「おはよう、ミナト!」
「おはよう、アレン!」
翌朝、食堂に入った俺は、いつもどおり笑顔のアレンを見つけた。
そして、その隣には――
カイルがいた。
……うん。
いつもどおりだ。
アレンの隣にカイルがいる。
今までも何度も見てきた光景。
なのに。
昨日、二人は恋人になりました。
「…………」
「ミナト?」
「…………おはようございます」
「えっ、どうしたの!?」
「いえ……今日も世界は美しいなと思いまして……」
「世界?」
アレンが不思議そうに首をかしげる。
その隣で、カイルが小さくため息をついた。
「……ミナト、朝から何を言っているんだ」
「カイル……」
俺は二人を交互に見つめた。
「二人が並んで朝ごはんを食べている……」
「昨日も食べていただろう」
「違うんだよ、カイル!! 昨日までと今日では意味が違うんだ!!」
「……何の意味だ?」
「恋人になって初めての朝ごはん!!」
「っ……!」
アレンの顔が赤くなった。
カイルも、ほんの少しだけ目をそらす。
「……声が大きい」
「ご、ごめん!」
俺は慌てて口を押さえた。
でも、仕方ないじゃん!
昨日まで友達だった二人が、今日から恋人として一緒にいるんだよ!?
同じテーブルで朝ごはんを食べるだけで、尊さが何倍にもなるんだよ!!
「ミナト、そんなに喜んでくれると、僕も嬉しいよ」
アレンが照れくさそうに笑った。
「でも、まだ少し恥ずかしいかな……」
「……俺もだ」
カイルがぼそっと付け加えた。
「お前、そういうことを正面から言うな」
「えっ、カイルも恥ずかしいの?」
「……悪いか」
「ううん! 嬉しい!」
アレンは笑って、カイルの隣に座り直した。
二人の肩が、そっと触れ合う。
…………。
……ああ。
今日も生きていてよかった。
「ミナト、座らないの?」
アレンに言われ、俺はようやく我に返った。
「あっ、座る! もちろん座ります!!」
俺は二人の向かいに座った。
そして、心に誓った。
今日も俺は、二人の幸せを全力で見守る!!
……ただし。
このとき俺は、向かい側の席に座る黒髪の青年が、こちらをじっと見ていることに気づいていなかった。
◆ ◆ ◆
「……アステル」
「はい?」
食堂で朝食を食べていると、隣からレオンに呼ばれた。
「さっきから、何をそんなに笑っている」
「え? 俺?」
「ほかに誰がいる」
「いやあ、アレンとカイルがさ……」
俺は思わず二人の方を見た。
アレンがカイルにパンを渡している。
カイルは一瞬驚いたあと、何も言わずに受け取った。
アレンが嬉しそうに笑う。
カイルも、ほんの少しだけ口元を緩める。
…………。
「尊い……」
「……またそれか」
レオンが深いため息をついた。
「だって見てよ! アレンがカイルにパンを渡したんだよ!?」
「見れば分かる」
「しかもカイル、ちゃんと受け取った!!」
「パンだからな」
「そういう問題じゃないんだよ!!」
俺が力説すると、レオンは額に手を当てた。
「……お前は、朝から元気だな」
「うん!!」
「……そうか」
レオンはそれ以上何も言わず、紅茶を飲んだ。
けれど、いつもより少しだけ不機嫌そうに見えた。
……あれ?
「レオン、眠い?」
「眠くない」
「体調悪い?」
「問題ない」
「昨日、ちゃんと寝た?」
「寝た」
「……じゃあ、何でそんなに機嫌が悪そうなの?」
レオンの手が止まった。
「……悪くない」
「本当に?」
「ああ」
「そっか! ならよかった!」
俺は安心して、またアレンとカイルの方を見た。
その瞬間、レオンが小さくつぶやいた。
「……俺の話を聞いた直後に、またそっちを見るのか」
「えっ? 何か言った?」
「何でもない」
……まただ。
最近のレオン、本当に「何でもない」が多い。
俺は首をかしげた。
もしかして、俺が騒がしすぎるのかな?
