「…………はあぁぁぁ……」
「……アステル」
「はあぁぁぁぁぁ……尊い……」
「アステル」
「アレンが笑って、カイルが照れて、二人で成功させて……あれ、公式ですか? 公式ですよね!? ありがとうございます!!」
「アステル」
「しかも、カイルがアレンを支えたところ! あそこで自然に補助魔法を重ねるの、信頼関係が完成されすぎてるんですよ!! もう言葉はいらないというか、二人の間には二人だけの世界が――」
「アステル!!」
「はいっ!?」
耳元で呼ばれ、俺は飛び上がった。
目の前には、若干眉間にしわを寄せたレオンがいた。
……あれ?
俺、今、何をしていたんだっけ?
そうだ。俺たちの実演の準備をしていたはずだ。
なのに、気がついたら推しカプの感想を熱弁していた。
「……悪い。つい」
「つい、ではない。もうすぐ俺たちの出番だ」
「えっ!? もう!?」
「さっきから何度も言っている」
「ごめん!! 推しカプの供給が想像以上で、脳の処理が追いつかなくて!!」
「……供給?」
「あっ、いや! 何でもないです!」
危ない危ない。
うっかり前世のオタク用語が出てしまった。
俺は慌てて口を閉じる。
レオンは不思議そうな顔をしていたが、それ以上は追及しなかった。
「集中しろ。練習したとおりにやればいい」
「うん!」
俺は大きくうなずいた。
そうだ。俺だって今日のために練習してきたんだ。
レオンに何度も教えてもらって、少しずつできるようになった魔法。
せっかくなら、ちゃんと成功させたい。
……よし!
「俺、頑張る!」
「……ああ」
レオンは短く答えた。
けれど、その声はいつもより少しだけ優しかった。
舞台袖に移動すると、次の演目の準備が始まっていた。
空中に光の線を描くため、俺とレオンは隣同士に立つ。
今回の実演では、俺が細い光の線を描き、レオンがその光を安定させながら全体の魔法陣を完成させる。
簡単そうに見えるけれど、光の線を少しでも乱すと、全体の形が崩れてしまう。
練習では成功することも増えてきたけれど、人前で披露するのは初めてだった。
「……緊張しているか?」
レオンが小さな声で尋ねた。
「ちょっとだけ」
「手が冷たいな」
そう言って、レオンは俺の手元を見た。
「えっ、そう?」
「無理に力を入れるな。魔力まで固くなる」
「うん、分かった」
レオンは俺の目を見て、ゆっくりと言った。
「失敗しても、俺が合わせる。だから、自分の役割だけに集中しろ」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。
……レオンって、本当に頼りになるな。
普段はちょっと無愛想だし、言い方も厳しいことがある。
でも、俺が困っていると、必ず気づいてくれる。
俺が失敗しても、すぐに責めたりしない。
むしろ、どうしたら次は成功できるか、一緒に考えてくれる。
「……ありがとう、レオン」
「だから、礼は成功してからでいい」
「じゃあ、成功したらいっぱい褒めるね!」
「お前が俺を褒めるのか?」
「もちろん! レオンの魔法、すごいもん!」
レオンが一瞬、黙った。
「……そういうことを、簡単に言うな」
「え? 何で?」
「……何でもない」
まただ。
また何か言いかけて、やめた。
最近、レオンのこういう反応が増えた気がする。
俺、何か変なことを言っているのかな?
……いや、いつものことか。
そう納得しかけたとき、舞台の進行係が声を上げた。
「次の演目、準備をお願いします!」
いよいよだ。
俺は両手を握りしめた。
「よし……!」
すると、レオンが俺の名前を呼んだ。
「アステル」
「ん?」
「……楽しんでこい」
その言葉に、俺は思わず笑顔になった。
「うん!!」
その瞬間、レオンが少しだけ目を細めた。
俺は気づかなかった。
自分の笑顔を見て、レオンがどれほど嬉しそうな顔をしていたのかなんて。
◆ ◆ ◆
「続きまして、魔法実演部門! レオン・ヴァイスとミナト・アステルによる共同演目です!」
会場から拍手が起こる。
俺は舞台の中央に立った。
目の前には、たくさんの観客。
学院の生徒も、先生も、見学に来た人たちもいる。
うわあああああ!!
