緑子は即座に答えた。
「まぁ、ずいぶんと、可憐な召使いですこと」
美々子は扇子の向こうで、妖艶に微笑んだ。
「こらこら、美々子。そなたが誘惑していいのは僕だけだよ」
凛介は楽しげに笑い、彼女の銀髪に軽く口づける。
その言葉に、美々子はくすりと笑い凛介の耳たぶを舐めるように口づけた。
甘く、濡れた空気がその場に満ちる。
――妖の人生は長い。
見た目は二十歳前後で止まっていても、彼らは既にに百年を生きている。
百年生きて、ようやく一人前とされる世界。
その悠久の時を生きる者同士の戯れは、どこか現実味を欠き、艶やかで不気味だった。
光一も影一郎も、まだこの世界に出て二十年ほどだ。
だから、まだ一人前ではない。
本来なら光一を次期当主として他の妖に紹介するのは時期尚早だった。
影一郎は視線を伏せる。
艶かしく凛介の体を撫でる美々子に吐き気を覚えて見ていられなかった。
胸の奥に、得体の知れないざわめきが広がる。
(こういう女に気味の悪さを覚えるのは、俺の中に人間の血が混じっているからか)
妖狐の屋敷の門は、ゆっくりと閉ざされていく。
そこに取り残された影一郎は、冬の空気の中で静かに拳を握り締めた。
寒そうな門番を見て、外の気温は相当低いのだと影一郎は思った。
(俺を苦しめる雪女の血が俺の体を温めてるなんて皮肉だな)
その時、影一郎と同じように黒いベールを被った女が現れた。
ベール越しにも美しい女と分かる
「こちらへ」
艶っぽい声は先程聞いた不快な女の声に似ているのに、どこか優しく心地良さを感じた。
影一郎は、その女に導かれるまま妖狐の屋敷の敷地内へと足を踏み入れた。
門の脇に立つ番の者たちは、確かにそこにいるはずなのに誰一人としてこちらを見ようとしない。
まるで、現れた女を最初から“見えないもの”であるかのように意図的に視線を逸らしている。
女は影一郎の手を引き、本邸とは反対の方向へ歩いていく。
整えられた庭を抜けた先、古びた蔵のような建物の前で足を止めた。
壁にはひびが入り瓦屋根には苔が生えている。
祝いの場から切り離された、時間に取り残された場所だった。
蔵の中はひんやりとしていたが、風は遮られていた。
「あんな所で突っ立っていたら、凍えてしまうわ」
「まぁ、ずいぶんと、可憐な召使いですこと」
美々子は扇子の向こうで、妖艶に微笑んだ。
「こらこら、美々子。そなたが誘惑していいのは僕だけだよ」
凛介は楽しげに笑い、彼女の銀髪に軽く口づける。
その言葉に、美々子はくすりと笑い凛介の耳たぶを舐めるように口づけた。
甘く、濡れた空気がその場に満ちる。
――妖の人生は長い。
見た目は二十歳前後で止まっていても、彼らは既にに百年を生きている。
百年生きて、ようやく一人前とされる世界。
その悠久の時を生きる者同士の戯れは、どこか現実味を欠き、艶やかで不気味だった。
光一も影一郎も、まだこの世界に出て二十年ほどだ。
だから、まだ一人前ではない。
本来なら光一を次期当主として他の妖に紹介するのは時期尚早だった。
影一郎は視線を伏せる。
艶かしく凛介の体を撫でる美々子に吐き気を覚えて見ていられなかった。
胸の奥に、得体の知れないざわめきが広がる。
(こういう女に気味の悪さを覚えるのは、俺の中に人間の血が混じっているからか)
妖狐の屋敷の門は、ゆっくりと閉ざされていく。
そこに取り残された影一郎は、冬の空気の中で静かに拳を握り締めた。
寒そうな門番を見て、外の気温は相当低いのだと影一郎は思った。
(俺を苦しめる雪女の血が俺の体を温めてるなんて皮肉だな)
その時、影一郎と同じように黒いベールを被った女が現れた。
ベール越しにも美しい女と分かる
「こちらへ」
艶っぽい声は先程聞いた不快な女の声に似ているのに、どこか優しく心地良さを感じた。
影一郎は、その女に導かれるまま妖狐の屋敷の敷地内へと足を踏み入れた。
門の脇に立つ番の者たちは、確かにそこにいるはずなのに誰一人としてこちらを見ようとしない。
まるで、現れた女を最初から“見えないもの”であるかのように意図的に視線を逸らしている。
女は影一郎の手を引き、本邸とは反対の方向へ歩いていく。
整えられた庭を抜けた先、古びた蔵のような建物の前で足を止めた。
壁にはひびが入り瓦屋根には苔が生えている。
祝いの場から切り離された、時間に取り残された場所だった。
蔵の中はひんやりとしていたが、風は遮られていた。
「あんな所で突っ立っていたら、凍えてしまうわ」