うーん……。
でも、レオンは前から静かな人だし。
単に朝から俺のテンションについていけないだけかもしれない。
そう結論づけて、俺は朝食を食べ進めた。
一方、レオンは心の中で頭を抱えていた。
――違う。
機嫌が悪いわけじゃない。
ただ、アステルが朝からずっとアレンとカイルのことばかり話しているのが、気になるだけだ。
昨日もそうだった。
学園祭の間、アステルは二人のことで大喜びしていた。
そして今日も、二人を見て笑っている。
自分に向けられる笑顔も、もちろん嬉しい。
だが、できれば。
もう少し、自分のことも見てほしい。
……いや。
そんなことを考える理由が、レオンにはまだ分からなかった。
◆ ◆ ◆
午前中の授業が終わると、俺はアレンとカイルに誘われて中庭へ向かった。
昨日の学園祭の話をしながら、三人で昼食を取ることになったのだ。
「ミナト、昨日は本当にありがとう」
アレンがパンを食べながら言った。
「えっ、何が?」
「僕たちのこと、あんなに喜んでくれて」
「……!!」
俺は思わず胸を押さえた。
アレンが、俺にお礼を言ってくれている。
しかも恋人になった二人から!!
「いやいやいや!! 俺こそありがとう!!」
「えっ?」
「二人が幸せになってくれたことが、俺にとって一番嬉しいから!!」
アレンは少し照れたように笑った。
「……ミナトって、本当に優しいね」
「そんなことないよ! 俺はただ、二人に幸せでいてほしいだけだから!」
すると、カイルが自分の持っていた果実を半分に分け、アレンに差し出した。
「……これ、食べるか?」
「えっ、いいの?」
「ああ。お前、さっきからそれを見ていただろう」
「……ありがとう、カイル!」
アレンは嬉しそうに受け取った。
そして、一口食べる。
「おいしい!」
「そうか」
カイルは満足そうにうなずいた。
…………。
………………。
「~~~~~~~~ッ!!」
俺は無言で空を見上げた。
「ミナト!?」
アレンがびっくりしている。
「大丈夫!? 苦しいの!?」
「違う……違うんだ、アレン……」
「えっ?」
「俺は今……二人の愛を見守っている……」
「愛!?」
アレンの顔が真っ赤になった。
「み、ミナト!! そういうのは、まだ……!」
「アレン」
カイルが静かに声をかけた。
「……ミナトは、いつもあんな感じだ」
「そ、そうだけど……!」
「慣れろ」
「慣れられるかな……」
二人が顔を見合わせて笑った。
……はい、今日も幸せ。
俺は心の中で拍手を送った。
そのとき。
「……アステル」
また、聞き慣れた声がした。
振り返ると、レオンが立っていた。
「レオン! どうしたの?」
「先生がお前を探していた。魔法実習の件で確認したいことがあるそうだ」
「えっ、そうなの!? 分かった、すぐ行く!」
俺は慌てて立ち上がった。
「アレン、カイル、またあとでね!」
「うん、またね!」
「気をつけて行けよ」
俺は二人に手を振り、レオンと一緒に中庭を離れた。
……ところで。
「レオン、先生ってどこにいるの?」
「……研究棟だ」
「そっか!」
「…………」
「…………?」
しばらく歩いてから、俺はふと気づいた。
「……あれ? レオン、俺のこと探しに来てくれたの?」
「先生に頼まれただけだ」
「そうなんだ! ありがとう!」
「……ああ」
俺は笑顔でお礼を言った。
レオンは、なぜか少しだけ気まずそうに視線をそらした。
実は、先生から呼ばれたというのは半分本当で、半分違った。
レオンは先生から確認事項を聞いていたが、急ぎではなかった。
それでも、アステルがアレンとカイルと楽しそうに過ごしているのを見て、気づいたら中庭へ向かっていたのだ。
……自分でも、よく分からない。
ただ、もう少し一緒にいたかった。
それだけだった。
◆ ◆ ◆
放課後。
俺が図書室で魔法の本を読んでいると、ノアが向かいの席に座った。
「ミナトくん、今日も勉強?」
「うん! 昨日の実演、うまくいったから、もっと魔力操作を上達させたいんだ!」
「えらいねえ」
ノアは感心したように笑った。
「ところで、今日レオンと一緒にいたでしょ?」
「え? うん。先生に呼ばれてたから」
「ふうん。レオンがミナトくんを探してたみたいだけど?」
「そうなの?」
「そうだよ。僕、さっき見かけたんだ」
「へえ……」
俺は本に視線を戻した。
「レオンって、面倒見がいいよね」
「……それだけ?」
「え?」
ノアが、じっと俺を見た。
「ミナトくんは、レオンと一緒にいるとき、楽しそうだよね」
「えっ、そうかな?」
「うん。レオンが来ると、すぐに顔を上げるし。話しかけられると嬉しそうだし」
「……」
俺は思わず考え込んだ。
そう言われてみれば。
レオンが近くにいると、つい目で探してしまうことがある。
レオンに褒められると、いつも以上に嬉しい。
レオンが元気なさそうだと、気になってしまう。
……でも。
「それって、友達だからじゃない?」
俺はそう答えた。
「レオンは、俺に魔法を教えてくれた大切な友達だし。一緒にいる時間も長いから、自然と気になるんだと思う」
ノアは少しだけ目を細めた。
「……そっか」
「うん!」
「じゃあ、レオンがほかの友達と同じくらいミナトくんに接していたとしても、気にならない?」
「え?」
「例えば、今より話しかけてくれなくなったり、一緒に練習する時間が減ったりしても?」
俺は口を開きかけた。
……それは。
ちょっと、嫌かもしれない。
レオンと一緒に練習する時間は、楽しい。
教えてもらえるのも嬉しいし、成功したときに褒めてもらえると、もっと頑張ろうと思える。
もし、それがなくなったら。
……寂しい?
