毒餌として捨てられた妖狐は、鬼神様の初恋でした

 いつから捨てられたと考えたら気が狂いそうだ。

 直子は生まれた瞬間から、鬼殺しのために仕込む予定の爆弾だったのだ。



 双子の姉の美々子は、人の姿に化けて女学校に通い、ドレスも着物も宝石も欲するもの全てを与えられた。
美々子の誕生日には盛大なパーティーでが屋敷で開かれた。

 表向き、狐塚家の娘は美々子だけ。
 直子はその存在を隠されていた。

 蔵の中に閉じ込められ、一週間に一度の食事を工夫し食い繋ぐ生活。

 そして、彼女の自尊心を奪うよう毎日のように「出来損ない」という言葉を浴びせられた。



 そんな「出来損ないの」彼女が姿形を変え、人間のフリをして鬼の花嫁として選ばれるとは本人が一番信じられていない。

 それもそのはず、直子は自己肯定感が低く操作されているだけで非常に優秀なのだ。

 同族の役に立てるのなら。

 自分ひとりが消えるだけで、鬼の頂点を殺せるのなら。



 ーー違う、全員殺すんだ。一族もろとも皆殺しだ。



 毒餌の花嫁は、鬼の一族の頂点に立つ鬼神家に放り込まれた。

 鬼の一族は直子を歓迎した。

 妖狐の一族で虐げられていたのが嘘のようだった。


 それでも、畳に座るたび直子の背筋が自然と伸びてしまうのは、ここが自分の死に場所だと身体が理解しているからだった。


『私を三十年後に召し上がる際はどうぞ皆さんで』

 微笑みながら直子が発した言葉に、周りは感動していた。


『どちらにしろ、そうするつもりだ。君が鬼の一族の命を繋いでいくのだから』

 影一郎から掛けられた言葉を、直子は冷めた心で聞いていた。



 鬼は妖の中で戦闘能力では最強だ。

 しかし、彼らは人肉を食べないと生きていけない。
 それ故に、昔から鬼は人間の敵とされていた。

 だが、今、鬼は人間たちと共生し尊敬されされている。


 慈善活動をし、貧しきものを助ける鬼を人間は自分たちの仲間のように受け入れていた。
 花嫁制度により人を喰らっているのに、鬼を恐れなくなった人間を直子は愚かに感じていた。



(鬼は人間を餌としか見てないのにね⋯⋯)

 鬼神家に到着してからというもの、直子は幾度となく影一郎の言葉に心を乱されることとなる。