「――というわけで、展示の衣装を決めようと思う!」
放課後の教室。
アレンのその一言で、俺の平和な日常は再び大きく揺らいだ。
衣装。
衣装合わせ。
つまり……。
推しカプの衣装姿が見られるってことですか!?!?
「…………」
「ミナトくん?」
「…………最高」
「え?」
「最高すぎる……!!」
「何が!?」
ノアが笑いながら俺の顔をのぞき込んできた。
いや、だって!
普段の制服姿でも十分尊いのに、学園祭用の衣装まで見られるなんて!
この世界、サービス精神が旺盛すぎない!?
「ミナト、何か楽しみにしていることでもあるのか?」
アレンが不思議そうに尋ねてきた。
「うん!!」
「そ、そうなんだ。何かな?」
「みんなの衣装姿!!」
「……衣装?」
「うん! 絶対似合うと思う!」
俺が力強くうなずくと、アレンは少し照れたように笑った。
「ありがとう。ミナトにそう言ってもらえると嬉しいよ」
…………。
主人公の笑顔、今日もまぶしい。
その隣では、カイルが静かに資料を確認している。
「衣装は展示の内容に合わせて、魔法使いらしいものにする予定だ」
「魔法使いの衣装……!」
俺は思わず両手を握りしめた。
ローブ?
マント?
装飾のついた上着?
どれにしても、絶対に似合う。
アレンの優しい雰囲気に合う衣装と、カイルの落ち着いた雰囲気に合う衣装。
それぞれ違う魅力が出るはず。
そして、その二人が並んだら――。
「ミナトくん、戻ってきて」
「はっ!」
ノアに肩を揺さぶられ、俺は現実に帰ってきた。
危ない。
また妄想の世界へ旅立つところだった。
「そんなに衣装が楽しみなんだ?」
「当たり前だろ!」
「ふふっ。じゃあ、ミナトくん自身の衣装も楽しみにしておいてね」
「……え?」
俺自身?
…………。
そういえば。
俺も展示係だった。
「…………俺も着るの?」
「もちろん」
ノアはにっこり笑った。
「みんな一緒だよ、ミナトくん」
……。
……まあ。
それはそうか。
俺だけ制服というわけにもいかないよな。
よし。
推しカプのためなら、衣装くらい喜んで着ようじゃないか!
◆ ◆ ◆
翌日の放課後。
俺たちは衣装を試着するため、学院の衣装室に集まっていた。
部屋には、黒や紺を基調としたローブや、銀色の刺繍が入った上着が並んでいる。
「うわあ……!」
思わず声が漏れた。
「すごい! 本格的だ!」
「学院の備品だからね。過去の学園祭でも使われていたものらしいよ」
アレンが説明してくれる。
「この辺りが魔法展示用かな」
カイルが紺色のローブを手に取った。
「アレンにはこっちが合いそうだ」
「え? これ?」
カイルが差し出したのは、白い装飾が入った淡い青色のローブだった。
アレンはそれを受け取り、嬉しそうに目を輝かせた。
「ありがとう! カイルが選んでくれたんだね」
「……色が合うと思っただけだ」
「そうかな? 僕も好きな色だよ」
…………。
………………。
カイルがアレンの衣装を選んだ。
しかも。
アレンが嬉しそうに受け取った。
何ですか、この自然なやり取り。
付き合ってないのに、互いの好みを理解している感じ。
いや、まだ公式では恋人じゃない。
でも俺は知っている。
この二人は、ゆっくりと互いを特別な存在にしていくのだ。
「ミナトくん、また顔がにやけてる」
「にやけてない」
「いや、にやけてるよ」
「これは自然現象です」
「何の?」
「尊さを浴びたときに起きる現象です」
「そんな現象、初めて聞いたなあ」
ノアは楽しそうに笑った。
……この人、絶対に俺で遊んでる。
◆ ◆ ◆
「着替えてきたよ」
試着室のカーテンが開いた。
最初に出てきたのは、アレンだった。
淡い青色のローブに、白い刺繍。
腰には細い銀色のベルトがあり、胸元には学院の紋章が飾られている。
普段の制服より少し華やかで、アレンの柔らかい雰囲気によく似合っていた。
「…………」
俺は息をのんだ。
「ど、どうかな?」
アレンが少し恥ずかしそうに尋ねる。
「…………」
「ミナト?」
「めちゃくちゃ似合ってる!!!!」
「うわっ!?」
「すごい! え、何!? 主人公!? いや主人公だけど!!」
「み、ミナト、落ち着いて!」
「落ち着けるわけないだろ!!」
アレンは困ったように笑った。
「ありがとう。そんなに喜んでもらえるとは思わなかったよ」
喜ぶよ!!