「……うーん」
俺が考え込むと、ノアはふっと笑った。
「ごめんごめん。ちょっと意地悪な質問だったね」
「いや、でも……」
「でも?」
「……レオンとは、これからも一緒にいたいなって思う」
言葉にしてみると、不思議だった。
すごく自然に、そう思えたから。
ノアは一瞬黙ったあと、優しく笑った。
「そっか。いいんじゃない?」
「……うん」
俺は本に視線を落とした。
胸の奥に、何か小さなものが残っている。
まだ名前は分からない。
でも、レオンと一緒にいたい。
その気持ちだけは、確かだった。
◆ ◆ ◆
その日の夕方。
図書室を出た俺は、廊下の向こうにレオンの姿を見つけた。
誰かと話している。
相手は、同じ魔法科の生徒だった。
レオンはいつもどおり落ち着いた表情で、相手の話を聞いている。
そして、ほんの少しだけ笑った。
…………。
俺は足を止めた。
……あれ?
何だろう。
レオンが誰かと話しているだけなのに。
なんだか、すぐに声をかけるのをためらってしまった。
いつもなら、普通に近づいていくのに。
「……ミナトくん?」
後ろからノアの声がした。
「どうしたの? レオンのこと見てるけど」
「えっ!? いや、別に!」
「ふふっ」
ノアは俺の顔を見て、楽しそうに笑った。
「声をかけないの?」
「……今、話してるから」
「終わるまで待つんだ?」
「……うん」
俺は小さくうなずいた。
自分でも、少し不思議だった。
レオンと話したい。
今日の魔法実習のことも聞きたいし、明日の練習の予定も確認したい。
それなのに、レオンが誰かと楽しそうに話していると、なぜか少しだけ落ち着かない。
……なんでだろう。
「ミナトくん」
ノアが、そっと俺の肩をたたいた。
「自分の気持ちって、すぐには分からないこともあるからね」
「……うん?」
「今は、分からなくてもいいんじゃない?」
俺はノアを見た。
ノアはいつものように笑っていた。
「ゆっくり考えればいいよ」
「……ありがとう、ノア」
そのとき、レオンとの話を終えた生徒が立ち去った。
レオンがこちらに気づく。
「……アステル?」
「レオン!」
俺は自然と笑顔になった。
「今、帰るところ?」
「ああ。お前もか」
「うん! 一緒に帰ってもいい?」
レオンは一瞬驚いたように目を見開いた。
そして、静かにうなずいた。
「……もちろんだ」
「やった!」
俺はレオンの隣に並んだ。
歩きながら、今日あったことを話す。
魔法の本で見つけた新しい練習方法。
ノアに聞かれた不思議な質問。
そして、明日はアレンとカイルの恋人らしい姿を見られるかもしれないという期待。
「……結局、あの二人の話か」
レオンが小さくつぶやいた。
「えっ、何か言った?」
「何でもない」
「またそれ!!」
俺が笑うと、レオンもほんの少しだけ笑った。
その笑顔を見て、俺は思った。
――ああ。
やっぱり、レオンと一緒に帰れてよかった。
それだけで、今日が少し特別な一日になった気がした。
そしてレオンもまた、隣を歩くミナトを見ながら思っていた。
――明日も、こうして一緒に帰れたらいい。
二人とも、まだ自分の気持ちに名前をつけられない。
けれど、昨日よりほんの少しだけ。
互いの存在が、特別になり始めていた。
「おはよう、アレン!」
翌朝、食堂に入った俺は、いつもどおり笑顔のアレンを見つけた。
そして、その隣には――
カイルがいた。
……うん。
いつもどおりだ。
アレンの隣にカイルがいる。
今までも何度も見てきた光景。
なのに。
昨日、二人は恋人になりました。
「…………」
「ミナト?」
「…………おはようございます」
「えっ、どうしたの!?」
「いえ……今日も世界は美しいなと思いまして……」
「世界?」
アレンが不思議そうに首をかしげる。
その隣で、カイルが小さくため息をついた。
「……ミナト、朝から何を言っているんだ」
「カイル……」
俺は二人を交互に見つめた。
「二人が並んで朝ごはんを食べている……」
「昨日も食べていただろう」
「違うんだよ、カイル!! 昨日までと今日では意味が違うんだ!!」
「……何の意味だ?」
「恋人になって初めての朝ごはん!!」
「っ……!」
アレンの顔が赤くなった。
カイルも、ほんの少しだけ目をそらす。
「……声が大きい」
「ご、ごめん!」
俺は慌てて口を押さえた。
でも、仕方ないじゃん!
