学園祭も午後に入り、学院内は朝以上の賑わいを見せていた。
俺はというと、ノアとレオンと一緒に屋台を回ったあと、次の実演まで少し時間が空いたため、休憩スペースに向かっていた。
「いやあ、今日も最高だな……」
「ミナトくん、今日何回目の『最高』?」
「数えてない!!」
「だと思った」
ノアが笑う。
レオンは隣で静かに歩いていた。
そのとき、少し先に見覚えのある二人の姿が見えた。
「……ん?」
アレンとカイルだ。
二人は学院の中庭にあるベンチのそばに立っていた。
いつもなら一緒に行動している二人だけど、今日は何だか様子が違う。
アレンが少し緊張した顔で、カイルを見上げていた。
「カイル、少しだけ話したいことがあるんだ」
「……話?」
「うん。二人だけで話したくて」
…………。
………………。
二人だけで!?!?!?
俺は思わずその場で固まった。
待って。
今の聞いた?
聞き間違いじゃないよね?
アレンがカイルを二人きりの場所に誘ったんだけど!?
「ミナトくん?」
「しっ……!!」
「えっ、何?」
「今、重大なイベントが発生しています……!!」
「何の?」
「人生を左右するレベルの……!!」
「ミナト、声が大きい」
レオンに指摘され、俺は慌てて口を押さえた。
危ない危ない。
本人たちに聞こえたらどうするんだ。
でも!!
これは見逃せない!!
俺が前世から待ち望んでいた瞬間が、ついに来るのかもしれない!!
「……二人とも、少し待ってて」
俺は小声で告げた。
「ミナトくん、まさか……」
「行ってくる!!」
「いや、行くなって意味だったんだけど!?」
ノアの声を背に、俺は物陰に隠れた。
もちろん、本人たちの邪魔にならない距離で。
……ごめん、アレン、カイル。
ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、見守らせてください!!
◆ ◆ ◆
中庭には、やわらかな風が吹いていた。
アレンはしばらく言葉を探していたが、やがて意を決したように口を開いた。
「……カイル。今日の実演、ありがとう」
「何だ、急に」
「ずっと言いたかったんだ。僕が魔法をうまく制御できなかったときも、カイルは何度も付き合ってくれたよね」
カイルは黙って聞いていた。
「最初は、迷惑をかけてばかりだと思ってた。でも、カイルはいつも僕を信じてくれた」
「……お前は努力していた。だから手伝っただけだ」
「うん。そういうところも、好きなんだ」
カイルの目が、わずかに見開かれた。
アレン自身も、口にしてから少し驚いたようだった。
けれど、もう言葉を引っ込めなかった。
「カイルは、僕が失敗しても、うまくいっても、いつもそばにいてくれた。気づいたら、僕は何かあるたびにカイルを探してたんだ」
「……アレン」
「今日の実演も、成功した瞬間に一番にカイルに伝えたかった」
アレンは、少し照れたように笑った。
「それでね。さっき、カイルがほかの人と話しているのを見たとき、僕、少し寂しかったんだ」
カイルは驚いた顔をした。
「別に、誰かと話していてもおかしくないだろう」
「うん。分かってる。僕だって、カイルを独り占めしたいわけじゃない……って、言いたいんだけど」
アレンは困ったように笑った。
「本当は、もっと一緒にいたいんだ。友達としてだけじゃなくて」
その言葉のあと、静かな沈黙が訪れた。
アレンは一度深呼吸して、カイルをまっすぐ見つめた。
「僕は、カイルが好きだ」
「……」
「大切な友達だから、だけじゃない。これからも一緒にいたいし、僕にとって特別な人でいてほしい」
頬を赤くしながらも、アレンは最後まで言い切った。
「……僕と、付き合ってくれませんか?」
物陰の俺。
「…………ッ!!」
声にならない叫びが喉の奥で爆発した。
告白したーーーーーー!!!!!!
しかもアレンから!!
自分の気持ちに気づいて、ちゃんと言葉にして、カイルに伝えた!!
