毒餌として捨てられた妖狐は、鬼神様の初恋でした

「ふふっ。黙っていた方が正解ですわよ。焼いても狐肉など食べられたものではありませんもの。この“人間?”の花嫁様の仰ること残念ながら事実でしょ」



 直子は思わず千雪を見る。
 澄んだ青い瞳に自分まで囚われてしまいそうで怖くなり目を逸らし、周りを見渡してみた。


 侮辱されているというのに、千雪の魅惑の力に当てられ周囲の男たちの頬は緩んでいる。

 直子はその様子に微かな恐れを覚えつつも毅然と告げる。



「金額はこちらで指定いたします」


 提示された慰謝料は屋敷をいくつも買えるほどの額だった。



「直子さんや。今日は凛介様のお誕生日なんだ。少しは寛容になれないものか」
 その額に口を挟んだのは直子の実父、狐塚崇仁。

 直子は完全に実家を含む妖狐一族への未練が完全になくなった。

 直子は凛介に向き直り笑顔を向けた。

 その笑顔に凛介は安心感を覚える。

(やはり、直子は僕を好きなんだ)

 しかし、彼の期待は直子の次の言葉によって裏切られた。

「凛介様、百三歳のお誕生日おめでとうございます。退屈するくらい誕生日を何度も迎えられるからといって、間違いが許される回数が増える訳ではありません。歳を取る度に恥を増やさぬよう祈っております」

 直子の言葉に千雪が手を叩きながら笑う。

 雪女の力か、周囲の男たちは彼女に導かれるように拍手をした。

 祝いのムードは失われた中、直子と影一郎は妖狐の屋敷を後にしようとしていた。

 直子は視線を感じ振り向くと両親が彼女を睨みつけていた。



「妖狐の一族の方がお土産があるみたいなので、お話を聞いてきますね」

「ああ」

 影一郎は戸惑いつつも、直子のやりたいようにさせる。

 それ程に彼は彼女を信用していた。

 直子になら裏切られても良いとさえ、影一郎は思っていた。

(俺の命は直のものだ)

 直子が選ぶのなら、どんな結果であっても受け入れる。

 それが毒餌と勘付きながら、彼女を花嫁として娶った覚悟だった。



「何かご用ですか?」

「直、まさか、録音機を用意していたとはな」

 父、崇仁が小声で直子を非難する。

 息を吐くように嘘をつく狐の家系でも、この小さな機械がもたらした証拠の前には言い訳をしようがない。