昨日まで友達だった二人が、今日から恋人として一緒にいるんだよ!?
同じテーブルで朝ごはんを食べるだけで、尊さが何倍にもなるんだよ!!
「ミナト、そんなに喜んでくれると、僕も嬉しいよ」
アレンが照れくさそうに笑った。
「でも、まだ少し恥ずかしいかな……」
「……俺もだ」
カイルがぼそっと付け加えた。
「お前、そういうことを正面から言うな」
「えっ、カイルも恥ずかしいの?」
「……悪いか」
「ううん! 嬉しい!」
アレンは笑って、カイルの隣に座り直した。
二人の肩が、そっと触れ合う。
…………。
……ああ。
今日も生きていてよかった。
「ミナト、座らないの?」
アレンに言われ、俺はようやく我に返った。
「あっ、座る! もちろん座ります!!」
俺は二人の向かいに座った。
そして、心に誓った。
今日も俺は、二人の幸せを全力で見守る!!
……ただし。
このとき俺は、向かい側の席に座る黒髪の青年が、こちらをじっと見ていることに気づいていなかった。
◆ ◆ ◆
「……アステル」
「はい?」
食堂で朝食を食べていると、隣からレオンに呼ばれた。
「さっきから、何をそんなに笑っている」
「え? 俺?」
「ほかに誰がいる」
「いやあ、アレンとカイルがさ……」
俺は思わず二人の方を見た。
アレンがカイルにパンを渡している。
カイルは一瞬驚いたあと、何も言わずに受け取った。
アレンが嬉しそうに笑う。
カイルも、ほんの少しだけ口元を緩める。
…………。
「尊い……」
「……またそれか」
レオンが深いため息をついた。
「だって見てよ! アレンがカイルにパンを渡したんだよ!?」
「見れば分かる」
「しかもカイル、ちゃんと受け取った!!」
「パンだからな」
「そういう問題じゃないんだよ!!」
俺が力説すると、レオンは額に手を当てた。
「……お前は、朝から元気だな」
「うん!!」
「……そうか」
レオンはそれ以上何も言わず、紅茶を飲んだ。
けれど、いつもより少しだけ不機嫌そうに見えた。
……あれ?
「レオン、眠い?」
「眠くない」
「体調悪い?」
「問題ない」
「昨日、ちゃんと寝た?」
「寝た」
「……じゃあ、何でそんなに機嫌が悪そうなの?」
レオンの手が止まった。
「……悪くない」
「本当に?」
「ああ」
「そっか! ならよかった!」
俺は安心して、またアレンとカイルの方を見た。
その瞬間、レオンが小さくつぶやいた。
「……俺の話を聞いた直後に、またそっちを見るのか」
「えっ? 何か言った?」
「何でもない」
……まただ。
最近のレオン、本当に「何でもない」が多い。
俺は首をかしげた。
もしかして、俺が騒がしすぎるのかな?