喜ぶに決まってるだろ!!
アレンの優しさと衣装の上品さが完璧に合っている。
しかも本人が少し照れている。
これはもう、学院祭のパンフレットの表紙にするべきでは!?
「……アレン、次は俺だ」
カイルが試着室に入っていった。
俺は姿勢を正した。
来る。
来るぞ。
カイル・衣装チェンジイベントが!!
そして数分後。
カーテンが開いた。
「……どうだ?」
カイルは濃紺のローブを身にまとっていた。
肩には銀色の留め具。
胸元には控えめな刺繍。
全体的に装飾は少ないのに、すっきりとした立ち姿のおかげで、ものすごく様になっている。
アレンが目を丸くした。
「わあ……! カイル、すごく似合ってる!」
「そうか?」
「うん! かっこいいよ!」
「…………」
カイルが少しだけ黙った。
それから、視線をそらした。
「……ありがとう」
……。
……。
……。
カイル、照れてる!!!!
俺はその場で崩れ落ちそうになった。
アレンの素直な褒め言葉。
それを受けて、ちょっと照れるカイル。
しかも二人とも、相手の衣装をちゃんと見て褒めている。
お互いを見ている。
尊い。
尊いよ。
この世界の空気まで甘く感じる。
「ミナトくん、立って。まだ自分の衣装を着てないでしょ」
「……はい」
ノアに腕を引っ張られながら、俺は何とか立ち上がった。
でも、心の中ではずっと叫んでいた。
公式カップルの衣装合わせ、最高です!!!!
「次はレオンだね」
ノアが試着室の方を見た。
「……ああ」
レオンは黒を基調とした衣装を手に取った。
黒いローブに、青灰色の刺繍。
襟元には銀色の留め具があり、学院の紋章が胸元に飾られている。
……いや。
待って。
その色合い。
黒髪に、青灰色の瞳。
普段から完成されているのに、そこに黒いローブと銀色の装飾を足すんですか?
盛りすぎでは?
「じゃあ、着替えてくる」
レオンが試着室へ入っていった。
俺はごくりと息をのんだ。
正直に言おう。
レオンは、普段からかっこいい。
これは認める。
認めるけれど、俺にとっては推しカプの幸せを見届けることが最優先。
レオンはその次。
……いや、別に順位をつける必要はないけど!
とにかく、俺は冷静でいる。
冷静に衣装姿を確認するだけだ。
そう。
これは展示の準備。
何もおかしなことはない。
「……待たせた」
カーテンが開いた。
そして。
「…………」
俺の思考が、止まった。
黒いローブが、レオンの長身によく似合っていた。
銀色の装飾は派手すぎず、青灰色の刺繍が黒い布地に映えている。
いつもより少し大人びて見える。
冷静な表情も相まって、まるで学院の公式ポスターから抜け出してきたみたいだった。
「……どうした、アステル」
レオンが俺を見る。
「…………」
「おい」
「…………え?」
やっと声が出た。
「レオン……」
「何だ」
「……その衣装、すごく似合ってる」
「…………」
レオンが一瞬、目を見開いた。
俺はそれどころじゃなかった。
「いや、ほんとに! めちゃくちゃ似合ってる! 色も合ってるし、装飾もすごくきれいだし! 普段もかっこいいけど、今日のレオンはなんかこう……完成度がすごい!!」
「……完成度?」
「そう! 完成度!!」
何を言ってるんだ、俺は。
もっと他に言い方があるだろ。
でも、本当にそう思ったんだから仕方ない。
レオンはしばらく黙っていた。
そして、小さく視線をそらした。
「……そうか」
その耳が、ほんの少し赤くなっていた。
「……ありがとう」
…………。
え?
