毒餌として捨てられた妖狐は、鬼神様の初恋でした

毒餌に選ばれたのが偶然自分だっただけで、美々子と自分に差はないこと。

でも、日々、美々子より劣った存在だと非難されることで、自分の確信も揺らいでいた。
洗脳のように自分が役に立つのは毒餌としてだけだと刷り込まれた。


そして、実際に鬼の花嫁選定会に赴くことになった時、心がポキっと折れてしまった。
両親も双子の姉も、初恋の凛介さえも彼女が餌になることを当然と思っている。

(誰も惜しいと思ってくれない命になんの価値があるのだろう)

 妖術で化け、妖狐の証である髪を黒くし可愛らしい十六歳の少女、塚田直子を作り上げた。
 本当の狐塚直(こづかなお)は妖狐らしく近寄りがたい銀髪の妖艶な美女だ。



 しかしながら、その姿は絶世の美女と評判の双子の姉と瓜二つになってしまう。
 結婚式は直子の希望であげなかった。



『呼べる親戚がいないので』

 決して嘘ではない事実を紡ぐと何も突っ込まれなかった。

正式に鬼神家に嫁いだ直子は今宵から影一郎と寝室を共にする。



 ♢♢♢

 ゆっくりと、扉開けると中は薄暗く香の煙がゆるやかに漂っている。
 空気そのものが重く、妖であるはずの直子の喉さえ、きゅうと締めつけた。

 今日、正式に直子の夫となる鬼神影一郎はそこにいた。

 三十年後に自分を喰らい、そして死ぬ存在。

 直子は深く息を吸い、ゆっくりと膝を折った。

 震えそうになる心を必死で押さえ込む。


「今宵より、よろしくお願いします」
 声は、うまく出ただろうか。

 十六歳の娘の声に、聞こえただろうか。


 沈黙が落ちる。
 そして、影一郎は小さく呟く。

「三十年か⋯⋯」
直子は一瞬だけ顔を上げてしまった。
影一郎の紫水晶の眼が真っ直ぐにじっとこちらを見ている。



「影一郎様、私の顔に何かついてますか?」
「いや、本当の直子とはいつ会えるのかと考えていただけだ」



(気づかれている?)
そう直感した瞬間、血の気が引いた。

けれど、彼は何も言わず、静かに微笑む。


「長いようで、短いな。先を考えると寂しくなる」
 障子越しの淡い光が影一郎の横顔を白く縁取っていた。

 その表情は穏やかで、からかう色も試す色もない。

(だめだ情が移ってはいけない)

 三十年後、この人は死ぬ。
 自分が殺すのだ。