めっちゃ人がいる!!
練習のときは、こんなに注目されていなかったのに!
「……アステル」
隣からレオンの声がした。
「大丈夫だ」
その一言で、不思議と落ち着いた。
俺は小さくうなずき、魔力を集中させた。
指先から、細い光が生まれる。
一本、二本、三本。
光の線が空中へ伸び、ゆっくりと曲線を描いていく。
その光をレオンの魔法が包み込み、揺らぎを整えていく。
俺の光とレオンの魔法が重なり、空中に小さな星座が形作られ始めた。
……できてる。
ちゃんと、できてる!
俺は思わずレオンを見た。
レオンは前を向いたまま、静かにうなずいた。
その合図を受け、俺は次の光を描き始める。
練習で何度も失敗した部分。
細い線を曲げながら、別の光と交差させる難しい操作。
けれど、焦らない。
レオンがいる。
何度も練習してきた。
だから、大丈夫。
最後の線を描き終えると、レオンが魔法を重ねた。
次の瞬間。
空中に、光り輝く星座が完成した。
星と星をつなぐ光がゆっくりと瞬き、まるで夜空を切り取ったような幻想的な光景が広がった。
「わあ……!」
観客から歓声が上がる。
そして、大きな拍手。
「……成功、した?」
俺はぽかんと空を見上げた。
「成功だ、アステル」
レオンが答えた。
「……っ、やったあああああ!!」
俺は思わずレオンの手を握った。
「レオン!! 成功した!! ちゃんとできたよ!!」
「……ああ」
「すごい! 俺たち、成功したんだ!!」
嬉しくて、嬉しくて、仕方がなかった。
練習で失敗して落ち込んだ日もあった。
自分には向いていないんじゃないかと思ったこともあった。
でも、諦めなくてよかった。
レオンが教えてくれたから、ここまで来られた。
「ありがとう、レオン!! 本当にありがとう!!」
俺は握った手をぶんぶんと振った。
「俺、レオンと一緒に実演できてよかった!!」
…………。
レオンが、完全に固まった。
「……レオン?」
「…………」
「え、どうしたの!? どこか痛い!?」
「……いや」
レオンはゆっくりと俺の手を見た。
俺が握っている、彼の手を。
「……何でもない」
そう答える声は、いつもより少しかすれていた。
俺は首をかしげた。
……もしかして、疲れた?
そりゃそうだよね!
あんなにすごい魔法を使ったんだもん!
「レオン、あとでちゃんと休んでね!」
「……お前は、本当に……」
「ん?」
「……いや、何でもない」
なぜかレオンは、今度こそ本当に困ったような顔をしていた。
一方、俺はというと。
成功の喜びで頭がいっぱいだった。
自分たちの魔法が成功したこと。
観客が喜んでくれたこと。
そして何より、推しカプの実演に続いて、自分までこんな素敵な思い出を作れたこと!
……ああ、今日は最高の日だ。
俺は満面の笑みで、もう一度レオンを見た。
「レオン! また一緒に練習しようね!」
レオンは俺を見つめたあと、静かに答えた。
「……ああ。何度でもな」
その声があまりにも優しくて。
俺はまた、胸の奥が温かくなるのを感じた。
……あれ?
今日、これ何回目だろう。
レオンと話すと、なんだか嬉しい。
レオンに褒められると、もっと嬉しい。
……いやいやいや!