今、ありがとうって言った?
しかも、ちょっと照れてる?
え?
レオンって、こういうとき照れるんだ!?
俺は目を輝かせた。
「レオンって、意外と照れ屋なんだね!」
「…………は?」
空気が止まった。
ノアが顔を覆った。
アレンはきょとんとしている。
カイルは静かに視線をそらした。
そしてレオンは――。
「……照れていない」
「えっ、でも耳が赤いよ?」
「これは暑いだけだ」
「えっ、衣装ってそんなに暑いの?」
「…………アステル」
「はいっ!」
「少し黙れ」
「はい!!」
……怒られた。
でも、怒られても仕方ない。
俺が余計なことを言ったのは事実だ。
ただ、ひとつだけ分かった。
レオンは、褒められると少し照れる。
新発見である。
今後のために、記憶しておこう。
……いや、今後って何のためだよ。
◆ ◆ ◆
衣装合わせがひと段落したあと。
俺は鏡の前で、自分の衣装を確認していた。
俺が着ることになったのは、白と紺を基調にしたシンプルなローブだった。
装飾は少なめだけど、袖口に小さな銀色の刺繍が入っている。
「おお……」
思ったより、ちゃんとした格好だ。
「ミナトくん、似合ってるよ」
ノアが後ろから声をかけてきた。
「本当?」
「うん。普段よりちょっと大人っぽく見える」
「へへ、ありがとう!」
俺が笑うと、ノアも笑った。
そのとき。
「……アステル」
振り返ると、レオンが立っていた。
「その衣装で問題なさそうだな」
「うん! 思ってたより着やすい!」
「そうか」
レオンは俺を見て、少しだけ目を細めた。
「……似合っている」
「…………」
…………。
………………。
「えっ!?」
思わず聞き返した。
「今、何て!?」
「似合っていると言った」
「俺が!?」
「お前以外に誰がいる」
「いや、そうだけど!!」
待って。
レオンに褒められた。
衣装を褒められた。
しかも、似合っているって。
「……ありがとう!!」
嬉しくなって、俺は思いっきり笑った。
レオンは一瞬だけ固まった。
それから、すぐに視線をそらした。
「……どういたしまして」
その様子を、ノアは見逃さなかった。
「…………」
にやり。
ノアの口元が、楽しそうに上がった。
「ねえ、レオン」
「何だ」
「ミナトくんに褒められたときも、ミナトくんを褒めたときも、ちょっと照れてない?」
「照れていない」
「ふーん?」
「……ノア」
「はいはい。これ以上は言わないよ」
そう言いながら、ノアはまったく反省していない顔をしていた。
俺は二人を見比べた。
「何の話?」
「何でもないよ、ミナトくん」
「……そうだ。何でもない」
二人の声が重なった。
俺は思わず笑った。
「また息ぴったり!」
「「違う」」
……まただ。
本当に、この二人は仲がいい。
俺が笑っていると、レオンは困ったように眉を寄せた。
けれど、その表情はどこか柔らかかった。
◆ ◆ ◆
衣装合わせが終わり、俺たちはそれぞれ帰る準備をしていた。
アレンとカイルは、明日の展示の打ち合わせをしている。
「明日は実演の順番を確認しよう」
「うん! カイル、時間ある?」
「ああ。放課後なら大丈夫だ」
「じゃあ、一緒にやろう!」
「分かった」
……ああ。
今日も尊い。
明日も供給がある。
俺は幸せだ。
「ミナトくん、帰ろうか」
ノアに声をかけられ、俺はうなずいた。
