたことは、結局よく分からないままだった。
ただひとつ。
レオンに好きな人がいないと聞いて、嬉しかった。
でも少しだけモヤッとした心もあった。
その事実だけが、胸の奥に残っていた。
◆ ◆ ◆
寮へ向かう帰り道。
俺たちはいつもより静かに歩いていた。
何か話したい。
でも、何を話せばいいのか分からない。
さっき自分から好きな人の話を振ったくせに、急に恥ずかしくなってきた。
……うう。
何で聞いちゃったんだろう。
「……アステル」
「は、はい!」
「そんなに緊張しなくていい」
「えっ!? 俺、緊張してないよ!?」
「そうか」
レオンは少しだけ笑った。
「……なら、いい」
しばらくして、レオンが口を開いた。
「さっきの質問だが」
「……うん?」
「好きな人がいるかどうか、気になったんだろう」
「……うん」
「何か理由があるのか?」
俺は足元を見た。
本当のことを言っていいのか、少し迷った。
でも、レオンに嘘をつきたくなかった。
「……レオンに好きな人ができたら、今みたいに一緒にいられなくなるのかなって思って」
言ってしまった。
胸がどきどきする。
レオンは何も言わなかった。
俺は慌てて続けた。
「もちろん、好きな人ができるのはいいことだと思うよ! レオンには幸せになってほしいし!」
「…………」
「ただ……」
言葉が途切れた。
ただ、何だろう。
本当は、もっと一緒にいたい。
今までみたいに練習して、話して、一緒に帰って。
それが変わってしまうのは、少し寂しい。
「……俺、レオンと一緒にいる時間が好きなんだ」
ようやく、それだけ言えた。
レオンが足を止めた。
俺も立ち止まり、顔を上げる。
「……アステル」
「……何?」
レオンはしばらく俺を見つめていた。
そして、静かに答えた。
「……俺も、お前といる時間は好きだ」
「…………」
今度は、俺が固まった。
「……え?」
「何度も言わせるな」
「いや、だって……!」
胸が、急に熱くなった。
レオンも俺といる時間が好き。
その言葉が、何だかすごく嬉しかった。
「……そっか」
俺は笑った。
「……よかった」
レオンも、ほんの少しだけ笑った。
そのあと、俺たちは再び歩き始めた。
さっきまでより、少しだけ近い距離で。
俺はまだ知らない。
レオンが言った「好き」と、自分が感じている「好き」が、いつか同じ意味になることを。
そしてレオンもまた、まだ伝えられない気持ちを胸の奥にしまっていた。
――いつか、お前が俺を選んでくれたら。
そんな願いを抱きながら。