これはきっと、信頼している相手だからだ。
そういうことにしておこう。
◆ ◆ ◆
実演を終えた俺たちは、先生からの講評を受けて舞台裏を離れた。
レオンは先生に呼び止められ、魔法の構成について質問されている。
俺は邪魔にならないように、少し離れた場所で待つことにした。
すると。
「ミナトくーん!」
聞き慣れた、明るい声がした。
振り向けば、そこにはノアがいた。
「ノア!」
「実演、見てたよ! すごかったね。あんなに綺麗な星座ができるなんて思わなかった」
「本当!? ありがとう!!」
「うん。特に最後の光の線。練習してたところでしょ?」
「そう! よく分かったね!」
「何度か練習を見かけたからね。頑張ってたの、知ってるよ」
……ノア、いい人すぎる。
ちゃんと見てくれていたんだ。
嬉しくなって、俺は笑った。
「ありがとう! ノアにそう言ってもらえると嬉しい!」
「ふふっ。じゃあ、頑張ったミナトくんにご褒美をあげようかな」
「ご褒美?」
「屋台巡り! せっかくの学園祭だし、一緒に回らない?」
「行く!!」
即答だった。
屋台!!
食べ物!!
学園祭!!
行かない理由がない!!
「やった! じゃあ、まずは焼き菓子の屋台に行こうよ。限定の魔法菓子があるんだって」
「何それ!? 絶対食べたい!!」
ノアと並んで歩き始める。
……そのとき。
少し離れた場所で先生との話を終えたレオンが、こちらを見ていた。
俺とノアが楽しそうに話している。
ノアが俺の手元を指さして、何かを説明している。
俺が笑っている。
レオンは、無意識に足を止めた。
――まただ。
また、ノアと一緒にいる。
別に、ノアと出かけるなと言いたいわけじゃない。
アステルが誰と仲良くしようと、本人の自由だ。
分かっている。
分かっているのに。
「……」
どうして、こんなに気になるんだ。
「レオン?」
声をかけられ、レオンは振り返った。
アレンとカイルが立っていた。
「どうしたの? ミナトたちを見てたみたいだけど」
「……別に」
「そうか?」
カイルが少し不思議そうにする。
レオンはすぐに視線を戻した。
その先では、ノアがミナトの頭に手を伸ばし、髪についていた小さな飾りを取っていた。
ミナトは「ありがとう!」と笑っている。
……レオンの眉間に、しわが寄った。
「……あいつは、誰にでもああなのか」
「え?」
アレンが首をかしげる。
「何か言った?」
「何でもない」
レオンは踵を返した。
「俺は少し休んでくる」
その背中を、カイルがじっと見送った。
「……レオン、今日は少し様子がおかしいな」
「そうかな?」
アレンはミナトたちの方を見たあと、ぱっと笑った。
「でも、ミナトが楽しそうでよかった!」
「……そうだな」
カイルはアレンの横顔を見て、少しだけ口元を緩めた。
そして、心の中で思った。
――あいつも、早く自分の気持ちに気づけばいいのに。
もちろん、レオンには聞こえていない。
そして、本人はまだ認めるつもりもない。
自分が今、少しだけ嫉妬していることを。
◆ ◆ ◆
「レオン、どこに行ったんだろう?」
焼き菓子を手に、俺は周囲を見渡した。
ノアが隣で首をかしげる。
「レオンなら、さっき先生と話してたけど?」
「うん。そのあと一緒に屋台を回ろうかなって思ってたんだけど……」
「へえ?」
ノアの口元が、にやりと上がった。
「ミナトくん、レオンも誘うつもりだったんだ?」
「え? うん! だって一緒に実演したし! せっかくだからみんなで回りたいじゃん!」
「ふーん。そっかそっか」
「……何その顔」
「別にー?」
絶対、何か考えてる。
ノアはこういうとき、だいたい何かを察している顔をする。
「ねえ、ミナトくん」
「何?」
「レオンがいないと、寂しい?」
「えっ!?」
俺は思わず焼き菓子を落としそうになった。
「な、何で!? 別に寂しくないよ!?」
「本当に?」
「本当! ただ、一緒に実演したから感想を言いたいだけ!」
「ふうん?」
ノアは楽しそうに笑った。
「じゃあ、レオンが別の人と屋台を回ってても、気にならない?」
「え? もちろん! レオンにも友達はいるだろうし……」
そこまで言って、なぜか言葉が止まった。
想像してみる。
レオンが、別の生徒と並んで歩いている。
いつものように落ち着いた顔で、その相手に優しく話しかけている。
相手が笑うと、レオンも少しだけ笑う。
…………。
あれ?