「うん!」
ところが、歩き出そうとしたところで。
「……アステル」
レオンに呼び止められた。
「ん?」
「明日の練習だが、少し早めに来られるか」
「練習?」
「ああ。今日の衣装に合わせて、魔法の見せ方も確認しておきたい」
「もちろん! 行くよ!」
「そうか。なら、実習室で待っている」
「分かった!」
俺が元気よく返事をすると、レオンはうなずいて歩き去った。
その背中を見送りながら、俺は思った。
レオンって、本当に面倒見がいい。
最初はちょっと怖い人かと思ったけど、今は全然そんなことない。
教え方も上手だし、ちゃんと褒めてくれるし。
「……いい友達ができたなあ」
ぽつりと呟いた。
隣のノアが、ぴたりと足を止めた。
「……友達?」
「うん!」
「……そっか」
ノアは何か言いたそうな顔をした。
でも、結局何も言わず、ふっと笑った。
「ミナトくんって、本当にすごいね」
「え? 何が?」
「何でもないよ」
「またそれ!?」
ノアは笑いながら歩き出した。
俺もその後を追いかける。
夕暮れの学院は、オレンジ色の光に包まれていた。
学園祭の準備は順調。
アレンとカイルは今日も仲がいい。
ノアは相変わらず面白い。
レオンは頼りになる。
俺は今の生活が、すごく好きだ。
だからこそ、まだ気づかない。
レオンが俺を褒めたとき、ほんの少しだけ嬉しそうだった理由も。
俺が笑うと、レオンの視線が自然とこちらへ向いてしまう理由も。
そして――。
レオン自身も、まだ気づいていなかった。
衣装姿のミナトを見たとき。
いつもより少しだけ、目を離しにくかったことに。
放課後の教室。
アレンのその一言で、俺の平和な日常は再び大きく揺らいだ。
衣装。
衣装合わせ。
つまり……。
推しカプの衣装姿が見られるってことですか!?!?
「…………」
「ミナトくん?」
「…………最高」
「え?」
「最高すぎる……!!」
「何が!?」
ノアが笑いながら俺の顔をのぞき込んできた。
いや、だって!
普段の制服姿でも十分尊いのに、学園祭用の衣装まで見られるなんて!
この世界、サービス精神が旺盛すぎない!?
「ミナト、何か楽しみにしていることでもあるのか?」
アレンが不思議そうに尋ねてきた。
「うん!!」
「そ、そうなんだ。何かな?」
「みんなの衣装姿!!」
「……衣装?」
「うん! 絶対似合うと思う!」
俺が力強くうなずくと、アレンは少し照れたように笑った。
「ありがとう。ミナトにそう言ってもらえると嬉しいよ」
…………。
主人公の笑顔、今日もまぶしい。
その隣では、カイルが静かに資料を確認している。
「衣装は展示の内容に合わせて、魔法使いらしいものにする予定だ」
「魔法使いの衣装……!」
俺は思わず両手を握りしめた。
ローブ?
マント?
装飾のついた上着?
どれにしても、絶対に似合う。
アレンの優しい雰囲気に合う衣装と、カイルの落ち着いた雰囲気に合う衣装。
それぞれ違う魅力が出るはず。
そして、その二人が並んだら――。
「ミナトくん、戻ってきて」
「はっ!」
ノアに肩を揺さぶられ、俺は現実に帰ってきた。
危ない。
また妄想の世界へ旅立つところだった。
「そんなに衣装が楽しみなんだ?」
「当たり前だろ!」
「ふふっ。じゃあ、ミナトくん自身の衣装も楽しみにしておいてね」
「……え?」
俺自身?