偉い!!
アレン、偉すぎる!!
俺は今、歴史的瞬間に立ち会っている!!
……いや、待って。
まだカイルの返事がある。
落ち着け、俺。
深呼吸だ。
吸って、吐いて。
吸って、吐いて。
無理です!!!!
カイルは、すぐには答えなかった。
けれど、困ったような顔をしているわけではなかった。
ただ、驚きと、何かを確かめるような感情が、その表情に浮かんでいた。
やがてカイルは、ゆっくりと口を開いた。
「……俺は、自分の気持ちをうまく言葉にするのが得意じゃない」
「うん」
「だから、お前が今言ってくれたことに、すぐにうまい返事ができるか分からない」
アレンは小さくうなずいた。
「でも、これだけは分かる」
カイルはアレンの目を見つめた。
「俺も、お前がいないと気になる」
「……え?」
「お前が魔法の練習をしていると、うまくいくか見ていたくなる。成功すれば、自分のことみたいに嬉しい。失敗して落ち込んでいたら、少しでも力になりたいと思う」
カイルは、照れくさそうに視線を落とした。
「今日の実演だって、成功したとき……お前が笑ってくれて、嬉しかった」
アレンの目が少しずつ大きくなる。
「……カイル」
「お前がほかの誰かと楽しそうにしていると、気になることもある」
カイルは一度言葉を切った。
そして、今度はしっかりとアレンを見た。
「俺も、お前が好きなんだと思う」
…………。
………………。
「っ……!」
アレンの顔が、一気に赤くなった。
「ほ、本当に……?」
「ああ」
「僕のこと、好き……?」
「……何度も言わせるな」
「ご、ごめん! でも、嬉しくて……!」
アレンは笑った。
今まで見たことがないくらい、嬉しそうな笑顔だった。
カイルはそんなアレンを見て、少し照れながらも手を差し出した。
「……これからも、そばにいてくれるか?」
アレンは、その手をしっかりと握った。
「うん! もちろん!」
そして、二人は自然に笑い合った。
「……よろしく、カイル」
「ああ。よろしくな、アレン」
その瞬間。
俺の中で、何かが成仏した。
いや、成仏というより、祝福された。
前世から持ち続けてきた夢が、今、目の前で現実になった。
二人が、ついに。
恋人になった。
「………………」
俺は両手で口を押さえた。
泣きそう。
本当に泣きそう。
二人とも、ちゃんと自分の気持ちに気づいて、伝え合ったんだ。
どちらかが一方的に支える関係じゃない。
アレンもカイルも、互いを大切に思っていた。
それが、今、ちゃんと言葉になった。
「……おめでとう」
俺は誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。
「本当に、おめでとう……!」
◆ ◆ ◆
「ミナトくん、泣いてる?」
「泣いてない……!」
「いや、めっちゃ目が潤んでるよ?」
「これは……心の汗です……!!」
中庭から少し離れた場所に戻ると、ノアが呆れたように笑った。
レオンも俺を見て、わずかに眉を上げた。
「……何があった」
俺は二人を見た。
そして、耐えきれずに叫んだ。
「アレンとカイルが!! 付き合った!!!!」
「……は?」
レオンが固まった。
ノアは一瞬目を丸くしてから、にっこり笑った。
「へえ! ついに?」
「ついにだよ!! アレンが告白して、カイルも好きだって言ってくれて!! 二人で、これからも一緒にいるって!!」
「そっか。よかったね、ミナトくん」
「よかったよおおおおお!!」
俺はその場でしゃがみ込んだ。
「俺……この瞬間を見るために、この世界に来たのかもしれない……」
「ミナトくん、壮大すぎるよ」
「だって!! だってさあ!!」
俺は顔を上げた。
「二人が幸せになってくれるのが、一番嬉しいんだよ!!」
ノアは少しだけ優しい顔になった。
「……うん。ミナトくんが、二人を本当に大切に思ってるのは分かるよ」
レオンも黙って俺を見ていた。
俺は勢いよく立ち上がった。
「よし!! 決めた!!」
「何を?」
ノアが尋ねる。
「二人を全力で祝福する!!」
「……ほどほどにな」
レオンの忠告は、残念ながら俺の耳には届かなかった。
なぜなら、その直後。
「ミナト!」
アレンの声がしたからだ。
振り返ると、アレンとカイルが並んで歩いてきていた。
二人とも、どこか照れくさそうな顔をしている。