なんだろう。
ちょっとだけ、変な感じがする。
胸の奥が、ほんの少しだけ落ち着かない。
「……ミナトくん?」
「えっ!? あ、ううん! 何でもない!」
俺は慌てて首を振った。
いやいやいや。
これはきっと、いつも一緒に練習しているからだ。
レオンは大切な友達だし、仲間だし。
一緒にいる時間が長いから、なんとなく気になるだけ。
そう。
きっと、ただの友情だ。
「……そうだよね」
俺は自分に言い聞かせるように、小さくつぶやいた。
ノアは何も言わず、俺の顔を見ていた。
そして、ふっと笑った。
「……ミナトくんって、面白いね」
「えっ、何で!?」
「ううん。何でもないよ」
ノアはそう言って、俺の肩を軽くたたいた。
「ほら、次の屋台に行こう! せっかくの学園祭なんだから、楽しまなきゃ!」
「うん!」
俺は笑顔でうなずいた。
でも、歩き出してからも、頭の片隅にはレオンのことが残っていた。
……レオン、今どこにいるんだろう。
ちゃんと休んでるかな。
俺たちの実演、どう思ったかな。
……あとで、感想を聞きたいな。
そんなことを考えている自分に、俺はまだ気づいていなかった。
自分がいつの間にか、レオンのことを探してしまうようになっていることに。
「……アステル」
「はあぁぁぁぁぁ……尊い……」
「アステル」
「アレンが笑って、カイルが照れて、二人で成功させて……あれ、公式ですか? 公式ですよね!? ありがとうございます!!」
「アステル」
「しかも、カイルがアレンを支えたところ! あそこで自然に補助魔法を重ねるの、信頼関係が完成されすぎてるんですよ!! もう言葉はいらないというか、二人の間には二人だけの世界が――」
「アステル!!」
「はいっ!?」
耳元で呼ばれ、俺は飛び上がった。
目の前には、若干眉間にしわを寄せたレオンがいた。
……あれ?
俺、今、何をしていたんだっけ?
そうだ。俺たちの実演の準備をしていたはずだ。
なのに、気がついたら推しカプの感想を熱弁していた。
「……悪い。つい」
「つい、ではない。もうすぐ俺たちの出番だ」
「えっ!? もう!?」
「さっきから何度も言っている」
「ごめん!! 推しカプの供給が想像以上で、脳の処理が追いつかなくて!!」
「……供給?」
「あっ、いや! 何でもないです!」
危ない危ない。
うっかり前世のオタク用語が出てしまった。
俺は慌てて口を閉じる。
レオンは不思議そうな顔をしていたが、それ以上は追及しなかった。
「集中しろ。練習したとおりにやればいい」
「うん!」
俺は大きくうなずいた。
そうだ。俺だって今日のために練習してきたんだ。
レオンに何度も教えてもらって、少しずつできるようになった魔法。
せっかくなら、ちゃんと成功させたい。
……よし!