うーん……。
でも、レオンは前から静かな人だし。
単に朝から俺のテンションについていけないだけかもしれない。
そう結論づけて、俺は朝食を食べ進めた。
一方、レオンは心の中で頭を抱えていた。
――違う。
機嫌が悪いわけじゃない。
ただ、アステルが朝からずっとアレンとカイルのことばかり話しているのが、気になるだけだ。
昨日もそうだった。
学園祭の間、アステルは二人のことで大喜びしていた。
そして今日も、二人を見て笑っている。
自分に向けられる笑顔も、もちろん嬉しい。
だが、できれば。
もう少し、自分のことも見てほしい。
……いや。
そんなことを考える理由が、レオンにはまだ分からなかった。
◆ ◆ ◆
午前中の授業が終わると、俺はアレンとカイルに誘われて中庭へ向かった。
昨日の学園祭の話をしながら、三人で昼食を取ることになったのだ。
「ミナト、昨日は本当にありがとう」
アレンがパンを食べながら言った。
「えっ、何が?」
「僕たちのこと、あんなに喜んでくれて」
「……!!」
俺は思わず胸を押さえた。
アレンが、俺にお礼を言ってくれている。
しかも恋人になった二人から!!
「いやいやいや!! 俺こそありがとう!!」
「えっ?」
「二人が幸せになってくれたことが、俺にとって一番嬉しいから!!」
アレンは少し照れたように笑った。
「……ミナトって、本当に優しいね」
「そんなことないよ! 俺はただ、二人に幸せでいてほしいだけだから!」
すると、カイルが自分の持っていた果実を半分に分け、アレンに差し出した。
「……これ、食べるか?」
「えっ、いいの?」
「ああ。お前、さっきからそれを見ていただろう」
「……ありがとう、カイル!」
アレンは嬉しそうに受け取った。
そして、一口食べる。
「おいしい!」
「そうか」
カイルは満足そうにうなずいた。
…………。
………………。
「~~~~~~~~ッ!!」
俺は無言で空を見上げた。
「ミナト!?」
アレンがびっくりしている。
「大丈夫!? 苦しいの!?」
「違う……違うんだ、アレン……」
「えっ?」
「俺は今……二人の愛を見守っている……」
「愛!?」
アレンの顔が真っ赤になった。
「み、ミナト!! そういうのは、まだ……!」
「アレン」
カイルが静かに声をかけた。
「……ミナトは、いつもあんな感じだ」
「そ、そうだけど……!」
「慣れろ」
「慣れられるかな……」
二人が顔を見合わせて笑った。
……はい、今日も幸せ。
俺は心の中で拍手を送った。
そのとき。
「……アステル」
また、聞き慣れた声がした。
振り返ると、レオンが立っていた。
「レオン! どうしたの?」
「先生がお前を探していた。魔法実習の件で確認したいことがあるそうだ」
「えっ、そうなの!? 分かった、すぐ行く!」
俺は慌てて立ち上がった。
「アレン、カイル、またあとでね!」
「うん、またね!」
「気をつけて行けよ」
俺は二人に手を振り、レオンと一緒に中庭を離れた。
……ところで。
「レオン、先生ってどこにいるの?」
「……研究棟だ」
「そっか!」
「…………」
「…………?」
しばらく歩いてから、俺はふと気づいた。
「……あれ? レオン、俺のこと探しに来てくれたの?」
「先生に頼まれただけだ」
「そうなんだ! ありがとう!」
「……ああ」
俺は笑顔でお礼を言った。
レオンは、なぜか少しだけ気まずそうに視線をそらした。
実は、先生から呼ばれたというのは半分本当で、半分違った。
レオンは先生から確認事項を聞いていたが、急ぎではなかった。
それでも、アステルがアレンとカイルと楽しそうに過ごしているのを見て、気づいたら中庭へ向かっていたのだ。
……自分でも、よく分からない。
ただ、もう少し一緒にいたかった。
それだけだった。
◆ ◆ ◆
放課後。
俺が図書室で魔法の本を読んでいると、ノアが向かいの席に座った。
「ミナトくん、今日も勉強?」
「うん! 昨日の実演、うまくいったから、もっと魔力操作を上達させたいんだ!」
「えらいねえ」
ノアは感心したように笑った。
「ところで、今日レオンと一緒にいたでしょ?」
「え? うん。先生に呼ばれてたから」
「ふうん。レオンがミナトくんを探してたみたいだけど?」
「そうなの?」
「そうだよ。僕、さっき見かけたんだ」
「へえ……」
俺は本に視線を戻した。
「レオンって、面倒見がいいよね」
「……それだけ?」
「え?」
ノアが、じっと俺を見た。
「ミナトくんは、レオンと一緒にいるとき、楽しそうだよね」
「えっ、そうかな?」
「うん。レオンが来ると、すぐに顔を上げるし。話しかけられると嬉しそうだし」
「……」
俺は思わず考え込んだ。
そう言われてみれば。
レオンが近くにいると、つい目で探してしまうことがある。
レオンに褒められると、いつも以上に嬉しい。
レオンが元気なさそうだと、気になってしまう。
……でも。
「それって、友達だからじゃない?」
俺はそう答えた。
「レオンは、俺に魔法を教えてくれた大切な友達だし。一緒にいる時間も長いから、自然と気になるんだと思う」
ノアは少しだけ目を細めた。
「……そっか」
「うん!」
「じゃあ、レオンがほかの友達と同じくらいミナトくんに接していたとしても、気にならない?」
「え?」
「例えば、今より話しかけてくれなくなったり、一緒に練習する時間が減ったりしても?」
俺は口を開きかけた。
……それは。
ちょっと、嫌かもしれない。
レオンと一緒に練習する時間は、楽しい。
教えてもらえるのも嬉しいし、成功したときに褒めてもらえると、もっと頑張ろうと思える。
もし、それがなくなったら。
……寂しい?