俺は一瞬で察した。
そして。
「アレン!! カイル!!」
二人の前に駆け寄った。
「おめでとうございますーーーーーー!!!!!!」
「えっ!? ミナト、知ってるの!?」
アレンが真っ赤になった。
「え、あ、その……!」
カイルも珍しく、言葉に詰まっている。
俺は両手を握りしめた。
「二人とも、本当におめでとう!! 俺、めちゃくちゃ嬉しい!!」
「……ありがとう、ミナト」
アレンが、照れながら笑った。
「まだ少し恥ずかしいけど……でも、すごく嬉しいんだ」
「うん!! その気持ち、大事にしてね!!」
「……ああ。大切にする」
カイルが静かに答えた。
そして、ちらりとアレンを見る。
アレンもカイルを見て、嬉しそうに笑った。
…………。
………………。
はい、尊い!!!!!!
俺は再び両手で顔を覆った。
ノアが肩を震わせて笑っている。
「ミナトくん、今日ずっとこんな感じだね」
「仕方ないだろ!! だって!! 推しカプが!! 恋人に!!」
「はいはい、分かった分かった」
「分かってない!! この尊さは言葉では表せない!!」
「それはもう十分伝わったよ」
そのとき、隣から静かな声がした。
「……アステル」
「はい!!」
「少し落ち着け」
「無理です!!!!」
「……だろうな」
レオンはため息をついた。
けれど、その目はどこか優しかった。
俺はまだ気づいていない。
レオンが、俺の笑顔を見ていることに。
そして、アレンとカイルの恋が実ったことを誰よりも喜んでいる俺を見ながら、彼自身もまた、考え始めていたことに。
――自分にとって、アステルはどんな存在なのだろう。
ただの友人。
そう言い切るには、もう何かが違っていた。
◆ ◆ ◆
その日の夕方。
学園祭の休憩時間に、俺はアレンとカイルと一緒にベンチに座っていた。
ノアは別の友人に呼ばれていて、レオンは先生との打ち合わせに向かっている。
つまり、今は俺と新カップルの二人だけ。
……いや。
新カップルって何!?!?
言葉にしただけで幸せすぎる!!
「……ミナト?」
アレンが不思議そうに俺を見た。
「どうしたの? さっきから、ずっと嬉しそうだけど」
「いやあ……二人が並んで座ってるだけで、感慨深くて……」
「えっ!?」
アレンの顔が赤くなる。
カイルも少しだけ視線をそらした。
「……そんなに見られると、落ち着かないんだが」
「ごめん!! でも、二人が幸せそうで嬉しいんだ!」
俺は素直に伝えた。
「俺、二人がこれからもずっと仲良くしてくれたらいいなって思ってる!」
アレンは少し驚いたあと、柔らかく笑った。
「ありがとう、ミナト。僕たち、まだ恋人になったばかりだから、分からないこともあると思う。でも……」
アレンはカイルを見た。
「これからも、二人で一緒に考えていきたいんだ」
「……ああ」
カイルはうなずいた。
「俺も、そのつもりだ」
二人の手が、ベンチの上でそっと触れ合う。
そして、自然に指先が重なった。
…………。
………………。
「~~~~~~~~ッ!!」
俺は勢いよく立ち上がった。
「ちょっと待って!! 今の見た!? 見たよね!? 手!! 手が!!」
「ミナト、声が大きい!」
アレンが慌てる。
「悪い!! でも、今のは!!」
「……アステル」
背後から聞き慣れた声がした。
振り返ると、レオンが戻ってきていた。
「……また何を騒いでいる」
「レオン!! 聞いて!! 今、アレンとカイルが!!」
「手をつないでいたんだろう」
「見てたの!?」
「……見れば分かる」
「そう!! それが尊いんです!!」
俺は勢いよくレオンに向き直った。
「二人が恋人になって、自然に手をつなげるようになって……! これから、もっといろんなことがあるんだよ!!」
レオンは俺を見つめた。
「……お前は、本当に嬉しそうだな」
「うん!!」
俺は満面の笑顔で答えた。
「大好きな二人が幸せなんだもん!」
その言葉に、レオンは一瞬だけ目を伏せた。
大好きな二人。
その中に、自分はいない。
そんなことを考えてしまった自分に、レオンは戸惑った。
アステルがアレンとカイルを大切に思っているのは知っている。
その気持ちを変えてほしいわけじゃない。
むしろ、そんなふうに誰かを心から応援できるところが、好きなのかもしれない。
――好き?