「俺、頑張る!」
「……ああ」
レオンは短く答えた。
けれど、その声はいつもより少しだけ優しかった。
舞台袖に移動すると、次の演目の準備が始まっていた。
空中に光の線を描くため、俺とレオンは隣同士に立つ。
今回の実演では、俺が細い光の線を描き、レオンがその光を安定させながら全体の魔法陣を完成させる。
簡単そうに見えるけれど、光の線を少しでも乱すと、全体の形が崩れてしまう。
練習では成功することも増えてきたけれど、人前で披露するのは初めてだった。
「……緊張しているか?」
レオンが小さな声で尋ねた。
「ちょっとだけ」
「手が冷たいな」
そう言って、レオンは俺の手元を見た。
「えっ、そう?」
「無理に力を入れるな。魔力まで固くなる」
「うん、分かった」
レオンは俺の目を見て、ゆっくりと言った。
「失敗しても、俺が合わせる。だから、自分の役割だけに集中しろ」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。
……レオンって、本当に頼りになるな。
普段はちょっと無愛想だし、言い方も厳しいことがある。
でも、俺が困っていると、必ず気づいてくれる。
俺が失敗しても、すぐに責めたりしない。
むしろ、どうしたら次は成功できるか、一緒に考えてくれる。
「……ありがとう、レオン」
「だから、礼は成功してからでいい」
「じゃあ、成功したらいっぱい褒めるね!」
「お前が俺を褒めるのか?」
「もちろん! レオンの魔法、すごいもん!」
レオンが一瞬、黙った。
「……そういうことを、簡単に言うな」
「え? 何で?」
「……何でもない」
まただ。
また何か言いかけて、やめた。
最近、レオンのこういう反応が増えた気がする。
俺、何か変なことを言っているのかな?
……いや、いつものことか。
そう納得しかけたとき、舞台の進行係が声を上げた。
「次の演目、準備をお願いします!」
いよいよだ。
俺は両手を握りしめた。
「よし……!」
すると、レオンが俺の名前を呼んだ。
「アステル」
「ん?」
「……楽しんでこい」
その言葉に、俺は思わず笑顔になった。
「うん!!」
その瞬間、レオンが少しだけ目を細めた。
俺は気づかなかった。
自分の笑顔を見て、レオンがどれほど嬉しそうな顔をしていたのかなんて。
◆ ◆ ◆
「続きまして、魔法実演部門! レオン・ヴァイスとミナト・アステルによる共同演目です!」
会場から拍手が起こる。
俺は舞台の中央に立った。
目の前には、たくさんの観客。
学院の生徒も、先生も、見学に来た人たちもいる。
うわあああああ!!
めっちゃ人がいる!!
練習のときは、こんなに注目されていなかったのに!
「……アステル」
隣からレオンの声がした。
「大丈夫だ」
その一言で、不思議と落ち着いた。
俺は小さくうなずき、魔力を集中させた。
指先から、細い光が生まれる。
一本、二本、三本。
光の線が空中へ伸び、ゆっくりと曲線を描いていく。
その光をレオンの魔法が包み込み、揺らぎを整えていく。
俺の光とレオンの魔法が重なり、空中に小さな星座が形作られ始めた。
……できてる。
ちゃんと、できてる!
俺は思わずレオンを見た。
レオンは前を向いたまま、静かにうなずいた。
その合図を受け、俺は次の光を描き始める。
練習で何度も失敗した部分。
細い線を曲げながら、別の光と交差させる難しい操作。
けれど、焦らない。
レオンがいる。
何度も練習してきた。
だから、大丈夫。
最後の線を描き終えると、レオンが魔法を重ねた。
次の瞬間。
空中に、光り輝く星座が完成した。
星と星をつなぐ光がゆっくりと瞬き、まるで夜空を切り取ったような幻想的な光景が広がった。
「わあ……!」
観客から歓声が上がる。
そして、大きな拍手。
「……成功、した?」
俺はぽかんと空を見上げた。
「成功だ、アステル」
レオンが答えた。
「……っ、やったあああああ!!」
俺は思わずレオンの手を握った。
「レオン!! 成功した!! ちゃんとできたよ!!」
「……ああ」
「すごい! 俺たち、成功したんだ!!」
嬉しくて、嬉しくて、仕方がなかった。
練習で失敗して落ち込んだ日もあった。
自分には向いていないんじゃないかと思ったこともあった。
でも、諦めなくてよかった。
レオンが教えてくれたから、ここまで来られた。
「ありがとう、レオン!! 本当にありがとう!!」
俺は握った手をぶんぶんと振った。
「俺、レオンと一緒に実演できてよかった!!」
…………。
レオンが、完全に固まった。
「……レオン?」
「…………」
「え、どうしたの!? どこか痛い!?」
「……いや」
レオンはゆっくりと俺の手を見た。
俺が握っている、彼の手を。
「……何でもない」
そう答える声は、いつもより少しかすれていた。
俺は首をかしげた。
……もしかして、疲れた?