「……うーん」
俺が考え込むと、ノアはふっと笑った。
「ごめんごめん。ちょっと意地悪な質問だったね」
「いや、でも……」
「でも?」
「……レオンとは、これからも一緒にいたいなって思う」
言葉にしてみると、不思議だった。
すごく自然に、そう思えたから。
ノアは一瞬黙ったあと、優しく笑った。
「そっか。いいんじゃない?」
「……うん」
俺は本に視線を落とした。
胸の奥に、何か小さなものが残っている。
まだ名前は分からない。
でも、レオンと一緒にいたい。
その気持ちだけは、確かだった。
◆ ◆ ◆
その日の夕方。
図書室を出た俺は、廊下の向こうにレオンの姿を見つけた。
誰かと話している。
相手は、同じ魔法科の生徒だった。
レオンはいつもどおり落ち着いた表情で、相手の話を聞いている。
そして、ほんの少しだけ笑った。
…………。
俺は足を止めた。
……あれ?
何だろう。
レオンが誰かと話しているだけなのに。
なんだか、すぐに声をかけるのをためらってしまった。
いつもなら、普通に近づいていくのに。
「……ミナトくん?」
後ろからノアの声がした。
「どうしたの? レオンのこと見てるけど」
「えっ!? いや、別に!」
「ふふっ」
ノアは俺の顔を見て、楽しそうに笑った。
「声をかけないの?」
「……今、話してるから」
「終わるまで待つんだ?」
「……うん」
俺は小さくうなずいた。
自分でも、少し不思議だった。
レオンと話したい。
今日の魔法実習のことも聞きたいし、明日の練習の予定も確認したい。
それなのに、レオンが誰かと楽しそうに話していると、なぜか少しだけ落ち着かない。
……なんでだろう。
「ミナトくん」
ノアが、そっと俺の肩をたたいた。
「自分の気持ちって、すぐには分からないこともあるからね」
「……うん?」
「今は、分からなくてもいいんじゃない?」
俺はノアを見た。
ノアはいつものように笑っていた。
「ゆっくり考えればいいよ」
「……ありがとう、ノア」
そのとき、レオンとの話を終えた生徒が立ち去った。
レオンがこちらに気づく。
「……アステル?」
「レオン!」
俺は自然と笑顔になった。
「今、帰るところ?」
「ああ。お前もか」
「うん! 一緒に帰ってもいい?」
レオンは一瞬驚いたように目を見開いた。
そして、静かにうなずいた。
「……もちろんだ」
「やった!」
俺はレオンの隣に並んだ。
歩きながら、今日あったことを話す。
魔法の本で見つけた新しい練習方法。
ノアに聞かれた不思議な質問。
そして、明日はアレンとカイルの恋人らしい姿を見られるかもしれないという期待。
「……結局、あの二人の話か」
レオンが小さくつぶやいた。
「えっ、何か言った?」
「何でもない」
「またそれ!!」
俺が笑うと、レオンもほんの少しだけ笑った。
その笑顔を見て、俺は思った。
――ああ。
やっぱり、レオンと一緒に帰れてよかった。
それだけで、今日が少し特別な一日になった気がした。
そしてレオンもまた、隣を歩くミナトを見ながら思っていた。
――明日も、こうして一緒に帰れたらいい。
二人とも、まだ自分の気持ちに名前をつけられない。
けれど、昨日よりほんの少しだけ。
互いの存在が、特別になり始めていた。