レオンは、心の中でその言葉を繰り返した。
そして、すぐに打ち消そうとした。
いや。
まだ、分からない。
けれど。
ミナトが誰かを見つめて笑うたびに、自分もその笑顔の理由になりたいと思ってしまう。
それだけは、もう誤魔化せなくなり始めていた。
一方、俺はというと。
「……よし!!」
突然、両手を握りしめた。
「俺も、もっと頑張ろう!!」
「……何をだ?」
レオンが尋ねた。
「魔法!! それから、二人の恋人生活を全力で応援すること!!」
「後半は必要なのか……?」
「必要です!!」
俺は胸を張った。
「推しの幸せを見守るのが、俺の使命だから!!」
レオンは、何とも言えない顔をした。
そして小さくつぶやいた。
「……お前らしいな」
「えへへ!」
俺は笑った。
その笑顔を見て、レオンもほんの少しだけ微笑んだ。
恋を自覚するには、まだ時間がかかる。
けれど、二人の物語が動き出したこの日。
俺自身の物語も、確かに少しずつ動き始めていた。
俺はというと、ノアとレオンと一緒に屋台を回ったあと、次の実演まで少し時間が空いたため、休憩スペースに向かっていた。
「いやあ、今日も最高だな……」
「ミナトくん、今日何回目の『最高』?」
「数えてない!!」
「だと思った」
ノアが笑う。
レオンは隣で静かに歩いていた。
そのとき、少し先に見覚えのある二人の姿が見えた。
「……ん?」
アレンとカイルだ。
二人は学院の中庭にあるベンチのそばに立っていた。
いつもなら一緒に行動している二人だけど、今日は何だか様子が違う。
アレンが少し緊張した顔で、カイルを見上げていた。
「カイル、少しだけ話したいことがあるんだ」
「……話?」
「うん。二人だけで話したくて」
…………。
………………。
二人だけで!?!?!?
俺は思わずその場で固まった。
待って。
今の聞いた?
聞き間違いじゃないよね?
アレンがカイルを二人きりの場所に誘ったんだけど!?
「ミナトくん?」
「しっ……!!」
「えっ、何?」
「今、重大なイベントが発生しています……!!」
「何の?」
「人生を左右するレベルの……!!」
「ミナト、声が大きい」
レオンに指摘され、俺は慌てて口を押さえた。
危ない危ない。
本人たちに聞こえたらどうするんだ。
でも!!
これは見逃せない!!
俺が前世から待ち望んでいた瞬間が、ついに来るのかもしれない!!
「……二人とも、少し待ってて」
俺は小声で告げた。
「ミナトくん、まさか……」
「行ってくる!!」
「いや、行くなって意味だったんだけど!?」
ノアの声を背に、俺は物陰に隠れた。
もちろん、本人たちの邪魔にならない距離で。
……ごめん、アレン、カイル。
ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、見守らせてください!!