…………。
そういえば。
俺も展示係だった。
「…………俺も着るの?」
「もちろん」
ノアはにっこり笑った。
「みんな一緒だよ、ミナトくん」
……。
……まあ。
それはそうか。
俺だけ制服というわけにもいかないよな。
よし。
推しカプのためなら、衣装くらい喜んで着ようじゃないか!
◆ ◆ ◆
翌日の放課後。
俺たちは衣装を試着するため、学院の衣装室に集まっていた。
部屋には、黒や紺を基調としたローブや、銀色の刺繍が入った上着が並んでいる。
「うわあ……!」
思わず声が漏れた。
「すごい! 本格的だ!」
「学院の備品だからね。過去の学園祭でも使われていたものらしいよ」
アレンが説明してくれる。
「この辺りが魔法展示用かな」
カイルが紺色のローブを手に取った。
「アレンにはこっちが合いそうだ」
「え? これ?」
カイルが差し出したのは、白い装飾が入った淡い青色のローブだった。
アレンはそれを受け取り、嬉しそうに目を輝かせた。
「ありがとう! カイルが選んでくれたんだね」
「……色が合うと思っただけだ」
「そうかな? 僕も好きな色だよ」
…………。
………………。
カイルがアレンの衣装を選んだ。
しかも。
アレンが嬉しそうに受け取った。
何ですか、この自然なやり取り。
付き合ってないのに、互いの好みを理解している感じ。
いや、まだ公式では恋人じゃない。
でも俺は知っている。
この二人は、ゆっくりと互いを特別な存在にしていくのだ。
「ミナトくん、また顔がにやけてる」
「にやけてない」
「いや、にやけてるよ」
「これは自然現象です」
「何の?」
「尊さを浴びたときに起きる現象です」
「そんな現象、初めて聞いたなあ」
ノアは楽しそうに笑った。
……この人、絶対に俺で遊んでる。
◆ ◆ ◆
「着替えてきたよ」
試着室のカーテンが開いた。
最初に出てきたのは、アレンだった。
淡い青色のローブに、白い刺繍。
腰には細い銀色のベルトがあり、胸元には学院の紋章が飾られている。
普段の制服より少し華やかで、アレンの柔らかい雰囲気によく似合っていた。
「…………」
俺は息をのんだ。
「ど、どうかな?」
アレンが少し恥ずかしそうに尋ねる。
「…………」
「ミナト?」
「めちゃくちゃ似合ってる!!!!」
「うわっ!?」
「すごい! え、何!? 主人公!? いや主人公だけど!!」
「み、ミナト、落ち着いて!」
「落ち着けるわけないだろ!!」
アレンは困ったように笑った。
「ありがとう。そんなに喜んでもらえるとは思わなかったよ」
喜ぶよ!!
喜ぶに決まってるだろ!!
アレンの優しさと衣装の上品さが完璧に合っている。
しかも本人が少し照れている。
これはもう、学院祭のパンフレットの表紙にするべきでは!?
「……アレン、次は俺だ」
カイルが試着室に入っていった。
俺は姿勢を正した。
来る。
来るぞ。
カイル・衣装チェンジイベントが!!
そして数分後。
カーテンが開いた。
「……どうだ?」
カイルは濃紺のローブを身にまとっていた。
肩には銀色の留め具。
胸元には控えめな刺繍。
全体的に装飾は少ないのに、すっきりとした立ち姿のおかげで、ものすごく様になっている。
アレンが目を丸くした。
「わあ……! カイル、すごく似合ってる!」
「そうか?」
「うん! かっこいいよ!」
「…………」
カイルが少しだけ黙った。
それから、視線をそらした。
「……ありがとう」
……。
……。
……。
カイル、照れてる!!!!