そりゃそうだよね!
あんなにすごい魔法を使ったんだもん!
「レオン、あとでちゃんと休んでね!」
「……お前は、本当に……」
「ん?」
「……いや、何でもない」
なぜかレオンは、今度こそ本当に困ったような顔をしていた。
一方、俺はというと。
成功の喜びで頭がいっぱいだった。
自分たちの魔法が成功したこと。
観客が喜んでくれたこと。
そして何より、推しカプの実演に続いて、自分までこんな素敵な思い出を作れたこと!
……ああ、今日は最高の日だ。
俺は満面の笑みで、もう一度レオンを見た。
「レオン! また一緒に練習しようね!」
レオンは俺を見つめたあと、静かに答えた。
「……ああ。何度でもな」
その声があまりにも優しくて。
俺はまた、胸の奥が温かくなるのを感じた。
……あれ?
今日、これ何回目だろう。
レオンと話すと、なんだか嬉しい。
レオンに褒められると、もっと嬉しい。
……いやいやいや!
これはきっと、信頼している相手だからだ。
そういうことにしておこう。
◆ ◆ ◆
実演を終えた俺たちは、先生からの講評を受けて舞台裏を離れた。
レオンは先生に呼び止められ、魔法の構成について質問されている。
俺は邪魔にならないように、少し離れた場所で待つことにした。
すると。
「ミナトくーん!」
聞き慣れた、明るい声がした。
振り向けば、そこにはノアがいた。
「ノア!」
「実演、見てたよ! すごかったね。あんなに綺麗な星座ができるなんて思わなかった」
「本当!? ありがとう!!」
「うん。特に最後の光の線。練習してたところでしょ?」
「そう! よく分かったね!」
「何度か練習を見かけたからね。頑張ってたの、知ってるよ」
……ノア、いい人すぎる。
ちゃんと見てくれていたんだ。
嬉しくなって、俺は笑った。
「ありがとう! ノアにそう言ってもらえると嬉しい!」
「ふふっ。じゃあ、頑張ったミナトくんにご褒美をあげようかな」
「ご褒美?」
「屋台巡り! せっかくの学園祭だし、一緒に回らない?」
「行く!!」
即答だった。
屋台!!
食べ物!!
学園祭!!
行かない理由がない!!