◆ ◆ ◆
中庭には、やわらかな風が吹いていた。
アレンはしばらく言葉を探していたが、やがて意を決したように口を開いた。
「……カイル。今日の実演、ありがとう」
「何だ、急に」
「ずっと言いたかったんだ。僕が魔法をうまく制御できなかったときも、カイルは何度も付き合ってくれたよね」
カイルは黙って聞いていた。
「最初は、迷惑をかけてばかりだと思ってた。でも、カイルはいつも僕を信じてくれた」
「……お前は努力していた。だから手伝っただけだ」
「うん。そういうところも、好きなんだ」
カイルの目が、わずかに見開かれた。
アレン自身も、口にしてから少し驚いたようだった。
けれど、もう言葉を引っ込めなかった。
「カイルは、僕が失敗しても、うまくいっても、いつもそばにいてくれた。気づいたら、僕は何かあるたびにカイルを探してたんだ」
「……アレン」
「今日の実演も、成功した瞬間に一番にカイルに伝えたかった」
アレンは、少し照れたように笑った。
「それでね。さっき、カイルがほかの人と話しているのを見たとき、僕、少し寂しかったんだ」
カイルは驚いた顔をした。
「別に、誰かと話していてもおかしくないだろう」
「うん。分かってる。僕だって、カイルを独り占めしたいわけじゃない……って、言いたいんだけど」
アレンは困ったように笑った。
「本当は、もっと一緒にいたいんだ。友達としてだけじゃなくて」
その言葉のあと、静かな沈黙が訪れた。
アレンは一度深呼吸して、カイルをまっすぐ見つめた。
「僕は、カイルが好きだ」
「……」
「大切な友達だから、だけじゃない。これからも一緒にいたいし、僕にとって特別な人でいてほしい」
頬を赤くしながらも、アレンは最後まで言い切った。
「……僕と、付き合ってくれませんか?」
物陰の俺。
「…………ッ!!」
声にならない叫びが喉の奥で爆発した。
告白したーーーーーー!!!!!!
しかもアレンから!!
自分の気持ちに気づいて、ちゃんと言葉にして、カイルに伝えた!!
偉い!!
アレン、偉すぎる!!
俺は今、歴史的瞬間に立ち会っている!!
……いや、待って。
まだカイルの返事がある。
落ち着け、俺。
深呼吸だ。
吸って、吐いて。
吸って、吐いて。
無理です!!!!
カイルは、すぐには答えなかった。
けれど、困ったような顔をしているわけではなかった。
ただ、驚きと、何かを確かめるような感情が、その表情に浮かんでいた。
やがてカイルは、ゆっくりと口を開いた。
「……俺は、自分の気持ちをうまく言葉にするのが得意じゃない」
「うん」
「だから、お前が今言ってくれたことに、すぐにうまい返事ができるか分からない」
アレンは小さくうなずいた。
「でも、これだけは分かる」
カイルはアレンの目を見つめた。
「俺も、お前がいないと気になる」
「……え?」
「お前が魔法の練習をしていると、うまくいくか見ていたくなる。成功すれば、自分のことみたいに嬉しい。失敗して落ち込んでいたら、少しでも力になりたいと思う」
カイルは、照れくさそうに視線を落とした。
「今日の実演だって、成功したとき……お前が笑ってくれて、嬉しかった」
アレンの目が少しずつ大きくなる。
「……カイル」
「お前がほかの誰かと楽しそうにしていると、気になることもある」
カイルは一度言葉を切った。
そして、今度はしっかりとアレンを見た。
「俺も、お前が好きなんだと思う」
…………。
………………。
「っ……!」
アレンの顔が、一気に赤くなった。
「ほ、本当に……?」
「ああ」
「僕のこと、好き……?」
「……何度も言わせるな」
「ご、ごめん! でも、嬉しくて……!」
アレンは笑った。
今まで見たことがないくらい、嬉しそうな笑顔だった。
カイルはそんなアレンを見て、少し照れながらも手を差し出した。
「……これからも、そばにいてくれるか?」
アレンは、その手をしっかりと握った。
「うん! もちろん!」
そして、二人は自然に笑い合った。
「……よろしく、カイル」
「ああ。よろしくな、アレン」
その瞬間。
俺の中で、何かが成仏した。
いや、成仏というより、祝福された。
前世から持ち続けてきた夢が、今、目の前で現実になった。