俺はその場で崩れ落ちそうになった。
アレンの素直な褒め言葉。
それを受けて、ちょっと照れるカイル。
しかも二人とも、相手の衣装をちゃんと見て褒めている。
お互いを見ている。
尊い。
尊いよ。
この世界の空気まで甘く感じる。
「ミナトくん、立って。まだ自分の衣装を着てないでしょ」
「……はい」
ノアに腕を引っ張られながら、俺は何とか立ち上がった。
でも、心の中ではずっと叫んでいた。
公式カップルの衣装合わせ、最高です!!!!
「次はレオンだね」
ノアが試着室の方を見た。
「……ああ」
レオンは黒を基調とした衣装を手に取った。
黒いローブに、青灰色の刺繍。
襟元には銀色の留め具があり、学院の紋章が胸元に飾られている。
……いや。
待って。
その色合い。
黒髪に、青灰色の瞳。
普段から完成されているのに、そこに黒いローブと銀色の装飾を足すんですか?
盛りすぎでは?
「じゃあ、着替えてくる」
レオンが試着室へ入っていった。
俺はごくりと息をのんだ。
正直に言おう。
レオンは、普段からかっこいい。
これは認める。
認めるけれど、俺にとっては推しカプの幸せを見届けることが最優先。
レオンはその次。
……いや、別に順位をつける必要はないけど!
とにかく、俺は冷静でいる。
冷静に衣装姿を確認するだけだ。
そう。
これは展示の準備。
何もおかしなことはない。
「……待たせた」
カーテンが開いた。
そして。
「…………」
俺の思考が、止まった。
黒いローブが、レオンの長身によく似合っていた。
銀色の装飾は派手すぎず、青灰色の刺繍が黒い布地に映えている。
いつもより少し大人びて見える。
冷静な表情も相まって、まるで学院の公式ポスターから抜け出してきたみたいだった。
「……どうした、アステル」
レオンが俺を見る。
「…………」
「おい」
「…………え?」
やっと声が出た。
「レオン……」
「何だ」
「……その衣装、すごく似合ってる」
「…………」
レオンが一瞬、目を見開いた。
俺はそれどころじゃなかった。
「いや、ほんとに! めちゃくちゃ似合ってる! 色も合ってるし、装飾もすごくきれいだし! 普段もかっこいいけど、今日のレオンはなんかこう……完成度がすごい!!」
「……完成度?」
「そう! 完成度!!」
何を言ってるんだ、俺は。
もっと他に言い方があるだろ。
でも、本当にそう思ったんだから仕方ない。
レオンはしばらく黙っていた。
そして、小さく視線をそらした。
「……そうか」
その耳が、ほんの少し赤くなっていた。
「……ありがとう」
…………。
え?
今、ありがとうって言った?
しかも、ちょっと照れてる?
え?
レオンって、こういうとき照れるんだ!?
俺は目を輝かせた。
「レオンって、意外と照れ屋なんだね!」
「…………は?」
空気が止まった。
ノアが顔を覆った。
アレンはきょとんとしている。
カイルは静かに視線をそらした。
そしてレオンは――。
「……照れていない」
「えっ、でも耳が赤いよ?」
「これは暑いだけだ」
「えっ、衣装ってそんなに暑いの?」
「…………アステル」
「はいっ!」
「少し黙れ」
「はい!!」
……怒られた。
でも、怒られても仕方ない。
俺が余計なことを言ったのは事実だ。
ただ、ひとつだけ分かった。
レオンは、褒められると少し照れる。
新発見である。
今後のために、記憶しておこう。
……いや、今後って何のためだよ。
◆ ◆ ◆
衣装合わせがひと段落したあと。
俺は鏡の前で、自分の衣装を確認していた。
俺が着ることになったのは、白と紺を基調にしたシンプルなローブだった。
装飾は少なめだけど、袖口に小さな銀色の刺繍が入っている。
「おお……」
思ったより、ちゃんとした格好だ。
「ミナトくん、似合ってるよ」