「やった! じゃあ、まずは焼き菓子の屋台に行こうよ。限定の魔法菓子があるんだって」
「何それ!? 絶対食べたい!!」
ノアと並んで歩き始める。
……そのとき。
少し離れた場所で先生との話を終えたレオンが、こちらを見ていた。
俺とノアが楽しそうに話している。
ノアが俺の手元を指さして、何かを説明している。
俺が笑っている。
レオンは、無意識に足を止めた。
――まただ。
また、ノアと一緒にいる。
別に、ノアと出かけるなと言いたいわけじゃない。
アステルが誰と仲良くしようと、本人の自由だ。
分かっている。
分かっているのに。
「……」
どうして、こんなに気になるんだ。
「レオン?」
声をかけられ、レオンは振り返った。
アレンとカイルが立っていた。
「どうしたの? ミナトたちを見てたみたいだけど」
「……別に」
「そうか?」
カイルが少し不思議そうにする。
レオンはすぐに視線を戻した。
その先では、ノアがミナトの頭に手を伸ばし、髪についていた小さな飾りを取っていた。
ミナトは「ありがとう!」と笑っている。
……レオンの眉間に、しわが寄った。
「……あいつは、誰にでもああなのか」
「え?」
アレンが首をかしげる。
「何か言った?」
「何でもない」
レオンは踵を返した。
「俺は少し休んでくる」
その背中を、カイルがじっと見送った。
「……レオン、今日は少し様子がおかしいな」
「そうかな?」
アレンはミナトたちの方を見たあと、ぱっと笑った。
「でも、ミナトが楽しそうでよかった!」
「……そうだな」
カイルはアレンの横顔を見て、少しだけ口元を緩めた。
そして、心の中で思った。
――あいつも、早く自分の気持ちに気づけばいいのに。
もちろん、レオンには聞こえていない。
そして、本人はまだ認めるつもりもない。
自分が今、少しだけ嫉妬していることを。
◆ ◆ ◆
「レオン、どこに行ったんだろう?」
焼き菓子を手に、俺は周囲を見渡した。
ノアが隣で首をかしげる。
「レオンなら、さっき先生と話してたけど?」
「うん。そのあと一緒に屋台を回ろうかなって思ってたんだけど……」
「へえ?」
ノアの口元が、にやりと上がった。
「ミナトくん、レオンも誘うつもりだったんだ?」
「え? うん! だって一緒に実演したし! せっかくだからみんなで回りたいじゃん!」
「ふーん。そっかそっか」
「……何その顔」
「別にー?」
絶対、何か考えてる。
ノアはこういうとき、だいたい何かを察している顔をする。
「ねえ、ミナトくん」
「何?」
「レオンがいないと、寂しい?」
「えっ!?」
俺は思わず焼き菓子を落としそうになった。
「な、何で!? 別に寂しくないよ!?」
「本当に?」
「本当! ただ、一緒に実演したから感想を言いたいだけ!」
「ふうん?」
ノアは楽しそうに笑った。
「じゃあ、レオンが別の人と屋台を回ってても、気にならない?」
「え? もちろん! レオンにも友達はいるだろうし……」
そこまで言って、なぜか言葉が止まった。
想像してみる。
レオンが、別の生徒と並んで歩いている。
いつものように落ち着いた顔で、その相手に優しく話しかけている。
相手が笑うと、レオンも少しだけ笑う。
…………。
あれ?
なんだろう。
ちょっとだけ、変な感じがする。
胸の奥が、ほんの少しだけ落ち着かない。
「……ミナトくん?」
「えっ!? あ、ううん! 何でもない!」
俺は慌てて首を振った。
いやいやいや。
これはきっと、いつも一緒に練習しているからだ。
レオンは大切な友達だし、仲間だし。
一緒にいる時間が長いから、なんとなく気になるだけ。
そう。
きっと、ただの友情だ。
「……そうだよね」
俺は自分に言い聞かせるように、小さくつぶやいた。
ノアは何も言わず、俺の顔を見ていた。
そして、ふっと笑った。
「……ミナトくんって、面白いね」
「えっ、何で!?」
「ううん。何でもないよ」
ノアはそう言って、俺の肩を軽くたたいた。
「ほら、次の屋台に行こう! せっかくの学園祭なんだから、楽しまなきゃ!」
「うん!」
俺は笑顔でうなずいた。
でも、歩き出してからも、頭の片隅にはレオンのことが残っていた。
……レオン、今どこにいるんだろう。
ちゃんと休んでるかな。
俺たちの実演、どう思ったかな。
……あとで、感想を聞きたいな。
そんなことを考えている自分に、俺はまだ気づいていなかった。
自分がいつの間にか、レオンのことを探してしまうようになっていることに。