二人が、ついに。
恋人になった。
「………………」
俺は両手で口を押さえた。
泣きそう。
本当に泣きそう。
二人とも、ちゃんと自分の気持ちに気づいて、伝え合ったんだ。
どちらかが一方的に支える関係じゃない。
アレンもカイルも、互いを大切に思っていた。
それが、今、ちゃんと言葉になった。
「……おめでとう」
俺は誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。
「本当に、おめでとう……!」
◆ ◆ ◆
「ミナトくん、泣いてる?」
「泣いてない……!」
「いや、めっちゃ目が潤んでるよ?」
「これは……心の汗です……!!」
中庭から少し離れた場所に戻ると、ノアが呆れたように笑った。
レオンも俺を見て、わずかに眉を上げた。
「……何があった」
俺は二人を見た。
そして、耐えきれずに叫んだ。
「アレンとカイルが!! 付き合った!!!!」
「……は?」
レオンが固まった。
ノアは一瞬目を丸くしてから、にっこり笑った。
「へえ! ついに?」
「ついにだよ!! アレンが告白して、カイルも好きだって言ってくれて!! 二人で、これからも一緒にいるって!!」
「そっか。よかったね、ミナトくん」
「よかったよおおおおお!!」
俺はその場でしゃがみ込んだ。
「俺……この瞬間を見るために、この世界に来たのかもしれない……」
「ミナトくん、壮大すぎるよ」
「だって!! だってさあ!!」
俺は顔を上げた。
「二人が幸せになってくれるのが、一番嬉しいんだよ!!」
ノアは少しだけ優しい顔になった。
「……うん。ミナトくんが、二人を本当に大切に思ってるのは分かるよ」
レオンも黙って俺を見ていた。
俺は勢いよく立ち上がった。
「よし!! 決めた!!」
「何を?」
ノアが尋ねる。
「二人を全力で祝福する!!」
「……ほどほどにな」
レオンの忠告は、残念ながら俺の耳には届かなかった。
なぜなら、その直後。
「ミナト!」
アレンの声がしたからだ。
振り返ると、アレンとカイルが並んで歩いてきていた。
二人とも、どこか照れくさそうな顔をしている。
俺は一瞬で察した。
そして。
「アレン!! カイル!!」
二人の前に駆け寄った。
「おめでとうございますーーーーーー!!!!!!」
「えっ!? ミナト、知ってるの!?」
アレンが真っ赤になった。
「え、あ、その……!」
カイルも珍しく、言葉に詰まっている。
俺は両手を握りしめた。
「二人とも、本当におめでとう!! 俺、めちゃくちゃ嬉しい!!」
「……ありがとう、ミナト」
アレンが、照れながら笑った。
「まだ少し恥ずかしいけど……でも、すごく嬉しいんだ」
「うん!! その気持ち、大事にしてね!!」
「……ああ。大切にする」
カイルが静かに答えた。
そして、ちらりとアレンを見る。
アレンもカイルを見て、嬉しそうに笑った。
…………。
………………。
はい、尊い!!!!!!
俺は再び両手で顔を覆った。
ノアが肩を震わせて笑っている。
「ミナトくん、今日ずっとこんな感じだね」
「仕方ないだろ!! だって!! 推しカプが!! 恋人に!!」
「はいはい、分かった分かった」
「分かってない!! この尊さは言葉では表せない!!」
「それはもう十分伝わったよ」
そのとき、隣から静かな声がした。
「……アステル」
「はい!!」
「少し落ち着け」
「無理です!!!!」
「……だろうな」
レオンはため息をついた。
けれど、その目はどこか優しかった。
俺はまだ気づいていない。
レオンが、俺の笑顔を見ていることに。
そして、アレンとカイルの恋が実ったことを誰よりも喜んでいる俺を見ながら、彼自身もまた、考え始めていたことに。
――自分にとって、アステルはどんな存在なのだろう。
ただの友人。
そう言い切るには、もう何かが違っていた。
◆ ◆ ◆
その日の夕方。
学園祭の休憩時間に、俺はアレンとカイルと一緒にベンチに座っていた。
ノアは別の友人に呼ばれていて、レオンは先生との打ち合わせに向かっている。
つまり、今は俺と新カップルの二人だけ。
……いや。
新カップルって何!?!?