ノアが後ろから声をかけてきた。
「本当?」
「うん。普段よりちょっと大人っぽく見える」
「へへ、ありがとう!」
俺が笑うと、ノアも笑った。
そのとき。
「……アステル」
振り返ると、レオンが立っていた。
「その衣装で問題なさそうだな」
「うん! 思ってたより着やすい!」
「そうか」
レオンは俺を見て、少しだけ目を細めた。
「……似合っている」
「…………」
…………。
………………。
「えっ!?」
思わず聞き返した。
「今、何て!?」
「似合っていると言った」
「俺が!?」
「お前以外に誰がいる」
「いや、そうだけど!!」
待って。
レオンに褒められた。
衣装を褒められた。
しかも、似合っているって。
「……ありがとう!!」
嬉しくなって、俺は思いっきり笑った。
レオンは一瞬だけ固まった。
それから、すぐに視線をそらした。
「……どういたしまして」
その様子を、ノアは見逃さなかった。
「…………」
にやり。
ノアの口元が、楽しそうに上がった。
「ねえ、レオン」
「何だ」
「ミナトくんに褒められたときも、ミナトくんを褒めたときも、ちょっと照れてない?」
「照れていない」
「ふーん?」
「……ノア」
「はいはい。これ以上は言わないよ」
そう言いながら、ノアはまったく反省していない顔をしていた。
俺は二人を見比べた。
「何の話?」
「何でもないよ、ミナトくん」
「……そうだ。何でもない」
二人の声が重なった。
俺は思わず笑った。
「また息ぴったり!」
「「違う」」
……まただ。
本当に、この二人は仲がいい。
俺が笑っていると、レオンは困ったように眉を寄せた。
けれど、その表情はどこか柔らかかった。
◆ ◆ ◆
衣装合わせが終わり、俺たちはそれぞれ帰る準備をしていた。
アレンとカイルは、明日の展示の打ち合わせをしている。
「明日は実演の順番を確認しよう」
「うん! カイル、時間ある?」
「ああ。放課後なら大丈夫だ」
「じゃあ、一緒にやろう!」
「分かった」
……ああ。
今日も尊い。
明日も供給がある。
俺は幸せだ。
「ミナトくん、帰ろうか」
ノアに声をかけられ、俺はうなずいた。
「うん!」
ところが、歩き出そうとしたところで。
「……アステル」
レオンに呼び止められた。
「ん?」
「明日の練習だが、少し早めに来られるか」
「練習?」
「ああ。今日の衣装に合わせて、魔法の見せ方も確認しておきたい」
「もちろん! 行くよ!」
「そうか。なら、実習室で待っている」
「分かった!」
俺が元気よく返事をすると、レオンはうなずいて歩き去った。
その背中を見送りながら、俺は思った。
レオンって、本当に面倒見がいい。
最初はちょっと怖い人かと思ったけど、今は全然そんなことない。
教え方も上手だし、ちゃんと褒めてくれるし。
「……いい友達ができたなあ」
ぽつりと呟いた。
隣のノアが、ぴたりと足を止めた。
「……友達?」
「うん!」
「……そっか」
ノアは何か言いたそうな顔をした。
でも、結局何も言わず、ふっと笑った。
「ミナトくんって、本当にすごいね」
「え? 何が?」
「何でもないよ」
「またそれ!?」
ノアは笑いながら歩き出した。
俺もその後を追いかける。
夕暮れの学院は、オレンジ色の光に包まれていた。
学園祭の準備は順調。
アレンとカイルは今日も仲がいい。
ノアは相変わらず面白い。
レオンは頼りになる。
俺は今の生活が、すごく好きだ。
だからこそ、まだ気づかない。
レオンが俺を褒めたとき、ほんの少しだけ嬉しそうだった理由も。
俺が笑うと、レオンの視線が自然とこちらへ向いてしまう理由も。
そして――。
レオン自身も、まだ気づいていなかった。
衣装姿のミナトを見たとき。
いつもより少しだけ、目を離しにくかったことに。