言葉にしただけで幸せすぎる!!
「……ミナト?」
アレンが不思議そうに俺を見た。
「どうしたの? さっきから、ずっと嬉しそうだけど」
「いやあ……二人が並んで座ってるだけで、感慨深くて……」
「えっ!?」
アレンの顔が赤くなる。
カイルも少しだけ視線をそらした。
「……そんなに見られると、落ち着かないんだが」
「ごめん!! でも、二人が幸せそうで嬉しいんだ!」
俺は素直に伝えた。
「俺、二人がこれからもずっと仲良くしてくれたらいいなって思ってる!」
アレンは少し驚いたあと、柔らかく笑った。
「ありがとう、ミナト。僕たち、まだ恋人になったばかりだから、分からないこともあると思う。でも……」
アレンはカイルを見た。
「これからも、二人で一緒に考えていきたいんだ」
「……ああ」
カイルはうなずいた。
「俺も、そのつもりだ」
二人の手が、ベンチの上でそっと触れ合う。
そして、自然に指先が重なった。
…………。
………………。
「~~~~~~~~ッ!!」
俺は勢いよく立ち上がった。
「ちょっと待って!! 今の見た!? 見たよね!? 手!! 手が!!」
「ミナト、声が大きい!」
アレンが慌てる。
「悪い!! でも、今のは!!」
「……アステル」
背後から聞き慣れた声がした。
振り返ると、レオンが戻ってきていた。
「……また何を騒いでいる」
「レオン!! 聞いて!! 今、アレンとカイルが!!」
「手をつないでいたんだろう」
「見てたの!?」
「……見れば分かる」
「そう!! それが尊いんです!!」
俺は勢いよくレオンに向き直った。
「二人が恋人になって、自然に手をつなげるようになって……! これから、もっといろんなことがあるんだよ!!」
レオンは俺を見つめた。
「……お前は、本当に嬉しそうだな」
「うん!!」
俺は満面の笑顔で答えた。
「大好きな二人が幸せなんだもん!」
その言葉に、レオンは一瞬だけ目を伏せた。
大好きな二人。
その中に、自分はいない。
そんなことを考えてしまった自分に、レオンは戸惑った。
アステルがアレンとカイルを大切に思っているのは知っている。
その気持ちを変えてほしいわけじゃない。
むしろ、そんなふうに誰かを心から応援できるところが、好きなのかもしれない。
――好き?
レオンは、心の中でその言葉を繰り返した。
そして、すぐに打ち消そうとした。
いや。
まだ、分からない。
けれど。
ミナトが誰かを見つめて笑うたびに、自分もその笑顔の理由になりたいと思ってしまう。
それだけは、もう誤魔化せなくなり始めていた。
一方、俺はというと。
「……よし!!」
突然、両手を握りしめた。
「俺も、もっと頑張ろう!!」
「……何をだ?」
レオンが尋ねた。
「魔法!! それから、二人の恋人生活を全力で応援すること!!」
「後半は必要なのか……?」
「必要です!!」
俺は胸を張った。
「推しの幸せを見守るのが、俺の使命だから!!」
レオンは、何とも言えない顔をした。
そして小さくつぶやいた。
「……お前らしいな」
「えへへ!」
俺は笑った。
その笑顔を見て、レオンもほんの少しだけ微笑んだ。
恋を自覚するには、まだ時間がかかる。
けれど、二人の物語が動き出したこの日。
俺自身の物語も、確かに少しずつ動き始めていた。

